2022 年 157 巻 1 号 p. 53-61
オナセムノゲンアベパルボベク(製品名 ゾルゲンスマ®,開発コードAVXS-101)は,機能的なヒトSurvival motor neuron(SMN)遺伝子を脊髄性筋萎縮症(SMA)患者の運動ニューロンに届けられるよう設計された,アデノ随伴ウイルス9型カプシドを有する非増殖性遺伝子組み換えアデノ随伴ウイルスベクター製品である.2020年3月19日に2歳未満の「SMA(臨床所見は発現していないが,遺伝子検査によりSMAの発症が予測されるものも含む)」を対象に承認された.静脈内に投与された本品は,SMAの根本原因であるSMN1遺伝子の機能欠損を補って運動ニューロンの変性・消失を防ぎ,神経及び筋肉の機能を高め,筋萎縮を防ぐことで,SMA患者の生命予後及び運動機能を改善することが期待される.また,導入されたSMN遺伝子は患者のゲノムDNAに組み込まれることなく細胞の核内にエピソームとして留まり,運動ニューロンのような非分裂細胞に長期間安定して存在するように設計されていることから,1回の静脈注射で治療が完結する.SMAモデルマウスへの本品投与により,SMNタンパク質の持続的発現,体重増加,運動機能の改善,生存期間の延長等が認められた.臨床でのオナセムノゲンアベパルボベクの有効性は,Ⅰ型SMA患者(CL-101試験)及び未発症のSMA患者(CL-304試験)を対象とした臨床試験にて確認され,両試験において自然歴に比べ有意に「出生から永続的な呼吸補助が必要となる又は死亡までの期間」が延長されることが示された.また,両試験とも自然歴では見られない運動マイルストーンの達成も確認され,忍容性も良好であった.オナセムノゲンアベパルボベクは脊髄性筋萎縮症治療の新しい選択肢として期待される.