2019 年 154 巻 6 号 p. 301-305
シヌクレイノパチーはαシヌクレインタンパク質(αS)の蓄積を特徴とする疾患の総称であり,パーキンソン病など進行性の神経変性疾患が含まれる.シヌクレイノパチー患者の大多数は遺伝的背景のない孤発性であり,その発症原因や疾患の進行メカニズムはいまだ明らかではない.そのためいまだ原因療法が確立されていないという課題がある.この課題を克服するには孤発性シヌクレイノパチーの発症および進行過程を再現するモデル動物が必要である.近年,αS病理がプリオン様伝播により脳内で広がるという「プリオン様伝播説」が提唱され,それを支持する実験データが様々なグループから報告されている.われわれは孤発性シヌクレイノパチーモデル動物の確立を目標とし,野生型マウスを用いてαS病理およびその脳内伝播を再現できないか検討を重ねてきた.その結果,異常型構造をとったαSを野生型マウスの脳内に接種すると,接種後1ヵ月でαS病理の形成と脳内伝播が観察されることを見いだした.病理は時間経過に伴い,接種部位と神経接続のある領域に伝播した.この現象は野生型マウスだけでなく霊長類の1種であるコモンマーモセットでも同様に観察されたことから,ヒトでも起こりうる反応と考えられる.これらのモデル動物は孤発性シヌクレイノパチー病態を一部再現したモデルであることから,今後,病態メカニズムの解明や新規治療薬開発への応用が期待される.