2019 年 154 巻 6 号 p. 310-314
アルツハイマー病などの神経変性疾患は加齢とともに発症頻度が増大するため,現在の超高齢化社会ではその克服が喫緊の課題である.神経変性疾患の多くでは疾患が診断された段階では神経変性がかなり進んでおり,その状況からの改善は困難である.特に遺伝性神経変性疾患の場合,原因遺伝子を保有していることが分かった場合は発症予防が望まれるが,現状では発症を予防する方法はなく,ただただ発症を待つことしかできない.脊髄小脳変性症は小脳性の運動失調を主症状とする進行性の神経変性疾患である.脊髄小脳変性症の約30%は遺伝性であり,その大部分を占める常染色体優性遺伝性のものは脊髄小脳失調症(spinocerebellar ataxia:SCA)と呼ばれる.SCAは原因遺伝子座の違いによりSCA1-48に分類され,様々な原因遺伝子が同定されている.これまでに特定のSCA原因タンパク質を発現させた細胞株を用いて,細胞毒性や原因タンパク質の発現量などを指標にSCA治療薬のスクリーニングが行われてきたが,細胞レベルで効果を示した化合物がin vivoで十分な効果を示さないことが多かった.これは,細胞株での表現型とSCAモデルマウスで観察される運動障害が異なる機序で起こることに起因すると考えられる.我々はいくつかのSCA原因タンパク質が初代培養小脳プルキンエ細胞において樹状突起の発達を低下させることを明らかにした.小脳プルキンエ細胞の樹状突起縮小はSCAモデルマウスで早期に観察され,運動障害と関連することが報告されている.よって,様々なタイプのSCA原因タンパク質を発現させた培養小脳プルキンエ細胞はin vitro SCAモデルとして有用であり,その樹状突起の縮小を標的として化合物スクリーニングを行うことにより,単一のSCAだけでなく様々なSCAに共通な発症予防薬の同定に繋がることが期待できる.