2019 年 154 巻 6 号 p. 327-334
亜鉛は,ヒトの成長に密接に関わる生命活動に必要な微量元素の一つであり,生体内のあらゆる組織の恒常性維持に重要な役割を果たしている.生体内の亜鉛量が一定値を下回ると,食欲不振,脱毛,味覚異常,成長障害,免疫力低下など多様な有害事象を引き起こす.生体内亜鉛の恒常性は,亜鉛トランスポーターと呼ばれる輸送体を介して厳密に制御されている.近年,遺伝子改変マウスやヒト遺伝学に基づいた解析により,亜鉛トランスポーターとヒト疾患を結びつけるようなエビデンスが多数報告されている.生体内亜鉛量の変化が生活習慣病をはじめとした様々な慢性疾患や加齢に伴う広範な疾患に関与することが示唆されており,亜鉛トランスポーターの持つ生理学的役割に注目が集まっている.さらに,亜鉛トランスポーターを介する亜鉛イオンがシグナル因子として機能すること,すなわち,〝亜鉛シグナル〟が生理応答や細胞機能など多彩な制御を担っていることが解明されつつある.本稿では,亜鉛トランスポーターの生理的役割や疾患との関係について,最新の知見と共に概説する.