日本薬理学雑誌
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特集:循環器系疾患の線維化メカニズムの解明と治療戦略
SGLT2阻害による尿細管の変化と腎臓保護作用
中野 大介北田 研人
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2021 年 156 巻 3 号 p. 157-160

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抄録

生理的には,血中の糖は腎糸球体でろ過された後,そのほぼ全てが近位尿細管で取り込まれ,血中に戻される.したがって,血糖値が正常の場合は,多くの場合が尿中に糖は検出されない.近年,腎臓の近位尿細管細胞に作用する血糖降下薬(sodium glucose transporter 2 inhibitor:SGLT2阻害薬)が臨床で使用可能になり,その期待以上の腎保護効果が注目されている.SGLT2阻害薬は,近位尿細管での糖取り込みを阻害し,尿中に糖排泄を促すことで,全身に存在する糖の量を減らす(=血中糖濃度も下がる)薬である.我々はまず近位尿細管におけるSGLT2は糖尿病で生じている尿細管細胞老化を抑制するとことを見出した.次に,血糖値に依存しない保護効果について調べた.SGLT2阻害薬は作用点が腎臓であるため,腎機能の極端に落ちているケースでは血糖降下作用が見込めず,当初は使用を控える向きがあった.ここで重要なことは,「血糖降下作用は弱まると予想されるが,薬は近位尿細管に到達し,なんらかの作用が出る可能性はある」ことである.そこで我々は高血糖を呈さない腎不全モデルを作製し,生体イメージングによる尿細管糖取り込みとSGLT2阻害薬による薬理作用を検討した.結果として,SGLT2阻害薬は正常な尿細管細胞においては糖取り込み阻害を起こさず,傷ついた尿細管細胞でのみ糖取り込み不全と血管新生のプロセスを進めることが判明した.傷ついた腎臓の修復過程において,SGLT2阻害薬は毛細血管網再構築により再生を加速し,線維化を抑制する効果があることが証明された.現在,我々が独自に作成した腎線維化モデルにより更なる薬理効果の追及を行っている.

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