日本薬理学雑誌
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特集:脳における善玉・悪玉としてのレドックスシグナルと脳疾患・老化への新たなアプローチ
神経細胞の生死を司るガスメディエーターの病態生理学的役割
三上 義礼
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2018 年 152 巻 5 号 p. 233-239

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抄録

レドックスシグナル分子の中でも,ガスメディエーター(Gas mediator)は,小分子で生理活性を持ち生体恒常性の維持やシグナル応答において重要な役割を果たしている.硫化水素(H2S)は毒ガスとして知られるガス状分子であるが,生体内で産生され脳では海馬長期増強(LTP)促進などの生理機能を有する.さらに,神経細胞を酸化ストレスから保護する作用も知られており,光受容細胞において細胞内Ca2+濃度を低く保ち光障害から細胞を保護する.神経系以外でも,心筋を虚血再灌流障害から保護すること,抗炎症作用を持つことなど多くの細胞保護作用が報告され,近年ではH2Sを放出する化合物を用いた創薬が進んでいる.一酸化窒素(NO)は広義の神経伝達物質としての機能を持つ.NOはタンパク質を構成するシステイン側鎖をS-ニトロシル化修飾することが報告されており,小胞体に局在するCa2+放出チャネルである1型リアノジン受容体(RyR1)も修飾を受けるタンパク質のひとつである.RyR1は3636番目のシステインがS-ニトロシル化修飾を受けて活性化し,細胞質へCa2+を放出する(NO-induced Ca2+ release:NICR).脳梗塞に伴う細胞死へのNICRの関与が2012年に報告され,病態生理学的な役割が示唆された.そこで,3636番目のシステインをアラニンに変異させたノックインマウスを用いて調べた結果,このマウスではNICRが起こらず,側頭葉てんかんモデルにおいてNICRを介した神経細胞死が抑制されることが示された.本総説では,ガスメディエーターが神経細胞保護を担う〝善玉〟の部分と,神経細胞死を誘導する〝悪玉〟の部分の二面性について,レドックスシグナルトしての作用に着目しつつ,最近の研究成果を交えて解説する.

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