日本薬理学雑誌
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特集:遺伝子改変マウスを用いた新しい創薬・薬理学研究の展開
新規遺伝子ノックアウトマウスを用いた脳内ヒスタミンクリアランス系の解明
吉川 雄朗中村 正帆谷内 一彦
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2018 年 152 巻 1 号 p. 16-20

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抄録

ヒスタミンは脳内では神経伝達物質として機能している.ヒスタミン神経は視床下部後部に位置する結節乳頭核に細胞体を有し,その神経線維を脳全体に投射する.これまでの研究により,ヒスタミン神経系の機能低下が様々な神経疾患と関連している可能性が示された.我々はシナプス間隙に放出されたヒスタミンの除去機構を抑制することで,ヒスタミン神経系を活性化し神経疾患の治療へと結びつけたいと考え,未解明の課題であったヒスタミンのクリアランス機構の解明に着手した.まず初代培養ヒトアストロサイトを用いた研究を行い,細胞外のヒスタミンがorganic cation transporter(OCT)3およびplasma membrane monoamine transporter(PMAT)によって細胞内へと輸送され,その後histamine N-methyltransferase(HNMT)によって不活化される,という分子機構を明らかにした.次にHNMTの生体における役割を明らかにするため,HNMT欠損マウスを新規に作製し,表現型を解析した.その結果,HNMTが脳内ヒスタミン濃度制御において中心的な役割を担っていることが示された.またHNMT欠損によりヒスタミンが異常高値となると,ヒスタミンH2受容体を介して高い攻撃性が惹起されること,H1受容体を介して睡眠覚醒サイクルに異常を来すことも明らかとなった.OCT3とPMATの脳内における役割については,セロトニン神経系やドパミン神経系との関連は報告されているものの,ヒスタミン神経系におけるこれらのトランスポーターの役割については不明な点が多い.現在我々はPMAT欠損マウスの表現型解析,およびHNMT阻害薬探索研究を行っている.今後トランスポーターとヒスタミン神経系との関連を解明することや中枢ヒスタミン系を標的とした創薬に尽力していきたいと考えている.

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