日本薬理学雑誌
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151 巻, 2 号
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特集:日本における動物実験代替法の新たなる技術展開
  • 宮崎 博之, 吉山 友二
    2018 年 151 巻 2 号 p. 48-51
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    動物実験代替法は,動物実験の3Rs(Replacement,Reduction,Refinement)を前提としている.動物実験代替法の利用は,EU指令により同域内での動物実験が禁止された化粧品を始めとして,化学物質,医薬品,医療機器,農薬において世界的な潮流となっている.本稿では,日本における動物実験代替法研究の歩みについて述べるとともに,その技術的側面としての細胞培養,非哺乳動物,非脊椎動物及びin silicoにおけるReplacementの開発に関する最近の話題について述べる.

  • 小島 肇夫
    2018 年 151 巻 2 号 p. 52-55
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    動物実験を用いない代替法については,遺伝毒性・内分泌かく乱・局所毒性試験のin vitro試験法の開発が一段落し,化学物質,農薬,医薬品および化粧品の安全性評価において行政的な利用が進んでいる.日本も経済協力開発機構(OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development)等における試験法開発で貢献してきた.世界の潮流は全身毒性(反復投与毒性,発がん性,免疫毒性,生殖毒性等)代替法の開発に向かっている.特に生理学的薬物動態PBPK(physiologically based pharmacokinetic)モデル,トキシコキネティクスの開発が盛んである.日本においても全身毒性試験のin vitro試験法,in silicoの利用検討が始まった.

  • 酒井 康行, 篠原 満利恵
    2018 年 151 巻 2 号 p. 56-61
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    近年,動物愛護という社会的要請や,科学的根拠に基づいた人体でのより正確な応答予測を求めるという科学的要請から,非動物試験手法の開発とその利用促進が世界的に強く求められている.将来の人体応答評価においては,iPS/ES細胞技術や様々な先進培養技術を利用したin vitroの生理学的培養システムにて生物学的データを取得し,それを数理シミュレーションにて個体まで積み上げることになろう.本稿では,基本となる生理学的培養組織モデル構築に焦点を当て,生体組織工学の観点から細胞の三次元化と酸素供給というin vitroで相反する問題の解決や,近年発展が著しいorgan(s) on-a-chipの現況,さらに残された課題等について述べた.

  • 斎藤 幸一, 鈴木 紀之, 小林 久美子
    2018 年 151 巻 2 号 p. 62-68
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    化学物質の安全性評価において動物実験は大変重要な位置づけを占めてきた.しかし,欧州の化粧品開発における動物実験の全面禁止に見られるような動物福祉の高まり等により,近年,動物実験代替法の開発が非常に重要となっている.動物実験代替法開発において,刺激性試験や感作性試験といった局所毒性に関する試験法の開発が先行している.一方,慢性毒性,発生毒性等の全身毒性の代替法試験開発は開発途上にある.我々は培養細胞を用いた代替法開発において,細胞ソースとしてES/iPS細胞に代表される多能性幹細胞に着目し全身毒性の発生毒性や神経毒性の代替法研究を進めてきた.発生毒性の代替法試験としては,マウスES細胞の心筋分化過程を利用した簡便な代替法試験法であるHand1-Luc EST法と神経の分化過程を利用したTubb3およびReln-Luc EST法を開発した.また,最近Hand1-Luc EST法とTubb3およびReln-Luc EST法は組み合わせると発生毒性の予測精度が向上することを明らかにした.マウスES細胞由来の神経細胞を用いたin vitro神経毒性試験開発においてはハイコンテントイメージング技術を利用した神経突起伸展評価法,また,成熟後の神経機能の評価系として多点電極を用いた神経機能の影響評価法を開発した.その他,理化学研究所との共研で実施したヒトES/iPS細胞からの網膜組織への分化誘導法開発と,その成果を活用したヒトES細胞由来の網膜色素上皮細胞(RPE)を用いたin vitro光毒性試験開発の現状ついても紹介する.

創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流(19)
  • 鈴木 真
    2018 年 151 巻 2 号 p. 69-74
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    創薬研究において動物実験は必要不可欠な存在であり,製薬企業や受託機関で新規化合物の薬としての効力,安全性,あるいは動態などを評価する実験が行われている.しかし,動物実験を実施することにはリスクを伴う.一つは,動物実験で得られた成績を基に開発を進めていくが,臨床試験で期待通りの薬効が発現しない,想定外の副作用が発現する,あるいは想定外の薬物動態等の原因で開発中止になることである.他のリスクとして,社会は無条件で動物実験を容認しているわけではないので,動物福祉に配慮していない企業であるという評判がたつと,それが風評被害であったとしても企業イメージを損なうことである.そこで,企業は,外挿性の高い成績を得るために,動物福祉に配慮した動物実験施設を運営することに努め,また,動物福祉に配慮した研究者・研究所であることを実証するために国内外の第三者評価を受けて,企業イメージを損なわないようにも努めている.

新薬紹介総説
  • 立道 聡, 中垣 史哲, 芳岡 正一, 七里 夏子
    2018 年 151 巻 2 号 p. 75-86
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    スクロオキシ水酸化鉄(ピートル®チュアブル錠250 mg,500 mg)は酸化水酸化鉄(Ⅲ)/スクロース/デンプンから構成された鉄を約20%含有する経口リン(P)吸着薬であり,現在,透析中の慢性腎臓病(CKD)患者における高P血症の改善を適応として使用されている.スクロオキシ水酸化鉄は消化管内のpHを模した溶液(pH 2,5,8)のいずれにおいてもリン酸吸着能を示すとともに,ラットへのリン酸溶液(pH 2,5,8)負荷後の血清P濃度上昇を抑制し,その程度はpH間で差は見られなかった.また,慢性腎不全ラットの血清P濃度,カルシウム・P積および副甲状腺ホルモン濃度を低下させ,血管石灰化を軽減し骨代謝異常を抑制した.以上より,スクロオキシ水酸化鉄は消化管内のpH範囲で安定して血清P濃度を低下させることにより,高P血症に伴う異所性石灰化ならびに骨代謝異常の進展を抑制することが示された.ピートル®チュアブル錠(以下,本薬)は直径15 mm超の錠剤であることから,ドーナツ型の窒息防止構造とした.本薬は消化管内で錠剤が崩壊することにより食物中のPを吸着するが,錠剤の未崩壊は消化管障害(腸管穿孔等)の要因になり得ることから,崩壊性を確認した結果,本薬はいずれの液性(pH 1.2,4.0,6.8)でも速やかに崩壊した.また,本薬中の鉄の体内への取り込みを評価する目的で,食事中の胃内pHを想定した溶液(pH 4.0)での3価鉄(第二鉄)の溶解を検討した結果,溶解が少ないことが確認された.以上より,本薬は消化管内で速やかに崩壊するとともに,鉄が過剰に体内に取り込まれる可能性が低いことが示唆された.臨床試験において,本薬は1回1錠,1日3回で投与1週から血清P濃度低下効果を示し,長期に亘って安定した血清P濃度の管理が可能であった.また,既存の高P血症治療薬と同程度以上の血清P濃度の低下効果を示した.さらに,患者の服薬錠数の負荷を軽減し,服薬アドヒアランスの改善が期待された.主な副作用は下痢であったが,ほとんどが軽度であり,服薬継続が可能であった.また,鉄関連パラメータの上昇傾向が認められたが,本薬による鉄吸収はわずかであり,鉄過剰のリスクは低いと考えられた.以上,本薬はCKD患者における高P血症に対して有効性および安全性が確認されたことから,高P血症治療の選択肢として有用であることが期待される.

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