日本薬理学雑誌
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特集:脳神経疾患の新規治療標的を探る
Zn2+毒性からみたアルツハイマー病の病態解析と新たな防御戦略
武田 厚司玉野 春南
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2021 年 156 巻 2 号 p. 71-75

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抄録

海馬神経細胞内外のZn2+濃度はそれぞれ~100 pMと~10 nMである.細胞外Zn2+動態は認知機能とその低下の両方に関与し,細胞外グルタミン酸ならびにアルツハイマー病の原因物質と考えられているアミロイドβ1-42(Aβ1-42)により大きな影響を受ける.ヒトAβ1-42がラット海馬の細胞外で100~500 pMに達すると,Zn-Aβ1-42オリゴマーが形成され,このオリゴマーはシナプス神経活動に関係なく歯状回顆粒細胞に速やかに取り込まれる.一方,顆粒細胞内では細胞内Zn2+濃度が低いため,Zn-Aβ1-42オリゴマーからZn2+が遊離して毒性を示す.Aβ1-42誘発細胞内Zn2+毒性は加齢に伴い容易に現れる.これは細胞外Zn2+濃度が加齢に伴い上昇することと関係する.神経終末から生理的に分泌されるAβ1-42は神経細胞内Zn2+恒常性を破綻させることにより,認知機能を低下させ,神経を変性させる.細胞内Zn2+結合タンパク質であるメタロチオネイン(MT)は細胞内Zn-Aβ1-42オリゴマーから遊離するZn2+を捕捉することができるため,細胞内Zn2+恒常性維持に働く.Aβ1-42毒性はアルツハイマー病発症と密接に関係することから,この毒性を阻止することは発症の予防に繋がる.本総説では,細胞外Zn2+に依存するAβ1-42毒性と加齢に伴うAβ1-42毒性発現の変化,その防御戦略について概説する.

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