抄録
イネ種子貯蔵タンパク質はプロラミンとグルテリンから構成され、それぞれ小胞体由来のプロテインボディ(PB)-Iと液胞由来のPB-IIに集積している。小胞体で合成されたグルテリン前駆体は液胞由来のPB-IIに輸送され、成熟型として集積する。本研究の目的はグルテリンの集積過程の制御機構を明らかにすることである。
材料にはグルテリン前駆体を多量に蓄積する変異体(57H変異体)を用いた。
57H変異体の一つesp2変異体では、グルテリン前駆体がプロラミンと共に小胞体由来の変異型PBに蓄積していた。この変異体の胚乳では、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)がタンパク質レベル、RNAレベルで欠損していた。これらの結果はPDIが小胞体でのグルテリン前駆体とプロラミンの選別に作用することを示している。
他の57H変異体、glup3変異体では、グルテリン前駆体が成熟型グルテリンと共に液胞由来のPBIIに集積していた。Glup3候補遺伝子は液胞内でタンパク質を成熟型に変える酵素(VPE)とアミノ酸レベルで高い相同性を示した。glup3変異体では当該候補遺伝子においてアミノ酸置換を伴う1塩基置換を検出した。glup3変異体の胚乳ではVPE活性の顕著な減少が認められた。これらの結果は、VPEが液胞内においてグルテリンの前駆体型から成熟型への限定分解に作用することを示している。