日本薬理学雑誌
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特集:創薬・再生医療を指向した幹細胞の階層性/系譜の分子理解
細胞運命決定機構を明らかにするシングルセル遺伝子発現解析
坂本 智子前 伸一長船 健二岡田 千尋樺井 良太朗渡辺 亮
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2019 年 153 巻 2 号 p. 61-66

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抄録

ヒトを構成する細胞は,教科書的には300種類以上あると言われてきたが,近年のシングルセル遺伝子発現によって,これまで同一と考えられてきた細胞種のなかにも不均一性があることが示され,少なくとも数千種類におよぶ細胞が存在することが明らかとなった.このような多種多様な細胞は1個の受精卵から発生するが,この多様性を生み出す運命決定機構は未だ不明なことが多い.分化・発生メカニズムを解き明かすためには,各過程における個々の細胞の挙動を正確に捉えることが必要不可欠である.現在,シングルセルの単離およびcDNA合成をマイクロフルイディクスや油中水滴型ドロプレットを用いて自動化した機器が市販され,多細胞を低コストで解析できるシングルセルRNAシーケンスが爆発的に普及している.これらのシングルセル解析は,細胞ごとの遺伝子発現パターンの比較を行うことで,従来法では難しかった個々の細胞の「不均一性の検出」および「擬似時系列解析」を可能とし,細胞分化過程を描写する有用な手法となっている.今回,これからシングルセル解析を始めようと思っている研究者向けに,シングルセルRNAシーケンスの特徴をまとめた.どのプラットフォームも一長一短があるため,それらを十分理解した上で,解析対象の細胞に合った手法を選択することが,より良い結果を得るためにも必要不可欠である.また,後半では,iPS細胞から胎生期の腎前駆細胞である尿管芽へ分化させる培養系を用いて,分化誘導過程における遺伝子発現をシングルセルレベルで解析した具体例を示しつつ,これらの解析で得られた知見を培養系へフィードバックし,効率的かつ選択的な尿管芽の作製方法の確立に成功した一例を紹介したい.

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