日本薬理学雑誌
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特集:若手研究者が切り拓く,男性泌尿生殖器疾患の最新研究
光応答性NOドナーを用いたED治療の新たなアプローチ
堀田 祐志森 泰毅木村 和哲
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2022 年 157 巻 3 号 p. 172-175

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抄録

勃起の惹起・維持においてもNOが関わることは古くから知られている.このためNO補充が勃起不全(ED)治療として有用と考えられ多くの試験がなされてきた.しかしながら,様々な理由から上市できておらず,本邦では下流のホスホジエステラーゼ-5(PDE-5)を標的としたPDE-5阻害薬が唯一の経口治療薬となっている.NO補充療法の問題点のひとつとして全身性の副作用があげられる.この問題を解決するため,我々は光応答性NOドナーに着目しED治療に応用可能か検討を進めることとした.光応答性NOドナーは,大きく3つの特徴を有する.1つ目は,光を照射した部位でのみNOを放出すること,2つ目は,光を照射している時間のみNOを放出すること,3つ目は光強度に応じてNO放出量を制御できることである.これらの特徴から,光応答性NOドナーと光照射はED治療に有用な治療法になることが予想される.我々は光応答性NOドナーの開発に取り組んできており,これまでに青色光応答性NOドナー「NOBL-1」,黄緑色光応答性NOドナー「NO-Rosa」,赤色光応答性NOドナー「NORD-1」,を開発し生体組織への応用を検討してきた.最近の研究からNORD-1と赤色光を使うことでラットの勃起反応をin vivoレベルで増強することができることを見出した.そこで,既存ED治療薬の効果が低いとされる神経性EDモデルを用いてNORD-1と赤色光の効果を検討した.その結果,神経性EDモデルにおいてもNORD-1投与後の赤色光照射により勃起反応が増強され,優れたED改善効果が観察された.これらの結果から,ラットにおいて光応答性NOドナー「NORD-1」と赤色光は勃起反応を増強できED治療薬としての可能性が示唆された.今後,化合物の至適化や安全性試験などクリアーすべき課題は多々残されているが,EDを対象としたフォトバイオセラピーという新たな治療アプローチが開発されることが期待される.さらに,NOは身体の様々な箇所で作用するため,EDだけでなく他疾患への応用も今後期待される.

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