緑内障,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性及び網膜色素変性症などの網膜疾患は主要な失明原因である.しかし,これらの病態の発症及び進展機構は十分解明されておらず,新規な治療薬の開発が望まれている.これまで,これらの網膜疾患の病態解明ならびに新規治療薬の開発のために,マウス及びラットを中心とした齧歯類を用いた多くの実験動物モデルが確立され,使用されてきた.しかし,齧歯類には視覚にとって最も重要な黄斑が存在しないなど網膜・視神経の組織構造がヒトと大きく異なっている.したがって,網膜疾患の病態形成機構がヒトと齧歯類では異なっている可能性が懸念され,さらに齧歯類における薬理効果をそのままヒトに外挿することは難しい.また,近年の医薬品の多くは抗体医薬を含めたバイオ医薬品に占められているが,特に抗ヒト抗体は齧歯類との交差性の問題などから薬効を齧歯類で評価すること自体ができない場合が多い.一方,非ヒト霊長類はヒトと同様に黄斑を有しており,網膜・視神経は解剖学的にヒトに類似している.したがって,アカゲザルやカニクイザルなどが網膜疾患の実験動物モデルとして広く使用されている.本稿では,非ヒト霊長類を用いた網膜疾患モデルの確立及びそれらを用いた創薬アプローチについて,著者らの最新の研究成果を中心に概説する.