2019 年 154 巻 3 号 p. 97-102
電位依存性Ca2+チャネルのうち,低電位で活性化されるT型Ca2+チャネルは神経の興奮性調節,神経伝達物質の自発性遊離,ホルモン分泌などに関与するが,種々のがん細胞にも発現し細胞増殖の調節にも関わっている.T型Ca2+チャネルの3つのアイソフォームのうちCav3.2は前立腺がん患者の生検サンプルのほとんどすべてに発現している.前立腺がんに対してはホルモン療法が有効であるが,治療の長期継続によりがん細胞がホルモン療法抵抗性を獲得することがある.この過程で,前立腺がん細胞の一部が神経内分泌(NE)様細胞に分化することが知られている.我々は,ヒト前立腺がんLNCaP細胞を用いてNE様分化に伴うCav3.2の挙動を解析した.その結果,NE様分化の過程でCREB/Egr-1系を介してCav3.2の発現誘導がおこること,またCav3.2のチャネル活性を上昇させるH2Sの産生酵素であるcystathionine-γ-lyase(CSE)の発現も誘導されることが判明し,増加したCav3.2のチャネル活性はCSE由来H2Sによって促進されていることを証明した.NE様分化細胞におけるCav3.2の機能増強は,細胞分裂増殖因子の分泌を亢進させることで周囲の前立腺がん細胞のアンドロゲン非依存的な増殖に寄与するのではないかと考えられる.一方,細胞外グルコース濃度が高い状態では,Cav3.2のアスパラギン(N)型糖鎖修飾が促進されてCav3.2のチャネル機能が亢進することが知られており,糖尿病性末梢神経障害との関連性に興味が持たれている.LNCaP細胞においても高グルコース条件下でNE様分化させると,Cav3.2のチャネル機能が亢進するとともに発現量も上昇することが分かった.糖尿病の合併が,前立腺がん患者の予後やホルモン療法抵抗性獲得に悪影響を及ぼすことを示す臨床報告があり,Cav3.2との関連性があるのではないかと推察される.以上のように,Cav3.2は前立腺がんの病態に関与する可能性があり,治療標的分子としても興味深い.