日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
153 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
特集:創薬・再生医療を指向した幹細胞の階層性/系譜の分子理解
  • 安井 徹郎, 中島 欽一
    2019 年 153 巻 2 号 p. 54-60
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/02/09
    ジャーナル フリー

    中枢神経系を構成する主要な細胞種であるニューロンやグリア細胞(アストロサイトとオリゴデンドロサイト)は,共通の神経幹/前駆細胞から分化・産生される.しかし神経幹/前駆細胞は,発生初期からこれら細胞への多分化能を持っているわけではなく,胎生中期においてまずニューロンのみへの分化能を獲得し,発生が進行した胎生後期にようやくグリア細胞への分化能も獲得して多分化能を持った細胞となる.この現象は,胚性幹(ES)細胞や人工多能性幹(iPS)細胞を含む多能性細胞から神経幹/前駆細胞を経て各種神経系細胞をin vitroで分化誘導する際にも同様に見られるが,ヒト多能性細胞由来神経幹/前駆細胞の場合は,げっ歯類などの場合と比べ,グリア細胞への高率な分化誘導には長期間の培養が必要であった.最近我々は,ヒト多能性細胞由来神経幹/前駆細胞のアストロサイト分化能力獲得において,酸素濃度がエピジェネティックな遺伝子発現制御機構を介して重要な役割を果たすことを見出し,この分子生物学的な制御機構の応用として,神経疾患関連アストロサイトの早期機能解析法を開発した.そこで本章では,神経幹/前駆細胞の多分化能獲得の基本的な概念について説明するとともに,エピジェネティックな遺伝子発現制御機構を利用することの有効性について,最新の知見を踏まえて概説する.

  • 坂本 智子, 前 伸一, 長船 健二, 岡田 千尋, 樺井 良太朗, 渡辺 亮
    2019 年 153 巻 2 号 p. 61-66
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/02/09
    ジャーナル フリー

    ヒトを構成する細胞は,教科書的には300種類以上あると言われてきたが,近年のシングルセル遺伝子発現によって,これまで同一と考えられてきた細胞種のなかにも不均一性があることが示され,少なくとも数千種類におよぶ細胞が存在することが明らかとなった.このような多種多様な細胞は1個の受精卵から発生するが,この多様性を生み出す運命決定機構は未だ不明なことが多い.分化・発生メカニズムを解き明かすためには,各過程における個々の細胞の挙動を正確に捉えることが必要不可欠である.現在,シングルセルの単離およびcDNA合成をマイクロフルイディクスや油中水滴型ドロプレットを用いて自動化した機器が市販され,多細胞を低コストで解析できるシングルセルRNAシーケンスが爆発的に普及している.これらのシングルセル解析は,細胞ごとの遺伝子発現パターンの比較を行うことで,従来法では難しかった個々の細胞の「不均一性の検出」および「擬似時系列解析」を可能とし,細胞分化過程を描写する有用な手法となっている.今回,これからシングルセル解析を始めようと思っている研究者向けに,シングルセルRNAシーケンスの特徴をまとめた.どのプラットフォームも一長一短があるため,それらを十分理解した上で,解析対象の細胞に合った手法を選択することが,より良い結果を得るためにも必要不可欠である.また,後半では,iPS細胞から胎生期の腎前駆細胞である尿管芽へ分化させる培養系を用いて,分化誘導過程における遺伝子発現をシングルセルレベルで解析した具体例を示しつつ,これらの解析で得られた知見を培養系へフィードバックし,効率的かつ選択的な尿管芽の作製方法の確立に成功した一例を紹介したい.

  • 河邊 憲司, 宝田 剛志
    2019 年 153 巻 2 号 p. 67-72
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/02/09
    ジャーナル フリー

    間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell:MSC)は組織幹細胞の一種である.臨床研究に使用されるヒト骨髄由来培養MSCは免疫抑制作用を持つことで,様々な疾患への良好な治療成績が報告されている.しかしながら,生体個体レベルにおけるMSCの性質は不明な点が多く,MSCの系譜/階層性の分子理解はほとんど進んでいない.我々は,遺伝子改変マウスを使用した解析から,肢芽等の未分化間葉系組織に認められるpaired related homeobox 1(Prrx1)陽性細胞は,骨格形成過程の一時期に重要な役割を果たす幹/前駆細胞ポピュレーションを形成することを見出した.Prrx1陽性細胞内の不均一性を解析したところ,Prrx1陽性細胞には,幹細胞性の高いPrrx1Sca1集団と,分化指向性を持ったPrrx1Sca1集団が存在し,骨芽細胞分化系譜においては,Prrx1Sca1細胞,Prrx1Sca1細胞,Prrx1Sca1Osterix前骨芽細胞,そしてPrrx1Sca1TypeI Collagen成熟骨芽細胞が存在し,これらの細胞が順次分化・成熟することで骨形成が起きることがわかった.Runt-related transcription factor 2(Runx2)は,MSCから骨芽細胞へと分化する際に働く必須の転写制御因子である.Runx2コンディショナル欠損マウスを使用することで,Prrx1陽性細胞の骨芽細胞分化系譜においては,Prrx1Sca1細胞からPrrx1Sca1Osterix細胞になるまでの間に,骨形成のうえでRunx2が必須の役割を持つことが分かった.「どのような幹細胞が,どのような細胞となり,どのような機能に重要なのか?」を生体個体レベルで明らかにすることは,従来知られていなかったcell populationの同定だけでなく,疾患病態の理解や,新たな治療候補分子の発見につながる可能性がある.

総説
  • 三浦 昌朋
    2019 年 153 巻 2 号 p. 73-78
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/02/09
    ジャーナル フリー

    分子標的抗がん剤の血中濃度は効果と相関するとされており,血中濃度の値を指標に初回の標準投与量を個々の患者に適した投与量へと調節する治療薬物濃度モニタリング(TDM)が臨床において導入されている.日本では現在イマチニブと腎細胞がん治療薬スニチニブに対して,TDM実施によって診療報酬が得られている.TDMを実施することで,これまでに寛解率の向上,寛解達成に至るまでの時間の短縮,生存期間の延長,逸脱率の低下,医薬品費の抑制など多くのメリットが確認されている.しかしTDMの実施には,最小有効濃度(MEC)と最小中毒濃度(MTC)のいずれかあるいは両者を明確にしておく必要がある.MTC以上では,抗がん剤による重篤な副作用を発現するリスクが高く,MEC以下では十分な抗腫瘍効果を期待できない.それゆえMECとMTCの間に抗がん剤の血中濃度を収めるように,投与量を調節しながら治療を進める.今,個々の分子標的抗がん剤において,これらMECとMTCというマーカーを見出す臨床研究が求められている.抗がん剤による治療開始前に行われる精密化に加え,治療開始後の精密化(個別化)を図り,個々の患者に適切な抗がん剤,そして適切な投与量でプレシジョン・メディシンを,一貫して実施していくことが望まれる.そのためには一方で,血中濃度を測定する高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の分析機器の正確性も求められる.本総説では,がん領域におけるTDMの意義について述べる.

新薬紹介総説
  • 中野 眞, 青木 優人, 山口 英世
    2019 年 153 巻 2 号 p. 79-87
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/02/09
    ジャーナル フリー

    ラブコナゾールは,強力な抗真菌活性に加えて薬物相互作用や肝機能障害の懸念が少ないことを特徴とする第4世代のアゾール系抗真菌薬である.そのプロドラッグとして新たに創薬されたのがホスラブコナゾールl-リシンエタノール付加物(以下 ホスラブコナゾール,製品名:ネイリン®カプセル100 mg)である.ラブコナゾールは,皮膚糸状菌,カンジダ属などを含む様々な病原真菌に対して強い抗真菌活性を有する.加えて,プロドラッグ化することにより薬物動態が向上し,経口投与後の生物学的利用能は約100%に達した.その結果,ラブコナゾールの血漿中濃度は既存の経口爪白癬治療薬に比べて10~35倍も高くなり,皮膚・爪組織への移行性および組織貯留性も良好である.これらの優れた薬効薬理および薬物動態上の特性を背景に,ホスラブコナゾールを日本人爪白癬患者に1日1回1カプセル(ラブコナゾールとして100 mg)12週間経口投与する試験を行った結果,爪中ラブコナゾール濃度は治療終了後も皮膚糸状菌に対するMIC90を超えて長期間維持された.さらにプラセボ対照二重盲検比較試験の成績から,有意に高い治療効果(治療開始48週後の完全治癒率:59.4%,著効率:83.1%,直接鏡検による菌陰性化率:82.0%)が示された.これらの国内臨床試験で認められた副作用は,主に臨床検査値異常と胃腸障害であり,重篤な症状はみられず,忍容性は高いと考えられた.ホスラブコナゾールは,薬物相互作用を引き起こすことが少なく,食事による腸管吸収への影響を受けないことに加えて,服薬期間も12週間と短くパルス療法のような休薬期間もないため,良好な服薬アドヒアランスが保持されると考えられる.このように数々の好適な薬理学的特性をもつことから,ホスラブコナゾールは爪白癬に対する内服治療の新しい選択肢として期待される.

最近の話題
訂正
feedback
Top