2019 年 154 巻 2 号 p. 72-77
肝臓および小腸は薬物の代謝や吸収,排泄に関与する臓器として薬物動態においては非常に重要である.したがって,医薬品開発においては薬物代謝酵素や薬物トランスポーターの寄与を含めて,これらの臓器における薬物動態をより正確に評価する必要がある.現在,この評価のためにさまざまな評価系が用いられているが,それぞれの評価系には少なからず課題が存在する.そこで,既存の評価系に加えて新たな評価系としてヒトiPS細胞由来肝細胞および小腸上皮細胞の開発に向けた研究が進められている.ヒトiPS細胞は多分化能とほぼ無限の増殖能を有することから,ヒト正常組織細胞と類似した性質を有する高品質の細胞を安定して供給することが可能になると考えられる.本稿では,ヒトiPS細胞由来肝細胞および小腸上皮細胞の分化誘導研究の現状と,薬物動態学的機能を中心としたこれらの細胞の有する特徴について概説する.