日本薬理学雑誌
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特集:循環器系疾患の線維化メカニズムの解明と治療戦略
肺高血圧症の血管リモデリングにおける増殖因子の役割
山村 彩Md Junayed Nayeem佐藤 元彦
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2021 年 156 巻 3 号 p. 161-165

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抄録

肺高血圧症(PH)は,様々な病変により慢性的に肺動脈圧が上昇する疾患である.肺高血圧症治療ガイドラインでは,安静時の平均肺動脈圧が25 mmHg以上の場合をPHと定義している.PHの中で最も典型的な臨床像を示す肺動脈性肺高血圧症(PAH)では,肺血管の過収縮(攣縮)や肥厚(リモデリング)が起こるため,肺動脈圧が上昇する.持続的な肺動脈圧の上昇は,右室肥大を起こし,最終的に右心不全をきたす.PAHは難病に指定されている.PAHの形成には,細胞内Ca2+シグナルの亢進が深く関与している.肺動脈平滑筋や内皮の細胞内Ca2+動態は,血管収縮物質や増殖因子などの刺激とそれらを受容する細胞膜上の受容体やイオンチャネルなどによって調節される.PAHに関連する増殖因子としては,上皮増殖因子(EGF),線維芽細胞増殖因子(FGF),インスリン様増殖因子(IGF),血管内皮細胞増殖因子(VEGF),血小板由来増殖因子(PDGF)などが知られている.これらの増殖因子が,特異的なチロシンキナーゼ型受容体に結合すると,受容体の二量体化(IGFを除く)や自己リン酸化が起こり,細胞内Ca2+動態や細胞内シグナル伝達経路を活性化する.その結果,細胞増殖,分化,遊走などが誘導される.これまでに,それらの増殖因子と対応する受容体の発現が,PAH患者の肺血管組織で亢進し,肺血管リモデリングや叢状病変の形成に関与していることが報告されている.本稿では,PAHに関与する増殖因子の生理機能と病態生理学的役割について概説する.また,我々がPAHに関与するCa2+シグナル分子として同定したCa2+感受性受容体(CaSR)とPDGFシグナルのクロストークについても紹介する.

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