日本薬理学雑誌
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154 巻 , 3 号
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特集:イオンチャネル・トランスポーターを標的としたがん創薬研究の新展開
  • 松本 健次郎, 加藤 伸一
    2019 年 154 巻 3 号 p. 92-96
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/14
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    温度感受性transient receptor potential vanilloid 4(TRPV4)は27~35°Cの温度だけでなく,機械,化学的刺激,カンナビノイドやアラキドン酸代謝物などにより活性化する非選択性陽イオンチャネルである.本稿では,消化管におけるTRPV4の局在と病態における変化とその役割について概説した.免疫組織学的検討において,TRPV4はC57BL/6マウスの消化管に広く発現していることを観察した,特に舌において顕著であった.TRPV4の発現は,舌においてはsonic hedgehog陽性の味蕾前駆細胞(Ⅳ型)に,一方,食道,胃,小腸,大腸では主に上皮細胞に認められた.TRPV4はⅢ型味細胞への分化および増殖を制御することで,酸味の感受性に関与していることが明らかになった.デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘起潰瘍性大腸炎およびアゾキシメタン(AOM)/DSS誘起大腸炎関連がんモデルにおいて,大腸炎の程度,腫瘍数および死亡率は,いずれもTRPV4ノックアウトマウスでは有意に抑制された.TRPV4発現は,大腸炎モデルでは血管内皮に,また大腸炎関連がんモデルにおいては骨髄由来マクロファージおよび新生血管に認められた.大腸炎モデルにおいて,血管内皮に発現増大したTRPV4はJNKシグナルの活性化を介してVE-cadherin発現を有意に低下させることで血管透過性を増大し,大腸炎症の悪化に関与することが示唆された.また大腸炎関連がんモデルでは,骨髄由来マクロファージに発現したTRPV4は炎症性サイトカインTNF-αおよびケモカインCXCL2の発現増大に,また新生血管上に発現したTRPV4は血管内皮細胞の増大と遊走の促進に関与していることが明らかになった.以上より,TRPV4は,酸味の受容,大腸炎の病態および大腸炎関連がんの発生に関与していることが判明した.

  • 関口 富美子, 川畑 篤史
    2019 年 154 巻 3 号 p. 97-102
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/14
    ジャーナル 認証あり

    電位依存性Ca2+チャネルのうち,低電位で活性化されるT型Ca2+チャネルは神経の興奮性調節,神経伝達物質の自発性遊離,ホルモン分泌などに関与するが,種々のがん細胞にも発現し細胞増殖の調節にも関わっている.T型Ca2+チャネルの3つのアイソフォームのうちCav3.2は前立腺がん患者の生検サンプルのほとんどすべてに発現している.前立腺がんに対してはホルモン療法が有効であるが,治療の長期継続によりがん細胞がホルモン療法抵抗性を獲得することがある.この過程で,前立腺がん細胞の一部が神経内分泌(NE)様細胞に分化することが知られている.我々は,ヒト前立腺がんLNCaP細胞を用いてNE様分化に伴うCav3.2の挙動を解析した.その結果,NE様分化の過程でCREB/Egr-1系を介してCav3.2の発現誘導がおこること,またCav3.2のチャネル活性を上昇させるH2Sの産生酵素であるcystathionine-γ-lyase(CSE)の発現も誘導されることが判明し,増加したCav3.2のチャネル活性はCSE由来H2Sによって促進されていることを証明した.NE様分化細胞におけるCav3.2の機能増強は,細胞分裂増殖因子の分泌を亢進させることで周囲の前立腺がん細胞のアンドロゲン非依存的な増殖に寄与するのではないかと考えられる.一方,細胞外グルコース濃度が高い状態では,Cav3.2のアスパラギン(N)型糖鎖修飾が促進されてCav3.2のチャネル機能が亢進することが知られており,糖尿病性末梢神経障害との関連性に興味が持たれている.LNCaP細胞においても高グルコース条件下でNE様分化させると,Cav3.2のチャネル機能が亢進するとともに発現量も上昇することが分かった.糖尿病の合併が,前立腺がん患者の予後やホルモン療法抵抗性獲得に悪影響を及ぼすことを示す臨床報告があり,Cav3.2との関連性があるのではないかと推察される.以上のように,Cav3.2は前立腺がんの病態に関与する可能性があり,治療標的分子としても興味深い.

  • 藤井 拓人, 清水 貴浩, 竹島 浩, 酒井 秀紀
    2019 年 154 巻 3 号 p. 103-107
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/14
    ジャーナル 認証あり

    ジギトキシンやジゴキシンは,植物由来の強心配糖体で,Na,K-ATPase(ナトリウムポンプ)の阻害薬であり,臨床で心不全および各種頻脈性不整脈の治療,予防に用いられている.一方,疫学的研究で,強心配糖体を服用している場合の発がんのリスクは非服用者に比べて低く,服用がん患者の生存率が非服用患者と比べ上昇するという報告例がある.また,強心配糖体が,Na,K-ATPaseの酵素活性やイオン輸送活性を阻害しない低濃度(サブμM)で,抗がん関連作用を有することが,各種in vitro実験で報告されている.しかし,Na,K-ATPaseは,ほぼ全ての細胞に発現しており,強心配糖体ががん細胞選択的な効果を有する機構は不明である.最近,我々は,がん細胞の原形質膜上の膜マイクロドメインにおいて,ポンプ活性を持たない受容体型Na,K-ATPaseが,細胞容積調節性アニオンチャネル(VRAC)の構成タンパク質(LRRC8A)と複合体を形成しており,両者の機能連関が,低濃度の強心配糖体によるがん細胞増殖抑制メカニズムに関与していることを明らかにした.この機構において,低濃度の強心配糖体は,受容体型Na,K-ATPaseに結合し,NADPH oxidaseによる活性酸素種産生の亢進を介して,VRACを活性化する.その結果,細胞増殖抑制が引き起こされる.VRACは,ほぼ全ての細胞に発現しており,細胞膨張により活性化されるホメオスタシス維持に必須のチャネルであるが,強心配糖体は,細胞容積変化に依存せずVRACを活性化し,細胞容積を減少させた点が興味深い.一方,低濃度の強心配糖体は,非がん細胞に対しては有意な効果を示さなかった.これらの結果は,強心配糖体のNa,K-ATPaseを介する抗がんメカニズムの全容解明の足掛かりとなり得るものと考えられる.

  • 大矢 進, 鬼頭 宏彰, 梶栗 潤子
    2019 年 154 巻 3 号 p. 108-113
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/14
    ジャーナル 認証あり

    カリウムチャネル(Kチャネル)は,膜電位を調節することでカルシウム(Ca2+)シグナルを修飾し,がん細胞の増殖・移動に関与している.そのためKチャネルは,がんの発症・進行・悪性化に関与し,分子腫瘍マーカーやがん薬物療法の標的分子として注目されている.Ca2+活性化Kチャネルは電気生理学的特性の違いにより分類され,KCa1.1,KCa3.1,KCa2.1-2.3が大腸がん,乳がん,前立腺がん,腎細胞がん,肝細胞がん,メラノーマ,グリオーマに高発現している.がんエピジェネティクス研究の進展により,DNAメチル化阻害薬やヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase:HDAC)阻害薬といったエピゲノム薬が開発され,様々ながんへの臨床適応が期待されている.我々は,乳がんや前立腺がんにおいて,KCa3.1転写が選択的HDAC2/HDAC3阻害薬により抑制されることを見出した.また,乳がん,特にトリプルネガティブ乳がんの薬物治療として期待されているビタミンD受容体アゴニストや抗アンドロゲン薬が,それぞれの核内受容体シグナルを介したKCa1.1の転写抑制とタンパク質分解促進により,KCa1.1活性を阻害することを見出した.抗アンドロゲン薬によるKCa1.1活性阻害には主にタンパク質分解促進が関与しており,KCa1.1タンパク質分解の促進にユビキチンE3リガーゼFBW7やMDM2の発現亢進が関与することを明らかにした.最近,がん免疫監視システムにおけるKチャネルの役割が注目されている.我々は,インターロイキン-10(IL-10)産生性のヒトTリンパ腫細胞において,KCa3.1活性化薬がカルモジュリンキナーゼII/Smadシグナル経路を介してIL-10の発現・産生を抑制することを見出し,KCa3.1活性化薬ががん微小環境の制御性T細胞によるがん免疫監視システムからの逃避を阻止する可能性を示した.

特集:硫化水素をはじめとした生理活性イオウ研究の新展開
  • 木村 英雄
    2019 年 154 巻 3 号 p. 115-120
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/14
    ジャーナル 認証あり

    シグナル分子としての硫化水素(H2S)を提案してから20数年が経つが,神経伝達修飾,平滑筋弛緩,細胞保護,抗炎症,酸素センサー等,様々な役割が報告されている.一方,H2Sの神経伝達修飾作用機序を検討中に,アストロサイトのtransient receptor potential(TRP)チャネル活性化を介したCa2+流入惹起に関わることが分かり,さらに,この作用を惹起する分子実態がポリサルファイド(H2Sn)であることが明らかとなった.H2Sが一酸化窒素(NO)との相乗効果によって血管平滑筋を弛緩することは,H2S研究の初期に既に分かっていたが,最近になって,H2SnがH2SとNOとの相互作用によりできることが判明し,H2SとNOとの相乗効果のメカニズムのひとつと考えられるようになった.H2SやH2Snがさらに酸化されてできる亜硫酸(H2SO3)が,H2SやH2Snとは異なったメカニズムで神経細胞を酸化ストレスから保護することが分かり,これら分子の生体での重要性が注目されている.

  • 越膳 ほなみ, 花岡 健二郎
    2019 年 154 巻 3 号 p. 121-127
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/14
    ジャーナル 認証あり

    近年,硫化水素(H2S)やパースルフィドやポリスルフィドなど0,−1価の硫黄原子(sulfane sulfur)を含む分子といった活性イオウ分子の生理機能に注目が集まっており,レドックス制御や抗酸化作用等への関与が報告されている.一般に,蛍光プローブは簡便に利用でき,生細胞や組織において標的分子をリアルタイムに検出することが可能である.そこで,H2Sやsulfane sulfurの機能解明のツールとして,それぞれに対して高い感度及び選択性を示す蛍光プローブの開発に取り組んだ.H2S検出蛍光プローブHSip-1は,環状ポリアミン構造に配位した銅イオン(Cu2+)を構造中に持ち,H2Sとの反応によりCuSが形成し分子からCu2+が外れることで強い蛍光を発する.HSip-1は高い選択性及び高い感度を示し,さらに生細胞イメージングへ応用可能であることを明らかにした.また,sulfane sulfurは他の硫黄原子に可逆的に結合するというユニークな性質を示すことが知られており,その特性及びキサンテン系色素の分子内スピロ環化反応を利用し,可逆的にsulfane sulfurを検出可能なoff/on型の蛍光プローブSSip-1の開発に成功した.開発したプローブは生細胞における蛍光イメージングだけでなく,プレートリーダーを利用した阻害薬スクリーニングへの応用も可能である.我々はHSip-1を利用し,活性イオウ分子産生酵素の一つである3-mercaptopyruvate sulfurtransferase(3MST)に対する世界初の選択的阻害薬の開発に成功した.

  • 坪田 真帆, 川畑 篤史
    2019 年 154 巻 3 号 p. 128-132
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/14
    ジャーナル 認証あり

    内因性ガス状情報伝達物質である硫化水素(H2S)は,cystathionine-γ-lyase(CSE)を含む3つの異なる酵素によってL-システインから産生され,多様な分子に作用することで種々の生理的および病態生理的役割を演じている.H2SはCav3.2 T型カルシウムチャネルの活性を上昇させることで体性痛を促進し,膵臓,結腸,膀胱などにおける内臓痛を増強する.H2SはTRPA1活性化作用も有しており,H2Sによる体性痛にはCav3.2に加えてTRPA1も関与する.一方,H2Sによる結腸痛はTRPA1ノックアウトマウスでは減弱しないことから,Cav3.2がより重要な役割を果たしている.CSE/H2S/Cav3.2系の機能亢進は,神経障害性疼痛,膵炎に伴う膵臓痛,膀胱痛症候群の痛みなどに関与する.過敏性腸症候群にもCav3.2は関与するが,CSE/H2S系の役割についてはまだよくわかっていない.本総説では,H2Sによる痛みシグナルの調節とCav3.2の役割について概説する.

  • 関 貴弘
    2019 年 154 巻 3 号 p. 133-137
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/14
    ジャーナル 認証あり

    硫化水素はタンパク質の機能変化や抗酸化能増大を引き起こすシグナル分子として最近注目を集めている.また,神経保護作用を有するため,神経保護薬としての応用も期待されている.硫化水素は生体内でL-システインを原料に生合成されるが,L-システイン神経障害性を有するため,神経保護薬としての応用は困難である.一方,2013年に新たにD-システインから硫化水素を生合成する経路が同定された.この経路に含まれるD-amino acid oxidase(DAO)は脳の中では特に小脳に高発現しており,D-システインの経口投与で小脳選択的に硫化水素が産生されること,小脳初代培養神経細胞に対してD-システインはL-システインよりも強い保護作用を示すことが報告された.小脳神経の一つであるプルキンエ細胞は小脳皮質からの唯一の出力細胞であり,小脳機能において重要な役割を果たす.実際に,脊髄小脳変性症などの多くの小脳失調では小脳プルキンエ細胞の変性や樹状突起の縮小などが共通に観察される.筆者はD-システインが小脳プルキンエ細胞の保護薬となる可能性を検証するため,D-システインが小脳プルキンエ細胞に及ぼす影響を初代培養小脳細胞を用いて解析した.L-システインは高濃度でプルキンエ細胞の細胞死を誘導し,樹状突起発達を抑制した.一方で,D-システインはプルキンエ細胞や顆粒細胞の生存には影響せず,プルキンエ細胞の樹状突起発達を促進した.この樹状突起発達促進効果はDAO阻害薬の同時処置で消失し,硫化水素ドナーの処置で再現されることから,D-システインは硫化水素産生を介してプルキンエ細胞樹状突起発達を促進することが示唆された.以上の知見から,D-システインはプルキンエ細胞樹状突起発達低下を伴う小脳失調に対する保護薬として有用であることが期待できる.

総説
  • 東 洋一郎, 新武 享朗, 清水 翔吾, 清水 孝洋, 齊藤 源顕
    2019 年 154 巻 3 号 p. 138-142
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/14
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    亜鉛は多くの生体機能に関与している必須微量元素である.哺乳類の脳内において,多くの亜鉛はメタロチオネインなどタンパク質と結合して存在しているが,一部の亜鉛は大脳辺縁系の海馬におけるグルタミン酸神経細胞のシナプス小胞内に遊離型亜鉛(Zn2+)の状態で貯蔵されている.このようなことから,学習・記憶など重要な脳機能を維持するために脳内のZn2+濃度は制御されていると考えられている.その一方で,脳内Zn2+の恒常性維持の破綻はアルツハイマー病や脳卒中などの脳疾患における神経細胞死のメカニズムとして認識されている.特に,脳虚血・再灌流直後には海馬グルタミン酸神経細胞から大量の貯蔵Zn2+がシナプス間隙へ放出され,これを取り込んだシナプス後細胞や神経細胞内の亜鉛結合タンパク質から遊離したZn2+によって細胞内Zn2+濃度が上昇すると細胞死が惹起される.近年,このような脳虚血・再灌流後の脳内Zn2+の動態変化がミクログリアをはじめとするアストロサイトやオリゴデンドロサイトなどグリア細胞の生存や機能変化に関与することが明らかになってきた.虚血刺激が負荷されたオリゴデンドロサイトでは細胞内Zn2+集積が引き起こされミトコンドリア傷害を介した細胞死が惹起され,過剰な細胞外Zn2+に暴露されたアストロサイトはグルタミン酸トランスポーターの機能が低下することが報告されている.一方,ミクログリアは脳虚血後に神経細胞から過剰放出されたZn2+を取り込むことによりプライミングされ,その後のM1型極性誘導による炎症性サイトカイン産生が促進されることを見出している.本稿では,脳虚血・再灌流後の脳内Zn2+の動態変化が引き起こすグリア細胞への影響に着目しながら一過性脳虚血の病態への関与について概説する.

創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流(36)
  • 佐山 裕行, 長坂 泰久, 田端 健司
    2019 年 154 巻 3 号 p. 143-150
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/14
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    Quantitative systems pharmacology(QSP)とは,疾患に関連する生体システムと薬物との相互作用を数理モデルによって記述する新しいモデリング手法であり,近年医薬品開発の様々な段階で意思決定に用いられている.従来の経験則に基づく統計学的なモデルと異なり,QSPは生体システムそのものをバイオロジーに基づいて記述するため,創薬標的や疾患関連バイオマーカーの探索,仮説検証,臨床での薬効や毒性の予測などの幅広い目的で使用することができる.一方で,膨大な情報を含むQSPはモデル構造が極めて複雑となり,その構築・活用にはバイオロジーについて深い知識を持つ薬理研究者とモデリング経験の豊富な薬物動態研究者の協働が不可欠である.本稿では,薬物動態研究者から薬理研究者へ,QSPの特徴ならびに企業での実施状況,医薬品開発で効果的に活用していくための課題と将来の展望を解説する.

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