日本薬理学雑誌
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受賞講演総説
ドパミン神経軸索伸長の新たな評価系の確立とその制御因子に関する研究
泉 安彦
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2018 年 152 巻 5 号 p. 240-245

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抄録

パーキンソン病と関連が深い黒質-線条体系ドパミン神経投射機構の解明は,発達期の脳形成過程を考えるうえで重要であるだけでなく,失われた神経回路を再生する治療法の開発にも寄与する.神経回路の形成過程の研究には優れた培養系が必要であり,これまでに用いられてきた培養技術を振り返りながら,著者が確立した神経軸索伸長の新たな評価系を紹介したい.ドパミン神経軸索はいくつかの軸索誘導分子により線条体へ誘導されるが,線条体に到達したドパミン神経軸索が線条体全体に伸展する機序は明らかではなかった.そこで,ドパミン神経による線条体神経支配を再構築できるin vitro培養系の確立とそのメカニズム解明を試みた.ラット胎仔から調製した中脳細胞と線条体細胞を隔離壁を挟んで同一平面上に播種した.細胞接着後,隔離壁を取り除き培養すると,中脳細胞側から線条体細胞側へのドパミン神経軸索伸長とシナプス形成が観察された.このドパミン神経突起伸長は,ドパミン神経に発現するインテグリンα5β1を阻害することで抑制された.さらに,インテグリンα5を過剰発現したドパミン神経を線条体細胞上に播種したところ,通常のドパミン神経より突起伸長が促進した.分散細胞培養を利用した本評価系は,比較的高いスループット性を有し,薬理学的・遺伝学的操作が容易であるため,神経回路形成の研究において有用なツールになると考えられる.また,その成果として,ドパミン神経による線条体神経支配を促進する分子としてインテグリンα5β1を見出したことは,中脳-線条体系ドパミン神経投射の再生に寄与すると期待される.

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