2018 年 151 巻 4 号 p. 140-147
インスリン抵抗性とは,骨格筋,脂肪細胞,肝臓などで,インスリンに対する感受性が低下した病態を指す.インスリン抵抗性では,インスリンによる正常なグルコース(糖)代謝が障害されているため,2型糖尿病の発症につながる.近年,社会の高齢化や都市化に伴う食生活の変化や運動量の減少によって,2型糖尿病患者が急増していることから,インスリン抵抗性の病態基盤の解明は,焦眉の課題となっている.グルコースは,脳,骨格筋,脂肪,内臓などで代謝・利用されているが,全身のグルコース利用に対する各組織の寄与率は大きく異なる.健常者の骨格筋におけるグルコース利用率は,全身の70%を占めているが,2型糖尿病患者では,骨格筋におけるグルコース利用率が特異的に半減している.このことは,骨格筋におけるインスリン抵抗性が2型糖尿病の発症に関与している可能性を示唆している.血管収縮性・炎症性ペプチドであるエンドセリン-1(ET-1)は,インスリン抵抗性を惹起することが報告されているが,その詳細な発症機序は不明である.本研究では,ラットL6筋管細胞を用いて,インスリンシグナルに対するET-1の作用を薬理学的に解析した.L6筋管細胞において,インスリンは,PI3キナーゼの活性化を介して,Aktのリン酸化とグルコースの取り込みを促進した.ET-1は,インスリンによるAktリン酸化とグルコース取り込みを抑制し,このET-1の抑制作用は,選択的エンドセリンA型受容体(ETAR)遮断薬や選択的Gq/11タンパク質阻害薬の前処理及びsiRNAによる内在性Gタンパク質共役型受容体キナーゼ2(GRK2)の発現抑制によって解除された.また,ET-1は,AktとGRK2との相互作用を増強した.以上の結果から,L6筋管細胞において,ETAR及びGRK2が,ET-1によるインスリンシグナルの抑制に関与していると考えられた.