日本薬理学雑誌
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152 巻 , 5 号
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特集:脳における善玉・悪玉としてのレドックスシグナルと脳疾患・老化への新たなアプローチ
  • 渋谷 典広
    2018 年 152 巻 5 号 p. 216-222
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/02
    ジャーナル フリー

    硫化水素(H2S)は,シグナル分子としての機能が発見されて以来,生理活性物質として注目されている.その作用は,神経伝達調節,平滑筋弛緩,細胞保護,インスリン分泌調節など多岐に及ぶ.生体内でH2Sが産生されることは比較的古くから見出されており,ピリドキサールリン酸(PLP)依存性のシスタチオニンβ-シンターゼ(CBS)とシスタチオニンγ-リアーゼ(CSE)がl-システインからH2Sを産生する酵素として知られている.これまでCBSとCSEがH2S産生酵素として重視されていたが,筆者らは,脳内の産生酵素を探索して以来,3-メルカプトピルビン酸サルファートランスフェラーゼ(3MST)に注目している.3MSTの基質は,光学活性をもたない3-メルカプトピルビン酸(3MP)であり,l-システインとα-ケトグルタル酸からシステインアミノトランスフェラーゼ(CAT)によって供給される.CAT-3MSTは,生理的環境下では活性が低いとの理由から関心が払われていなかったが,意外なことに脳ではCBS以上に多くのH2Sを産生できる.その後,3MPがd-システインからd-アミノ酸オキシダーゼ(DAO)によって供給されることが新たにわかり,DAO-3MSTの特異なH2S産生能も明らかとなった.興味深いことに,3MSTはH2Sのみならずポリサルファイド(H2Sn)を産生できる.H2Snは,H2Sよりも強力なアストロサイト活性化作用を持つことから,神経伝達増強因子としての関心が高まっている.最近の検討では,過硫化システイン(CysSSH)や過硫化グルタチオン(GSSH)が3MSTによって産生されることも明らかとなった.CysSSHとGSSHは,その高い抗酸化活性から新規レドックス制御因子として注目される分子種である.これらの生体内硫黄化合物は,精神・神経疾患や血圧制御,がん増殖因子の制御等への関与が示唆されていることから,一連の産生機構の解明を通じて様々な疾患治療薬の開発につながることが期待される.

  • 立中 佑希
    2018 年 152 巻 5 号 p. 223-226
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/02
    ジャーナル フリー

    タンパク質は,様々な翻訳後修飾を受けることにより,その機能がコントロールされている.タンパク質システインのチオール基修飾は,代表的な翻訳後修飾の一つであり,生体内のレドックス変化に応答して生じる.タンパク質S-ニトロシル化は,一酸化窒素(NO)によって起こる重要な翻訳後修飾であり,転写やタンパク質発現,シグナル伝達などの様々な細胞機能の制御に関与していることが明らかにされている.チオール基の酸化還元状態を検出する手法の一つに,チオール基と反応するマレイミド試薬を用いてゲル電気泳動によるゲルシフトアッセイ法が利用されているが,この手法を用いることでタンパク質中のフリーのチオール基数を可視化することができる.マレイミドAMSおよびポリエチレングリコール-マレイミドPEG-Malは,一般に,タンパク質の還元状態と酸化状態とを区別するために使用されてきた.しかしこれらには課題があり,我々はこれらを克服した新規高分子チオールラベル化剤PEG-PCMalを開発した.PEG-PCMalは従来のマレイミド試薬より,バンドがシャープで大きい移動度をもち解析が容易である.さらに,光切断可能なPC(photo cleavable)リンカーを有し,電気泳動後のゲルにUV光を照射することで,ラベル化されたタンパク質からPEG鎖を切り離すことができるため,PEG鎖の影響を受けることなく,目的タンパク質をウエスタンブロットで検出することが可能である.本研究では,新しいマレイミド試薬PEG-PCMalを用いたタンパク質S-ニトロシル化の解析を試みた.

  • 柿澤 昌
    2018 年 152 巻 5 号 p. 227-232
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/02
    ジャーナル フリー

    生体内では,スーパーオキシドや過酸化水素などの活性酸素種(ROS),一酸化窒素(NO),硫化水素などのレドックス分子が産生され,タンパク質や脂質などの生体分子に酸化還元反応を介した修飾(レドックス修飾)を施し,それら生体分子の機能に影響を与える.従来の概念では,レドックス分子は,酸化ストレスと言う言葉に代表されるように,生体内においては代謝の副産物として産生され,非特異的作用を介して他分子の機能を阻害することで,老化や生活習慣病,神経疾患等の原因因子となると考えられてきた.一方で,一酸化窒素合成酵素(NOS)を始め,各レドックス分子の合成酵素の同定と分子機能の解析が進み,脳においてもレドックス分子が発現し,少なくとも一部の合成酵素については,その活性が調節を受けている可能性が示された.これらの知見は,レドックス分子が脳において必要に応じて産生され,何らかの機能的役割,生理機能を担っていることを示唆する.実際に,脳における主要な神経伝達物質であるグルタミン酸作動性シナプスの可塑性に関連して,イオンチャネル型グルタミン酸受容体自身や受容体の膜移行を制御するタンパク質が,NOによるS-ニトロシル化修飾を介して分子機能が影響を受ける例が,主に培養細胞を用いた系で,複数,報告されている.さらに近年,カルシウム放出チャネルの一種,1型リアノジン受容体のS-ニトロシル化を介した活性化による新規細胞内カルシウム放出機構,一酸化窒素依存的カルシウム放出(NICR)が同定され,小脳シナプス可塑性等への関与が示されている.今後,レドックスシグナルの標的となる分子と修飾を受けるシステインの同定が進むとともに,遺伝子改変動物を用いた細胞~個体レベルでの機能解析の進展により,レドックスシグナルの生理的役割の理解がさらに深まることが期待される.

  • 三上 義礼
    2018 年 152 巻 5 号 p. 233-239
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/02
    ジャーナル フリー

    レドックスシグナル分子の中でも,ガスメディエーター(Gas mediator)は,小分子で生理活性を持ち生体恒常性の維持やシグナル応答において重要な役割を果たしている.硫化水素(H2S)は毒ガスとして知られるガス状分子であるが,生体内で産生され脳では海馬長期増強(LTP)促進などの生理機能を有する.さらに,神経細胞を酸化ストレスから保護する作用も知られており,光受容細胞において細胞内Ca2+濃度を低く保ち光障害から細胞を保護する.神経系以外でも,心筋を虚血再灌流障害から保護すること,抗炎症作用を持つことなど多くの細胞保護作用が報告され,近年ではH2Sを放出する化合物を用いた創薬が進んでいる.一酸化窒素(NO)は広義の神経伝達物質としての機能を持つ.NOはタンパク質を構成するシステイン側鎖をS-ニトロシル化修飾することが報告されており,小胞体に局在するCa2+放出チャネルである1型リアノジン受容体(RyR1)も修飾を受けるタンパク質のひとつである.RyR1は3636番目のシステインがS-ニトロシル化修飾を受けて活性化し,細胞質へCa2+を放出する(NO-induced Ca2+ release:NICR).脳梗塞に伴う細胞死へのNICRの関与が2012年に報告され,病態生理学的な役割が示唆された.そこで,3636番目のシステインをアラニンに変異させたノックインマウスを用いて調べた結果,このマウスではNICRが起こらず,側頭葉てんかんモデルにおいてNICRを介した神経細胞死が抑制されることが示された.本総説では,ガスメディエーターが神経細胞保護を担う〝善玉〟の部分と,神経細胞死を誘導する〝悪玉〟の部分の二面性について,レドックスシグナルトしての作用に着目しつつ,最近の研究成果を交えて解説する.

受賞講演総説
  • 泉 安彦
    2018 年 152 巻 5 号 p. 240-245
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/02
    ジャーナル フリー

    パーキンソン病と関連が深い黒質-線条体系ドパミン神経投射機構の解明は,発達期の脳形成過程を考えるうえで重要であるだけでなく,失われた神経回路を再生する治療法の開発にも寄与する.神経回路の形成過程の研究には優れた培養系が必要であり,これまでに用いられてきた培養技術を振り返りながら,著者が確立した神経軸索伸長の新たな評価系を紹介したい.ドパミン神経軸索はいくつかの軸索誘導分子により線条体へ誘導されるが,線条体に到達したドパミン神経軸索が線条体全体に伸展する機序は明らかではなかった.そこで,ドパミン神経による線条体神経支配を再構築できるin vitro培養系の確立とそのメカニズム解明を試みた.ラット胎仔から調製した中脳細胞と線条体細胞を隔離壁を挟んで同一平面上に播種した.細胞接着後,隔離壁を取り除き培養すると,中脳細胞側から線条体細胞側へのドパミン神経軸索伸長とシナプス形成が観察された.このドパミン神経突起伸長は,ドパミン神経に発現するインテグリンα5β1を阻害することで抑制された.さらに,インテグリンα5を過剰発現したドパミン神経を線条体細胞上に播種したところ,通常のドパミン神経より突起伸長が促進した.分散細胞培養を利用した本評価系は,比較的高いスループット性を有し,薬理学的・遺伝学的操作が容易であるため,神経回路形成の研究において有用なツールになると考えられる.また,その成果として,ドパミン神経による線条体神経支配を促進する分子としてインテグリンα5β1を見出したことは,中脳-線条体系ドパミン神経投射の再生に寄与すると期待される.

新薬紹介総説
  • 谷田 宣文, 秋山 勝彦, 寺原 孝明
    2018 年 152 巻 5 号 p. 246-255
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/11/02
    ジャーナル フリー

    アレサガ®テープは第2世代抗ヒスタミン薬であるエメダスチンフマル酸塩を有効成分とする世界初の経皮吸収型アレルギー性鼻炎治療剤である.エメダスチンフマル酸塩は強力な抗ヒスタミン作用に加えて,ケミカルメディエーター遊離抑制作用,好酸球遊走抑制作用によりアレルギー性鼻炎の症状を改善すると考えられている.ラットヒスタミン誘発血管透過性亢進モデルを用いた薬効評価において,本剤は用量依存的な抗ヒスタミン作用を示し,その作用は投与後24時間まで持続していた.季節性アレルギー性鼻炎を有する患者を対象とした薬物動態試験において,本剤は1日1回の投与で,投与7回目までに定常状態に達した.季節性アレルギー性鼻炎患者を対象とした第Ⅲ相比較試験において,本剤は鼻症状(くしゃみ発作,鼻汁及び鼻閉)に対して有効性を示し,1日を通して効果が持続した.通年性アレルギー性鼻炎患者を対象とした長期投与試験において,安全性に問題は認められず,投与期間を通して長期にわたり血中薬物濃度が維持され,効果の減弱は認められなかった.以上のことから,アレサガ®テープはアレルギー性鼻炎治療の新たな選択肢を提供できると考えられる.

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