2021 年 156 巻 3 号 p. 152-156
非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)の発症率は急増している.NASHでは肝線維化が起こりやすく,肝硬変に進展すると著しい肝機能の低下や肝がんの発症などの不可逆的な変化が起こる.NASHでは,肥満,インスリン抵抗性などのメタボリックシンドロームや,肝における酸化ストレスの蓄積が病態の進展を引き起こしている.ギャップ結合は細胞間結合装置の一種で,隣接細胞間の小分子交換を介して組織や生体のホメオスタシスを担っている.私たちは,肝細胞ギャップタンパク質のconnexin 32(Cx32)がドミナントネガティブに抑制され,ギャップ結合性細胞間コミュニケーション機能(gap-junctional intercellular communication:GJIC)が著減したトランスジェニック(Cx32ΔTg)ラットを樹立し,GJICが肝発がんに対して抑制的な役割を持つことを明らかにしてきた.NASHに対するCx32/GJICの役割は明らかでなく,Cx32ΔTgラットを用いて解析した.メチオニン・コリン欠乏飼料によりNASHを誘発した結果,野生型ラットと比較してCx32ΔTgラットでは,肝細胞内の活性酸素種や炎症性サイトカイン発現が増加し,脂肪肝炎と線維化が促進した.線維化にはNF-κBシグナルによる星細胞の活性化が関与していた.野生型ラットにおいても,正常肝と比較してNASHでCx32発現が低下していた.また抗酸化物質ルテオリンを投与すると,Cx32発現の低下による酸化ストレス反応が抑制され,肝の炎症や線維化が改善した.以上より,Cx32/GJIC機能低下による酸化ストレスによって,NASHが増悪することが明らかになった.さらに高脂肪食とdimethylnitrosaminをCx32ΔTgラットに投与することにより,インスリン抵抗性を伴うNASHモデルを作製し,肝のCx32発現低下がインスリン抵抗性を悪化させることを見出した.本稿では,Cx32ΔTgラットを用いて明らかにしてきたNASHや肝線維化に対するCx32/GJICの役割について紹介したい.