2018 年 151 巻 2 号 p. 75-86
スクロオキシ水酸化鉄(ピートル®チュアブル錠250 mg,500 mg)は酸化水酸化鉄(Ⅲ)/スクロース/デンプンから構成された鉄を約20%含有する経口リン(P)吸着薬であり,現在,透析中の慢性腎臓病(CKD)患者における高P血症の改善を適応として使用されている.スクロオキシ水酸化鉄は消化管内のpHを模した溶液(pH 2,5,8)のいずれにおいてもリン酸吸着能を示すとともに,ラットへのリン酸溶液(pH 2,5,8)負荷後の血清P濃度上昇を抑制し,その程度はpH間で差は見られなかった.また,慢性腎不全ラットの血清P濃度,カルシウム・P積および副甲状腺ホルモン濃度を低下させ,血管石灰化を軽減し骨代謝異常を抑制した.以上より,スクロオキシ水酸化鉄は消化管内のpH範囲で安定して血清P濃度を低下させることにより,高P血症に伴う異所性石灰化ならびに骨代謝異常の進展を抑制することが示された.ピートル®チュアブル錠(以下,本薬)は直径15 mm超の錠剤であることから,ドーナツ型の窒息防止構造とした.本薬は消化管内で錠剤が崩壊することにより食物中のPを吸着するが,錠剤の未崩壊は消化管障害(腸管穿孔等)の要因になり得ることから,崩壊性を確認した結果,本薬はいずれの液性(pH 1.2,4.0,6.8)でも速やかに崩壊した.また,本薬中の鉄の体内への取り込みを評価する目的で,食事中の胃内pHを想定した溶液(pH 4.0)での3価鉄(第二鉄)の溶解を検討した結果,溶解が少ないことが確認された.以上より,本薬は消化管内で速やかに崩壊するとともに,鉄が過剰に体内に取り込まれる可能性が低いことが示唆された.臨床試験において,本薬は1回1錠,1日3回で投与1週から血清P濃度低下効果を示し,長期に亘って安定した血清P濃度の管理が可能であった.また,既存の高P血症治療薬と同程度以上の血清P濃度の低下効果を示した.さらに,患者の服薬錠数の負荷を軽減し,服薬アドヒアランスの改善が期待された.主な副作用は下痢であったが,ほとんどが軽度であり,服薬継続が可能であった.また,鉄関連パラメータの上昇傾向が認められたが,本薬による鉄吸収はわずかであり,鉄過剰のリスクは低いと考えられた.以上,本薬はCKD患者における高P血症に対して有効性および安全性が確認されたことから,高P血症治療の選択肢として有用であることが期待される.