日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
特集:分子機能の操作とイメージングによる脳機能研究の新展開
化学遺伝学受容体の新規リガンドDeschloroclozapineは迅速で選択的な神経細胞活動および行動の操作を可能にする
永井 裕司
著者情報
ジャーナル フリー

2022 年 157 巻 4 号 p. 233-237

詳細
抄録

脳機能は,その機能を担ういくつかの脳領域が調和することで発現すると考えられる.精神神経疾患の病態は,この機構の破綻によって引き起こされると考えられ,特定の脳領域を操作することで影響を受ける機能を特定することが極めて重要である.化学遺伝学技術の1つであるdesigner receptors exclusively activated by designer drugs(DREADDs)は,内在性神経伝達物質に反応しない人工受容体を標的神経細胞に導入し,生物学的に不活性な作動薬を全身投与することにより,その神経細胞活動を繰り返し操作できる技術である.最も広く用いられているDREADDsは,ムスカリン性アセチルコリン受容体をベースとしたhM3Dq(興奮性)およびhM4Di(抑制性)で,酸化クロザピン(CNO)により活性化することが可能である.しかしCNOにはいくつかの懸念がある.1つ目はCNOは脳への浸透性が悪いため,効果発現まで時間がかかること,2つ目はCNOが多くの内在性受容体に作用する抗精神病薬であるクロザピンに体内で代謝されるため,全身投与ではオフターゲット効果が生じる可能性があることである.そこで,これらの問題を解決するために,我々は新規化合物であるデスクロロクロザピン(DCZ)を見いだした.DCZはCNOよりも高い親和性とアゴニスト活性を有するとともに,代謝物が脳へ移行することがないためオフターゲット作用も低減されており,生体内でhM3DqやhM4Diを介して神経活動や行動を迅速に調節することが可能である.DCZは,ムスカリン性アセチルコリン受容体ベースのDREADDsの多くのユーザーに明確なメリットをもたらすものである.

著者関連情報
© 2022 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top