日本薬理学雑誌
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特集:創薬・再生医療を指向した幹細胞の階層性/系譜の分子理解
エピジェネティクスを介したヒト多能性細胞由来神経幹/前駆細胞のアストロサイト分化能獲得における酸素濃度の影響
安井 徹郎中島 欽一
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2019 年 153 巻 2 号 p. 54-60

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抄録

中枢神経系を構成する主要な細胞種であるニューロンやグリア細胞(アストロサイトとオリゴデンドロサイト)は,共通の神経幹/前駆細胞から分化・産生される.しかし神経幹/前駆細胞は,発生初期からこれら細胞への多分化能を持っているわけではなく,胎生中期においてまずニューロンのみへの分化能を獲得し,発生が進行した胎生後期にようやくグリア細胞への分化能も獲得して多分化能を持った細胞となる.この現象は,胚性幹(ES)細胞や人工多能性幹(iPS)細胞を含む多能性細胞から神経幹/前駆細胞を経て各種神経系細胞をin vitroで分化誘導する際にも同様に見られるが,ヒト多能性細胞由来神経幹/前駆細胞の場合は,げっ歯類などの場合と比べ,グリア細胞への高率な分化誘導には長期間の培養が必要であった.最近我々は,ヒト多能性細胞由来神経幹/前駆細胞のアストロサイト分化能力獲得において,酸素濃度がエピジェネティックな遺伝子発現制御機構を介して重要な役割を果たすことを見出し,この分子生物学的な制御機構の応用として,神経疾患関連アストロサイトの早期機能解析法を開発した.そこで本章では,神経幹/前駆細胞の多分化能獲得の基本的な概念について説明するとともに,エピジェネティックな遺伝子発現制御機構を利用することの有効性について,最新の知見を踏まえて概説する.

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© 2019 公益社団法人 日本薬理学会
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