日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
特集:筋研究の新展開:疾患治療,創薬に向けて
物理的刺激や薬物による骨格筋肥大への筋幹細胞の関与
深田 宗一朗
著者情報
ジャーナル フリー

2022 年 157 巻 1 号 p. 23-25

詳細
抄録

骨格筋は筋線維とよばれる多核の細胞が束となり集まった,我々の体で最大の臓器である.骨格筋は運動,代謝,嚥下・呼吸などの生命活動を担っており,さらに内分泌器官としても注目を集めている.骨格筋は「再生能」と「適応能」の二つの能力を備えており,これらメカニズムの理解は遺伝性筋疾患,加齢性筋萎縮などの筋疾患治療法の開発に資するため,その解明を目指した研究が世界中で活発に行われている.この二つの能力と密接に関わるのが,骨格筋固有の幹細胞―筋サテライト細胞―である.筋サテライト細胞は他の組織幹細胞同様に,定常状態では,休眠状態で維持されている.しかし,筋線維が損傷を受けると活動期に入り,新しい筋線維を再構築することで骨格筋組織を再生する.一方,筋力トレーニングなどの物理的な骨格筋への負荷でみられる筋肥大は「適応能」の一つであり,筋サテライト細胞は筋線維に新しい核を供給することで筋肥大に寄与する.再生過程における筋サテライト細胞の研究に比較して,筋肥大時における筋サテライト細胞の動態についてはあまり研究がすすんでいない.その一つの理由が,肥大筋固有の筋サテライト細胞の制御機構が解明されていなかったためである.また,物理的刺激以外にもドーピングのような薬物やホルモン,マイオスタチン阻害が筋肥大を誘導することが知られており,これら筋肥大における筋サテライト細胞の必要性,すなわち筋線維核数の増加の必要性が注目を集めている.本総説では,我々が明らかにした肥大筋固有の筋サテライト細胞の増殖機構を紹介し,運動負荷・薬物などによる筋肥大メカニズムと筋サテライト細胞の関与について概説する.

著者関連情報
© 2022 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top