日本薬理学雑誌
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特集:先端的バイオ医薬品を目指した薬理学研究の新たな展開
タンパク質医薬品開発のためのポジトロン放出核種標識タンパク質
原田 龍一盛戸 貴裕谷内 一彦
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2020 年 155 巻 3 号 p. 159-163

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抄録

ポジトロン断層撮影法(PET)による分子イメージングはポジトロン放出核種で標識された放射性薬剤(=PETプローブ)を,臨床的に薬理作用を示さない極微量(~数μg)で生体に投与し,薬剤から放出される消滅ガンマ線の分布を3次元に画像化する技術である.PETは標識化合物の薬物動態評価の他に標的分子に直接作用したか(target engagement:proof-of-mechanism(POM)),治験の対象者はその分子標的が陽性なのか(patient selection),そしてアウトカムとして生体における変化をもたらしたのか(biomarker)などの情報を得ることが可能なため医薬品開発においても利用されている.従来,医薬品などの低分子化合物をC-11,F-18といった短半減期核種で標識し,PETプローブとして利用されてきたが,近年のバイオテクノロジー技術の発展によりそれらの標識による新しいPETプローブが登場している.抗体は高分子であるが故に薬物動態も遅く,その時間にあった長半減期の放射性金属(Cu-64,Zr-89など)を利用する.しかし,バイオマーカーとしての利用の場合,複数のPET検査を行うので被爆という観点からも薬物動態が速く,短半減期の核種(C-11,F-18)で標識することが望ましいと考えられる.そうした観点から,薬物動態に優れたダウンサイジングされたタンパク質リガンドであるaffibodyなどが開発され,PETプローブとして報告されている.著者らはこうした中分子のタンパク質リガンドを標識するユニークなポジトロン放出核種標識タンパク質の合成法の開発を行ってきた.その手法は,無細胞タンパク質合成法とポジトロン放出核種標識アミノ酸を用いて生化学的にタンパク質をビルドアップ式に合成するというものである.本稿では,抗体と次世代のリガンドとして注目されている中分子のタンパク質リガンドのaffibodyのPETプローブに関するトピックとその合成法について紹介する.

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