2019 年 154 巻 6 号 p. 322-326
鉄は人体において最も多く含まれる遷移金属種であり,様々な生理的・病理的な役割を担っている.中でも,タンパク質非結合鉄・弱結合性の鉄イオンは自由鉄や触媒性鉄と呼ばれ,細胞内や体内における鉄輸送やホメオスタシスに深く関わると同時に,高い酸化還元活性を有することから,その濃度異常により酸化ストレスが惹起されることも知られている.しかしながら,酸化ストレスに関与するような鉄イオンを選択的に検出することは困難であり,その詳細な挙動と病態との関連性については不明な点が多く残されている.幸いにも筆者らは,自由鉄の主成分である二価鉄を選択的に検出できる蛍光分子(蛍光プローブ)を開発することができ,これら蛍光プローブを駆使した細胞イメージング研究を展開することで,様々な病態モデルでの自由鉄変動を可視化,解明することに成功してきた.最近では,二価鉄選択的検出の鍵となっているN-オキシドの脱酸素化反応が様々な蛍光団へと応用可能であることを見出し,全部で四色の蛍光プローブへと展開することに成功している.また,ごく最近,各色の蛍光団と細胞内小器官局在性をコントロールすることで,異なる細胞内小器官における二価鉄変動を同時に可視化・検出することができるようになった.本稿では,鉄依存的細胞死(フェロトーシス)における各細胞小器官での二価鉄変動イメージングを中心に二価鉄イオン蛍光プローブの応用例を紹介させていただきたい.