理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-27
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ポスター発表
前方リーチ課題における速度の違いによるリーチ距離と関節角度について
實 結樹丸毛 達也石井 達也成塚 直倫白石 和也
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抄録

【はじめに,目的】動的バランスの指標の一つとして,Functional Reach Test(以下,FRT)が挙げられる.この評価法は臨床上簡便で再現性が認められている.また,手段的ADL・身体能力にかかわるADLと相関することも示されている.しかし,FRTの方法は様々であり,規定されていないことで計測値が異なることがある.FRTは姿勢制御課題であり,姿勢制御は速度により変化すると言われている.したがって,実施速度により計測値が変化することが予想される.実際に,高齢になるほどリーチ速度が遅くなることが榎本らにより報告されており,速度による影響が予測される.しかし,高齢者を対象とした場合には加齢変化による他の影響も考えられる.したがって,今回は年齢の影響を除外した上で,速度による影響を明らかにすることを研究目的とした.【方法】対象は,下肢に病的機能障害の認められない健常成人24 名とした.対象者は,肩峰・大転子・外側膝関節裂隙中央・外果・第5 中足骨頭にマーカーを貼り,リーチ課題を行った.前方リーチの測定は,両上肢を90°前方拳上させた肢位を開始肢位とし,2 つの方法で測定を行った.前方最大位置までリーチをする方法と(以下,自由リーチ),できるだけ速い速度で前方最大位置までリーチをする方法(以下,最速リーチ)をそれぞれ2 回ずつ測定した.また,開始肢位と最大リーチ位での高さの規定は行わなかった.踵が拳上した場合や前方に一歩踏み出した場合は,測定をやり直した.その際,市販のデジタルカメラで右側方からリーチ動作を撮影した.撮影した動画からVirtual Dubを用いて,開始肢位と最大リーチ位の静止画に変換した.変換した静止画を動画解析ソフトimage Jを用いて,理学療法士1 名が股関節屈曲角度変化・足関節底屈角度変化を求めた.重心動揺測定において,使用機器は重心動揺計(フィンガルリンク株式会社Win-Pod足圧分布測定装置)を使用し,重心前後移動距離を測定した.リーチ距離は身長で,重心前後移動距離は足長で正規化した値を使用した.自由リーチと最速リーチにおける,各データの2 群比較を実施した.統計処理には,統計ソフトR2.8.1 を用いて,対応のあるt検定を行った.いずれも有意水準は5%(p<0.05)とした.【倫理的配慮,説明と同意】本研究に対して,被験者には説明のうえ,口頭・書面にて同意を得た.また,研究計画や個人情報の取り扱いを含む倫理的配慮に関しては,ヘルシンキ宣言に則り当院倫理委員会の承認を得た.【結果】対象者の基本属性は、24 名 (男性:17 名,年齢:23.3 ± 1.6 歳,身長:167.8 ± 7.4cm,体重:60.2 ± 6.3kg,足長:24.5 ± 1.4cm)であった.自由リーチ,最速リーチにおいて,リーチ距離は33.1 ± 5.62cm,29.4 ± 6.0cm,リーチ距離/身長は0.20 ± 0.028,0.17 ± 0.031,重心前後移動距離は52.6 ± 19.0mm,45.9 ± 19.7mm,重心前後移動距離/足長は0.22 ± 0.077,0.19 ± 0.089,股関節角度変化は59.6 ± 11.6°,55.1 ± 9.6°,足関節角度変化は10.9 ± 3.4°,11.7 ± 4.0°であった.リーチ距離(p<0.01),重心前後移動距離(p<0.05),股関節角度変化(p<0.01)において有意差がみとめられた.【考察】本研究では,リーチ動作時の速度が大きいほど,リーチ距離・重心前後移動距離・股関節角度変化が小さかった.また,足関節角度変化に有意な差は生じなかったが,傾向としては速度が大きいほど足関節は底屈位となることが示された.支持基底面の周辺では,股関節ストラテジーが有意に働くと言われており,速い運動に対しては股関節固定性を高めて姿勢制御を行ったと考えられる.そのため,股関節屈曲が減少し,足関節底屈は変化せずにリーチを行ったと考える.関節運動が小さくなったことで,リーチ距離・重心前後移動距離も自由リーチと比較し,有意に小さくなったと考える.藤原らは,上肢拳上運動の速度や運動時間に対応して,局所筋と姿勢筋の開始順序や姿勢筋の活動量が変化することを示しており,これは随意的な運動時の予測的姿勢制御によるものだと述べている.速度が大きくなることで,より予測的な姿勢制御に基づいたリーチ動作の制御が行われた可能性がある.そのため,最速リーチでは,自由リーチと比較し,筋活動のタイミングや活動量が変化したと推測される.これらのことから,前方リーチの速度が大きくなることで,予測的姿勢制御による股関節ストラテジーの使用を減少させることが示された.【理学療法学研究としての意義】前方リーチの速度が大きくなることで,リーチ距離や関節角度が小さくなった.目的とする評価に応じて速度を変化させる必要があることが示された.

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© 2013 日本理学療法士協会
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