日本薬理学雑誌
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特集:消化器疾患のUp-to-date:発症メカニズムから最新の治療戦略まで
マウス炎症性腸疾患モデルにおける血管内皮TRPV4の発現増大と病態への関与
松本 健次郎加藤 伸一
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2018 年 152 巻 4 号 p. 170-174

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抄録

温度感受性受容体TRPV4は27~35°Cの温度だけでなく,多くの物理的刺激や内因性カンナビノイドやアラキドン酸などにより活性化する非選択性陽イオンチャネルである.本研究ではDSS誘起炎症性腸疾患モデルにおけるTRPV4の局在変化と病態への関与について検討を行った.DSS処置は,WTマウスでは,顕著な体重減少,下痢・下血を誘起し,7日目には大腸の短縮,ミエロペルオキシゲナーゼ活性の増大および組織学的傷害を惹起した.これらの変化は,TRPV4KOマウスではいずれも有意に抑制された.TRPV4作動薬であるGSK1016790Aの結腸内投与は,DSS誘起大腸炎を有意に悪化させた.骨髄キメラマウスを用いた検討において,DSS誘起大腸炎は,ドナーがWTおよびTRPV4KOにかかわらず,レシピエントがTRPV4KOの場合に有意に抑制された.正常時では,TRPV4は上皮細胞に局在が確認されたが,DSS処置により,粘膜および粘膜下の血管にTRPV4発現が顕著に増加した.TRPV4の免疫活性は,内皮細胞マーカーCD31や血管内皮細胞間接着因子であるVE-cadherinと共局在が観察された.DSS処置は血管透過性を亢進させたが,この増大はWTと比較してTRPV4KOでは有意に抑制された.GSK1016790Aの静脈内投与は,DSS処置による血管透過性の亢進をさらに増大させたが,この作用はTRPV4拮抗薬RN1734の静脈内投与により抑制された.マウス大動脈由来内皮細胞株において,TNF-αおよびGSK1016790Aの併用処置は,JNKシグナルの活性化を介してVE-cadherin発現を有意に低下させた.本研究の結果から,DSS誘起大腸炎の病態にTRPV4が関与することが判明した.TRPV4は大腸炎発症時には病変部の血管内皮に顕著に発現増大し,血管透過性の亢進に関与しているものと推察された.

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