日本薬理学雑誌
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特集:脳神経疾患の新規治療標的を探る
アストロサイトの亜鉛関連分子を標的としたパーキンソン病治療戦略
宮崎 育子浅沼 幹人
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2021 年 156 巻 2 号 p. 76-80

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抄録

パーキンソン病(PD)は,黒質線条体路のドパミン神経の脱落により無動/寡動,静止時振戦,筋強剛などの運動症状を発現する進行性の神経変性疾患である.PDでは,これら運動症状を発現する数十年以前より,嗅覚異常や起立性低血圧,便秘などの非運動症状を呈する.病理学的には,α-シヌクレインを主要構成成分とする封入体Lewy小体,Lewy neuriteの出現が中枢神経系のみならず末梢神経系においても認められる.現在のところ,PDの基本治療はL-DOPA,ドパミンアゴニスト,モノアミン酸化酵素阻害薬等によるドパミン補充・補完により運動症状を改善するものであり,神経変性を抑制する神経保護薬の開発が求められている.アストロサイトは,神経環境の維持に重要な役割を果たすとともに,抗酸化分子の産生,神経栄養因子の分泌および神経毒性分子の取り込みによって神経保護効果を発揮する.我々は,酸化ストレスに曝されると,アストロサイトが抗酸化分子であるメタロチオネイン(MT)-1/2を発現・分泌し,ドパミン神経を保護することを報告した.MTはシステイン残基に富んだ金属結合タンパク質で,とくに亜鉛の調節因子として重要な働きを担う.さらに,MTは銅との結合能が高いことから銅によるα-シヌクレイン凝集促進を抑制することが報告された.本稿では,アストロサイトにおけるMT発現を標的としたPDにおける神経変性に対する新たな治療戦略の可能性について概説する.

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