日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
ムコ多糖症Ⅱ型(ハンター症候群)治療薬パビナフスプ アルファ(遺伝子組換え)(イズカーゴ®点滴静注用10 mg)の薬理学的特徴,作用機序及び臨床試験成績
山本 隆治川島 聡
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ジャーナル オープンアクセス

2022 年 157 巻 1 号 p. 62-75

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抄録

ムコ多糖症Ⅱ型(MPS II)は,ライソゾーム酵素であるイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)の遺伝子変異などによりその活性が低下し,基質であるグリコサミノグリカン(GAG)が細胞内外に蓄積することで中枢神経系を含む全身組織に機能不全が引き起こされるX染色体連鎖型の遺伝性疾患である.本疾患に対する治療法としては,欠損した酵素を補充する酵素補充療法が第一選択肢となるが,静脈内に投与された酵素製剤は脳毛細血管内皮細胞などで形成される血液脳関門(BBB)を通過できず,中枢神経症状に対する改善効果は期待できない.パビナフスプ アルファは,JCRファーマのBBB通過技術であるJ-Brain Cargo®を適用したヒト化抗ヒトトランスフェリン受容体(hTfR)抗体とヒトIDSの遺伝子組換え融合タンパク質であり,MPS II患者の全身及び中枢神経系症状の改善を目指して開発を開始し,2018年3月に先駆け審査指定制度の対象品目の指定を受け,2021年3月に製造販売承認された.非臨床試験では,hTfR遺伝子Knock-inマウス及びサルに静脈内投与されたパビナフスプ アルファは脳実質へ移行し,疾患モデル(hTfR KI/Ids KO)マウスの中枢神経系を含む主要組織に蓄積したGAGの一種であるヘパラン硫酸(HS)を用量依存的に減少させ得た.また,同マウスの小脳及び海馬における神経変性や空間学習能力の低下に対しても改善効果が認められた.本邦にてMPS II患者を対象に実施した第Ⅱ/Ⅲ相試験では,週1回体重1 kgあたり2.0 mgのパビナフスプ アルファの点滴静注で,中枢神経症状に対する効果の指標となる髄液中HSの蓄積に明らかな改善がみられ,併せて実施した発達評価においても発達年齢の上昇又は維持が認められた.さらに,中枢神経以外の全身症状に対しても既存の酵素補充療法と同等の有効性が示された.これらの成績から,パビナフスプ アルファはMPS II患者の中枢神経症状を含む全身症状に対するBBB通過型の製剤として,全く新しい治療選択肢になると考えられる.

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