日本薬理学雑誌
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特集:消化器疾患のUp-to-date:発症メカニズムから最新の治療戦略まで
NASHの発症に関わる活性酸素産生酵素NOX1/NADPHオキシダーゼ
松本 みさき
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2018 年 152 巻 4 号 p. 181-186

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抄録

非アルコール性脂肪肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)は肥満と強く相関した疾患である.このうち肝細胞障害,炎症,線維化を示すnon-alcoholic steatohepatitis(NASH)の発症には複数の因子が関わるとされているが,そのひとつに活性酸素種の関与が提唱されている.著者の研究グループは活性酸素産生酵素NOX1/NADPHオキシダーゼの発現がNASH患者の肝生検検体および高脂肪・高コレステロール食を負荷したNAFLDモデルマウスの肝臓で有意に増加していることを見出した.そこで野生型(WT)およびNox1遺伝子欠損マウス(Nox1-KO)に高脂肪・高コレステロール食を8週間給餌したところ,WTで認められた肝障害マーカー,血清alanine aminotransferase(ALT)および肝組織中の活性型caspase-3の増加はNox1-KOで抑制されることが明らかとなった.また酸化ストレスマーカーであるニトロチロシンはマウスの肝類洞に局在しており,NAFLDモデルで有意に増加していたがNox1-KOでは抑制されていた.NOX1は肝類洞内皮細胞(LSECs)に多く発現しており,初代培養LSECsにおけるNOX1の遺伝子発現はパルミチン酸共存下で有意に増加した.さらにパルミチン酸はLSECsにおける一酸化窒素産生を抑制し,星細胞に対する弛緩作用を消失させた.これらのパルミチン酸による内皮機能障害はNox1-KO LSECsでは認められなかった.以上のことから,NAFLDモデルマウスでは血中に増加する遊離脂肪酸によってLSECsにおけるNOX1発現が誘導され,NOX1由来の活性酸素が内皮機能障害および肝細胞障害を惹起し,NASHの発症に寄与する可能性が示された.

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