日本薬理学雑誌
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特集:薬理学における動物実験代替法の新たなる技術展開
In chemico皮膚感作性試験:ADRAの開発とOECDテストガイドライン化
笠原 利彦藤田 正晴
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2022 年 157 巻 5 号 p. 345-350

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抄録

Amino acid Derivative Reactivity Assay(ADRA)は,皮膚感作性発症の初期段階において,感作性物質と生体内タンパク質が共有結合する原理に基づいており,先にOECDテストガイドライン(TG)に収載された同じ原理の代替法であるDirect Peptide Reactivity Assay(DPRA)のいくつかの問題点を改良した試験法である.そこで我々は,OECD TG収載を目指し,JaCVAM,大学,化学企業,国内外の専門家からなるバリデーションチームを2016年3月に立ち上げた.まず,参加施設への技術移管を実施し,各施設で生じた問題点を解決し,どの施設においても再現性の高い結果が得られるように,プロトコールの改良を行ってからバリデーション試験を実施した.その後,試験報告書の作成,第三者評価会議および2回のコメンティングラウンドを経て,2019年6月にADRAをOECD TGに収載することができた.また,ADRAは,システインおよびリジンのN末端にUV領域で高いモル吸光係数を有するナフタレン環を導入した2種類の求核試薬(NACおよびNAL)を使用することにより,試験系全体の低濃度化が可能になり,①反応液中での難溶性被験物質の析出頻度低下,②HPLC測定における求核試薬と被験物質との共溶出頻度低下,③重量濃度法を利用した分子量不明成分の評価を実現した.さらに,求核試薬の母核であるナフタレンは強い蛍光を持っているため,④蛍光法による求核試薬の選択的高感度検出,⑤重量濃度法と蛍光法の組合せによる混合物評価も可能であり,2022年6月にTG改訂が承認された.ADRAは,in chemicoの試験であるため,動物や細胞を準備する必要がなく,簡単に評価できるだけでなく,96 wellマイクロプレートで実施可能であるため,ハイスループット化も可能である.したがって,今後,医薬品分野において毒性スクリーニング等に利用されることを期待している.

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