日本薬理学雑誌
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特集:イオンチャネル・トランスポーターを標的としたがん創薬研究の新展開
ナトリウムポンプと細胞容積調節性アニオンチャネルのがん細胞特異的な機能連関
藤井 拓人清水 貴浩竹島 浩酒井 秀紀
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2019 年 154 巻 3 号 p. 103-107

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抄録

ジギトキシンやジゴキシンは,植物由来の強心配糖体で,Na,K-ATPase(ナトリウムポンプ)の阻害薬であり,臨床で心不全および各種頻脈性不整脈の治療,予防に用いられている.一方,疫学的研究で,強心配糖体を服用している場合の発がんのリスクは非服用者に比べて低く,服用がん患者の生存率が非服用患者と比べ上昇するという報告例がある.また,強心配糖体が,Na,K-ATPaseの酵素活性やイオン輸送活性を阻害しない低濃度(サブμM)で,抗がん関連作用を有することが,各種in vitro実験で報告されている.しかし,Na,K-ATPaseは,ほぼ全ての細胞に発現しており,強心配糖体ががん細胞選択的な効果を有する機構は不明である.最近,我々は,がん細胞の原形質膜上の膜マイクロドメインにおいて,ポンプ活性を持たない受容体型Na,K-ATPaseが,細胞容積調節性アニオンチャネル(VRAC)の構成タンパク質(LRRC8A)と複合体を形成しており,両者の機能連関が,低濃度の強心配糖体によるがん細胞増殖抑制メカニズムに関与していることを明らかにした.この機構において,低濃度の強心配糖体は,受容体型Na,K-ATPaseに結合し,NADPH oxidaseによる活性酸素種産生の亢進を介して,VRACを活性化する.その結果,細胞増殖抑制が引き起こされる.VRACは,ほぼ全ての細胞に発現しており,細胞膨張により活性化されるホメオスタシス維持に必須のチャネルであるが,強心配糖体は,細胞容積変化に依存せずVRACを活性化し,細胞容積を減少させた点が興味深い.一方,低濃度の強心配糖体は,非がん細胞に対しては有意な効果を示さなかった.これらの結果は,強心配糖体のNa,K-ATPaseを介する抗がんメカニズムの全容解明の足掛かりとなり得るものと考えられる.

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