2023 年 158 巻 1 号 p. 77-81
医薬品開発の非臨床試験過程では,薬効,安全性,薬物動態等のすべての領域においてヒトに投与したときにどのような影響が出るのか?という命題を常に研究者は抱えている.従来の低分子医薬品の開発では,非臨床試験は細胞や実験動物を用いて検討することがほとんどであったが,種差により反応性が異なるなどヒトへの外挿性が問題であった.加えて,近年数多く上市されている核酸医薬や抗体医薬等の新規モダリティ医薬品はヒト特異性が高いことから,非臨床試験においてヒトへの外挿性を向上させることは益々重要になってきている.薬物動態の領域ではヒトにおける医薬品の動態予測を行うためにIVIVEという方法を適用させてきた.ヒト初代肝細胞等を用いたin vitro試験を実施し,その結果を数理モデルの補正によってin vivoつまりヒトでの数値を予測する方法である.現在,ヒトiPS細胞由来分化細胞等のヒト細胞をin vitro評価系に用いることが徐々に多くなってきて,種差についての問題は解決されつつあるが,一方でin vitroの結果をどのようにin vivoに反映させればよいか?という課題が残されている.我々は,薬物動態のみならず安全性薬理試験においてもIVIVEを活用してヒトへの外挿性向上を目指しており,心臓,中枢神経系を中心に現在の課題や解決に向けた方策について紹介したい.