日本薬理学雑誌
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158 巻, 1 号
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特集:AIを駆使した医薬品開発の現状について
  • 吉川 公平, 山田 久陽
    2023 年 158 巻 1 号 p. 2
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル フリー
  • 野沢 桂, 角山 和久
    2023 年 158 巻 1 号 p. 3-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル フリー

    近年のビッグデータに関する急速な発展や,画期的な人工知能(artificial intelligence:AI)技術の発展は,医療分野にも大きな変革をもたらしている.製薬会社も,ビッグデータを用いたより短期間で確度の高い創薬研究など,生産性の向上を目指したデジタルトランスフォーメーションを推進しており,AIやアナリティクスを活用したデータ駆動型創薬をアステラス製薬も推進している.ビッグデータの一つにテキストデータがあるが,その中でも生物医学分野の文献データは世界中の研究者たちの英知の結集であり,関心ある分野の最新の知見を得る基となる情報源である.文献データベースには毎年多くの論文が収載されるため全てを読むことはできないが,ニューラルネットワークを基盤とするAI技術は飛躍的な進歩を遂げており,膨大な文献情報を短時間で効率的に処理することができる.創薬研究においては,様々な学術分野の最新,且つ,幅広い知識が必要とされるため,必要な情報を漏れなく取得するためのAI技術を積極的に取り込む必要がある.本稿では,急増する文献データと最新のAI技術を創薬研究に応用する私たちの試みを紹介する.これまでの検索エンジンでは,検索された論文の中から目的の主題を記載している文章を特定して理解するのに膨大な時間を要していたが,私たちは,従来のキーワード検索だけでなく,文章をコンセプトレベルで検索に用いることができ,目的病態メカニズムをもつ疾患が提示されるツールを作成した.実際に活用してみて分かった課題などに関しても併せて紹介する.今後,文献データはますます増加すると想定され,AIによって分析し,求める知見を効率よく得ようとする研究は更に活発になると思われることから,今後の技術の進展への期待と,解くべき課題に関しても考察する.

  • 齊藤 隆太, 矢野 直子, 小島 真治, 三由 文彦
    2023 年 158 巻 1 号 p. 10-14
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル フリー

    創薬の難易度が上がる中,近年の医薬関連データの急速な拡大とAI技術の目覚ましい技術進展によって,データ駆動型ドラッグリポジショニングによる新薬開発のアプローチが注目を浴びている.データ駆動型ドラッグリポジショニングは薬物・遺伝子・疾患についての様々なプロファイルを活用して,体系的かつ戦略的に新しい適応症候補疾患を探索し,優先順位を付けていく手法であり,ここ数年で多くの研究成果が報告されている.ここでは,データ駆動型ドラッグリポジショニングの代表的な解析技術,①標的分子予測,②遺伝子発現変動プロファイル・トランスクリプトーム解析,③自然言語処理・分散表現,についての概要と現状を述べた後,実際に我々が検討したPPARγ/αアゴニスト・ネトグリタゾンの解析事例について紹介する.また,近年のデータ駆動型ドラッグリポジショニングの成功事例として,2020年にBenevolentAI社から発表された,JAK阻害薬・バリシチニブがCovid-19重症化に有効である可能性を示した解析事例についても紹介する.

特集:若手研究者が切り開く神経変性疾患研究の最前線
  • 矢吹 悌
    2023 年 158 巻 1 号 p. 15
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル フリー
  • 浅川 和秀, 半田 宏, 川上 浩一
    2023 年 158 巻 1 号 p. 16-20
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル フリー

    TAR DNA-binding protein 43(TDP-43)は,進化的に保存されたRNA/DNA結合タンパク質である.TDP-43は,健康な細胞では細胞核に豊富に含まれるが,筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患においては,変性した神経細胞の細胞質に凝集体として蓄積することが知られている.我々は,青い光を吸収すると自己会合する活性をもったCRY2タンパク質をタグとして用い,光照射によって多量体化(オリゴマー化)するTDP-43のバリアント(opTDP-43h)を構築した.組織の光透過性が高い熱帯魚ゼブラフィッシュの仔魚の運動ニューロンにopTDP-43hを発現させて青色光を照射すると,細胞核に局在していたopTDP-43hは,徐々に細胞全体に拡がり,やがては細胞質に凝集体を形成した.興味深いことに,短時間の光刺激によって一過的にopTDP-43hを細胞質に移行させると,opTDP-43hの凝集体が蓄積していない状態でも,運動ニューロンの軸索成長が阻害されることが明らかになった.これらの結果は,オリゴマー化したTDP-43が,凝集体として細胞質に蓄積する前の段階で細胞毒性を発揮していることを示唆している.本総説では,この光遺伝学型TDP-43を用いたゼブラフィッシュALSモデルを概説し,ALSにおける運動ニューロン変性においてTDP-43が発揮する細胞毒性のメカニズムについて議論したい.

  • 富澤 郁美, 邱 詠玟, 堀 由起子, 富田 泰輔
    2023 年 158 巻 1 号 p. 21-25
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル フリー

    アルツハイマー病(AD)の発症機構を理解する上で,AD発症原因分子であるアミロイドβペプチド(Aβ)の産生機序を理解することは重要である.Aβは,アミロイド前駆体タンパク質(APP)がβ-セクレターゼとγ-セクレターゼによって段階的に切断されることで産生されるが,その詳細な制御機構は未だ明らかではない.そこで我々は,Aβ産生に関わる制御因子を同定するためにCRISPR-Cas9システムを用いたゲノムワイドスクリーニングを構築し,Aβ産生を負に制御する新規因子としてcalcium and integrin-binding protein 1(CIB1)を同定した.CIB1発現量の低下はAβ産生量を上昇させた.また,免疫沈降法によって細胞内におけるCIB1とγ-セクレターゼとの相互作用を確認すると共に,CIB1発現量の低下がγ-セクレターゼの細胞膜への局在を低下させることを明らかにした.このことからCIB1は,相互作用によってγ-セクレターゼの細胞内局在に影響しAβ産生を負に制御していることが考えられる.さらに,ヒトAD患者脳内でのシングルセルRNAシークエンス解析から,初期AD患者脳においてCIB1 mRNAレベルが低下していることも明らかになった.これらの結果から,AD初期において脳内のCIB1発現量が低下することでAβ産生量が増加し,AD発症に寄与している可能性が示唆された.

  • 原田 龍一, 岡村 信行
    2023 年 158 巻 1 号 p. 26-29
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル フリー

    アストロサイト,オリゴデンドロサイト,ミクログリア,上衣細胞などのグリア細胞は,脳の恒常性維持に重要な役割を果たす非神経細胞である.しかし,活性化したミクログリアやアストロサイトは神経炎症を引き起こし,神経変性に密接に関与すると考えられている.多くの神経変性疾患の脳では,神経細胞脱落,神経炎症(グリオーシス),ミスフォールディングタンパク質の蓄積が共通して認められる.したがって,グリア細胞の反応性変化を陽電子断層撮影法(positron emission tomography:PET)により非侵襲的に画像化することができれば,病態プロセスの理解促進につながるだけでなく,早期診断やグリア細胞を標的とした疾患修飾薬の薬効評価などへの応用も期待できる.反応性アストロサイトの標準的なマーカーはglial fibrillary acidic protein(GFAP)であるが,特異的なリガンドが存在しない.反応性アストロサイトのPETプローブの結合標的としては,モノアミン酸化酵素B(MAO-B)とイミダゾリン2結合サイト(I2BS)の二つがある.近年,MAO-BおよびI2BSを標的としたPETプローブが開発され,臨床研究が進められている.本総説では反応性アストロサイトを生体画像化する際の分子標的となるMAO-BとI2BSについて概説し,またこれらの標的に結合するPETプローブを用いた臨床研究について紹介する.

  • 矢吹 悌, 塩田 倫史
    2023 年 158 巻 1 号 p. 30-33
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル フリー

    リピート病は遺伝子内のリピート配列の異常伸長変異を原因とする疾患である.異常リピートから産生されるRNAは高次構造を形成することで細胞毒性を誘導する.特に,グアニンリッチ・リピート伸長由来RNAは,非ワトソン-クリック型塩基対によりグアニン四重鎖(G-quadruplex:G4)構造を形成し,神経変性を誘導することが示唆されている.私達は,脆弱X随伴振戦/失調症候群(Fragile X-associated tremor/ataxia syndrome:FXTAS)において,CGGリピート由来G4構造RNAがRAN(repeat-associated non-AUG)翻訳により産生される疾患原因タンパク質FMRpolyG凝集を惹起することを発見した.本稿では,FXTASを含むグアニンリッチ・リピート病の神経変性機構におけるG4構造の機能を紹介すると共に,その病態発症メカニズムについて述べる.

特集:情動ストレス応答から探る新規治療標的
  • 大村 優, 山田 光彦
    2023 年 158 巻 1 号 p. 34
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル フリー
  • 吾郷 由希夫, 浅野 智志
    2023 年 158 巻 1 号 p. 35-38
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル フリー

    うつ病は,抑うつ気分や,興味または喜びの著しい喪失を主症状とする精神疾患である.齧歯類を用いたうつ病の病態研究や創薬研究では,強制水泳試験や尾懸垂試験といった行動学的手法が広く利用されているが,動物に対して強い身体的ストレスが加わるもので,厳密には動物の抑うつ状態だけではなくストレス抵抗性の要素も評価結果に含まれている.意欲低下は,うつ病を含む精神疾患の重要な指標であり,我々は,マウスにおける報酬探索行動の新しい評価法として,オスマウスのメスマウスとの遭遇テスト,すなわちメス選択性試験を開発してきた.一方,女性のうつ病の有病率は,男性に比べ約2倍高いことや,産後うつ病など女性特有の疾患があることから,モデル動物の作製ならびにその評価には,メスマウスを用いた検討が必要である.本稿では,メスマウスを被験マウスとして改変した“オス選択性試験”に関する我々の研究成果についてまとめ,また最近注目される産後うつ病治療薬や,そのモデル動物に関しての新しい知見を紹介する.

  • 中武 優子, 古家 宏樹, 山田 光彦
    2023 年 158 巻 1 号 p. 39-42
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル フリー

    ストレスへの慢性的な曝露は,うつ病などの精神疾患の発症率を高める.うつ病は従来の抗うつ薬が奏功しない治療抵抗性の症例が少なくなく,病態と病因の理解に基づく新規治療薬の創出が希求されている.げっ歯類では,他個体からの度重なる身体的攻撃を利用した社会的敗北負荷動物が広くうつ病モデルとして研究に利用される.社会的敗北は,ヒトの社会的なストレスの側面を模倣したストレスであるとされる.その一方で,ヒトでは身体的苦痛よりも心理的苦痛の方がうつ病の発症に大きく寄与する可能性が高い.そのため,病態発症までの過程と動物モデル作成との間には乖離が存在し,このことが新規向精神薬の開発が難航する原因の1つであると考えられる.近年,同種他個体の社会的敗北場面を被験体に目撃させることで,身体的苦痛を排除した心理的ストレスを負荷できるストレスモデルが報告された.我々は,社会的敗北の目撃が心理的ストレスとして伝達されるメカニズムに焦点を当て,マウスを用いて島皮質を中心とした解析を進めている.本稿では,これまでに明らかにされた心理的ストレスによる影響と,心理的ストレスが情動変化を引き起こすプロセスについて最新の研究動向を紹介する.

  • 大村 優
    2023 年 158 巻 1 号 p. 43-46
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル フリー

    心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療には①選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を用いた投薬治療と②曝露療法,もしくはその組み合わせがしばしば用いられる.しかし,どの治療法も一定の効果を有する一方で,十分な効果を得られていない.①,②それぞれの治療法の効果が十分でない原因を解明し,効果的な治療法開発の方向付けを行うことが必要である.まず①については,5-HT2C受容体拮抗薬の全身投与が文脈的恐怖条件づけ試験における恐怖応答-すくみ行動-を減らすことが示されていることから,5-HT2C受容体がSSRIの効果を妨害している受容体サブタイプの1つと考えられる.薬理学的操作には非選択的効果の恐れがあるため,我々は5-HT2C受容体遺伝子欠損マウスを用いてこの結果を再現できることを確認した.しかし,5-HT2C受容体拮抗薬も5-HT2C受容体遺伝子欠損も自発運動量を増加させるため,この結果には別の解釈の可能性が残されている.すくみ行動は「動いていない」ことを以って恐怖応答を評価しているので,自発運動量が増加すれば恐怖記憶とは独立にすくみ行動を減らしてしまう可能性がある.そこで,我々は条件づけ飲水行動抑制試験(conditioned lick suppression)を用いることで活動性の違いの影響を加味した補正値で恐怖記憶の評価を行い,この可能性を除外した.次に②について取り組むために,音と環境という複合的な刺激を同時に呈示して恐怖条件づけを行い,その後音刺激と環境刺激を別々に再曝露した.その結果,音刺激に対する恐怖応答は速やかに消失した一方で,環境刺激に対する恐怖応答は何度再曝露を繰り返しても減衰しなかった.このように,曝露療法はその方法次第でPTSDを悪化させる恐れもある.本稿では以上の結果を解説した上で,今後のPTSD研究の方向性を提案する.

  • 國石 洋, 山田 光彦
    2023 年 158 巻 1 号 p. 47-50
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル フリー

    幼少期(生後初期から思春期にかけての時期)は神経回路の発達や刈り込みなどによる整理が盛んな時期であり,外界からの刺激の有無に非常に感受性が高い.そのため,近年社会的問題となっている児童虐待やネグレクトなどによる幼少期の過剰なストレスや社会経験の剥奪は,情動や社会性,認知機能を担う神経回路の発達に悪影響を及ぼし,種々の精神疾患の発症リスクにつながる可能性が推測される.実際に,児童虐待やネグレクトを受けた経験と,様々な精神疾患の発症リスクとの相関が報告されている.しかし,幼少期の不適切な環境が情動や認知機能に悪影響を及ぼす神経回路メカニズムについては不明な点が多く,幼少期の不適切な環境が原因となる精神疾患の治療や予防法の確立のために,そのさらなる理解が重要である.本稿では,幼少期の環境と脳高次機能の発達について明らかにしてきたこれまでの知見について触れつつ,思春期マウスに対する社会隔離飼育が,社会性や情動に重要な“眼窩前頭皮質-扁桃体回路”のシナプス伝達に悪影響を与えることで,社会性やストレス対処の異常を引き起こすことを明らかにした,我々の研究について紹介する.

特集:多分野融合によるオルガノイド研究の新機軸
  • 小坂田 文隆, 高田 和幸
    2023 年 158 巻 1 号 p. 51
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル フリー
  • 西村 周泰, 高田 和幸
    2023 年 158 巻 1 号 p. 52-56
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル フリー

    神経変性を伴う脳疾患は一度発症すると治療することが困難であることから,超高齢社会に突入した日本社会にとっては神経変性の予防法および根治治療法の確立は患者本人のQOL向上や介助に携わる患者家族および医療従事者の負担軽減の観点からも喫緊の課題となっている.ヒト多能性幹細胞(iPS細胞)の登場は,このヒト特有の神経変性疾患の病態の理解,その理解に基づく予防・治療戦略の開発に大きな貢献を果たしている.さらにiPS細胞技術と呼応するかのようにライフサイエンス,メディカルサイエンス,情報工学の分野からも分野横断的な新しいサイエンスの流れが出来つつある.本稿では,さまざまな研究領域や技術の融合の例として,筆者らが進めている神経変性疾患の再現研究について紹介する.筆者らは代表的な神経変性疾患であるアルツハイマー病とパーキンソン病の病態の理解と新規治療法の開発を目的に,ヒト細胞を用いて脳領域特異的な神経細胞と脳内免疫担当細胞であるミクログリアを誘導し,病態再現研究を進めてきた.この過程で,発生生物学や薬理学のような基盤的な学問領域のみならずトランスクリプトーム解析やダイレクトコンバージョンなどの比較的新しい技術を取り入れながら研究に取り組んでいる.これらの知見に基づいてヒトiPS細胞から必要な種類の細胞を誘導し融合させることで,高次脳機能や病態の一部を単純化して再現することが可能となる.このような,ヒト細胞を用いたヒトの疾患の理解に向けたアプローチにより,ヒト脳研究もますます前進し,人々の健康増進に寄与することが期待される.

  • 木村 俊哉, 六車 恵子
    2023 年 158 巻 1 号 p. 57-63
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル フリー

    神経疾患の克服は患者と社会の両方にとって重要な課題である.神経疾患に関する従来研究は,株化細胞やモデル動物を用いてきたが,これらはヒトの神経細胞や脳組織とは構造的にも機能的にも異なるところが多く,疾患モデルとして十分とは言えない.また多因子性の疾患や,病因不明の孤発性疾患については,モデル動物を作製することが極めて困難である.これに対し人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells:iPS細胞)は患者の遺伝情報を保持し,未分化性を維持したまま増殖可能であり,様々な神経細胞に分化できることから,新たな疾患モデルとして,神経疾患研究に革新をもたらすと期待されている.既にiPS細胞技術は疾患のモデル化をはじめ,創薬や再生医療にも活用されている.また最近では,疾患に関連した一塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP)やリスクバリアントに関する実証的研究においても利用が進められている.本稿では,まずiPS細胞から神経細胞や人工的な脳組織(脳オルガノイド)を作製する技術について述べ,次いでこれらの技術を用いた神経疾患研究の動向を概観し,最後にこの技術の課題について議論する.

  • 小寺 知輝, 小坂田 文隆
    2023 年 158 巻 1 号 p. 64-70
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル フリー

    胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)は身体を構成するあらゆる細胞種へと分化できる多能性を有しているため,再生医療や様々な疾患・発生研究に広く利用されてきた.近年,ES細胞やiPS細胞から生体の様々な組織をin vitroにおいて3次元で再構成するオルガノイド研究が構成論的アプローチとして注目を集めている.オルガノイドは生体内の組織が有する多様な細胞種や組織構築,さらには生体機能の一部を模倣することができるため,より高度なin vitroのモデルとして利用可能である.しかし,その複雑さゆえに従来の幹細胞生物学の解析手法だけでは,オルガノイドの性能を十分に評価することができないという課題にも直面している.近年,幹細胞生物学に加えて様々な研究分野と融合することにより,従来よりもはるかに多様かつ複雑な生命現象をオルガノイドを用いて解き明かすことが可能になりつつある.本稿では主に脳オルガノイドに焦点をあて,機械学習,遺伝子工学,イメージングとの融合研究の代表例を挙げ,そこから得られた知見を紹介したい.また,異分野融合が持つ可能性と今後の展望についても議論する.

  • 出口 清香, 高山 和雄
    2023 年 158 巻 1 号 p. 71-76
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル フリー

    呼吸器は,主に気道と肺で構成される.呼吸器はガス交換というヒトの生命維持に必須の機能を担うことから,その機能低下を招く重篤な呼吸器疾患は致死的であることが多い.重篤な呼吸器疾患を治療するため,様々な呼吸器モデルを用いて,その病態解明および創薬研究が進められている.呼吸器モデルのなかでも呼吸器オルガノイド(気道オルガノイドや肺胞オルガノイドなど)は生体に近い機能を有するモデルとして期待を集めている.呼吸器オルガノイドは自己複製能を有する三次元の呼吸器様構造物である.また,多能性幹細胞および組織幹細胞から樹立された呼吸器オルガノイドは元の個人の遺伝情報を引き継ぐため,遺伝性呼吸器疾患研究に活用されている.様々な遺伝性呼吸器疾患のなかでも,嚢胞性線維症や原発性線毛運動不全症,肺胞蛋白症,ヘルマンスキー・パドラック症候群の再現が呼吸器オルガノイドを用いて実施されており,その病態の一端をin vitroで再現することに成功している.さらに,呼吸器オルガノイドは生体に近い遺伝子発現プロファイルや自然免疫応答を有するため,呼吸器感染症研究にも活用されている.これまでに,RSウイルスや季節性インフルエンザウイルス,ヒトパラインフルエンザウイルス,麻疹ウイルス,エンテロウイルス,クリプトスポリジウム属原虫を原因とする感染症の病態再現と創薬研究が実施されている.近年では,新型コロナウイルス感染症の病態再現も行われており,呼吸器における新型コロナウイルスの感染細胞の特定や医薬品候補化合物の薬効評価が行われてきた.本稿では,呼吸器オルガノイドを用いた遺伝性呼吸器疾患および呼吸器感染症研究の最前線の成果と課題について概説する.

総説
  • 山崎 大樹, 佐藤 薫
    2023 年 158 巻 1 号 p. 77-81
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル フリー

    医薬品開発の非臨床試験過程では,薬効,安全性,薬物動態等のすべての領域においてヒトに投与したときにどのような影響が出るのか?という命題を常に研究者は抱えている.従来の低分子医薬品の開発では,非臨床試験は細胞や実験動物を用いて検討することがほとんどであったが,種差により反応性が異なるなどヒトへの外挿性が問題であった.加えて,近年数多く上市されている核酸医薬や抗体医薬等の新規モダリティ医薬品はヒト特異性が高いことから,非臨床試験においてヒトへの外挿性を向上させることは益々重要になってきている.薬物動態の領域ではヒトにおける医薬品の動態予測を行うためにIVIVEという方法を適用させてきた.ヒト初代肝細胞等を用いたin vitro試験を実施し,その結果を数理モデルの補正によってin vivoつまりヒトでの数値を予測する方法である.現在,ヒトiPS細胞由来分化細胞等のヒト細胞をin vitro評価系に用いることが徐々に多くなってきて,種差についての問題は解決されつつあるが,一方でin vitroの結果をどのようにin vivoに反映させればよいか?という課題が残されている.我々は,薬物動態のみならず安全性薬理試験においてもIVIVEを活用してヒトへの外挿性向上を目指しており,心臓,中枢神経系を中心に現在の課題や解決に向けた方策について紹介したい.

創薬シリーズ(8)創薬研究の新潮流54
  • 山田 弘
    2023 年 158 巻 1 号 p. 82-88
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル フリー

    医薬品安全性研究において,computational toxicology(CompTox)の発展に大きな期待が寄せられている.CompToxは創薬早期で用いる毒性スクリーニング法を提供する.加えて,非動物実験アプローチの拡充を通して毒性試験における3Rsの原則の推進にも貢献する.CompToxの研究においては,毒性メカニズムが複雑で多様であること及び創薬モダリティの多様化が進んでいることから,単に化学構造だけでなく実験情報も活用して毒性を予測する研究が必要と考えられる.また創薬におけるリスクアセスメント及びマネージメントにおいては毒性メカニズムや種差の解釈など様々な視点からの考察が必要になる.そのため,単に毒性予測結果を提示するだけでなく,医薬品候補物質と生体との相互関係に係る種々の情報を提供する包括的なCompToxシステムの構築が重要となる.本稿では包括的CompToxシステムの基盤構築の研究事例として,毒性メカニズムに基づく毒性予測システム,毒性予測結果の解釈を支援するオントロジーシステムについて紹介する.

新薬紹介総説
  • 矢島 利高, 東森 光雄, 髙田 知江, 笹邊 俊和
    2023 年 158 巻 1 号 p. 89-100
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/01/01
    ジャーナル オープンアクセス

    アンデキサネット アルファは,ヒト第Xa因子の遺伝子組み換え改変デコイタンパク質で,第Xa因子阻害薬に対しておとり結合タンパク質として機能し,第Xa因子阻害薬が内在性第Xa因子に結合するのを阻害することで抗第Xa因子活性を低下させて中和する.本邦では「直接作用型第Xa因子阻害剤(アピキサバン,リバーロキサバン又はエドキサバントシル酸塩水和物)投与中の患者における,生命を脅かす出血又は止血困難な出血の発現時の抗凝固作用の中和」を効果又は効能とし,2022年3月に製造販売承認された.用法および用量は,第Xa因子阻害薬の種類,用量および最終投与からの経過時間に応じて2種類のレジメンがある.非臨床試験ではブタまたはウサギの出血モデルにおいて,第Xa因子阻害薬によって惹起された出血をアンデキサネット アルファが有意に抑制することが確認された.日本人を対象とした臨床試験としては2試験が実施された.日本人を対象に含み海外で実施された第Ⅱ相試験(16-508試験)では,第Xa因子阻害薬を定常状態まで投与した健康成人を対象に,第Xa因子阻害薬の抗凝固作用に対する中和効果が示され,安全性も確認された.国際共同第Ⅲb/Ⅳ相試験(ANNEXA-4試験)では,第Xa因子阻害薬による治療中に急性大出血を発現した患者を対象に,第Xa因子阻害薬の抗凝固作用に対する中和効果および止血効果が検証され,安全性も確認された.ANNEXA-4試験の日本人集団におけるサブグループ解析の結果,日本人集団は全体集団に比して少数例であったが,有効性と安全性は全体集団と類似していた.アンデキサネット アルファは,本邦で初めて承認された第Xa因子阻害薬中和薬であり,今後第Xa因子阻害薬による抗凝固療法中の生命を脅かす出血に対して,迅速に抗凝固作用を中和することで,患者の予後に貢献することが期待される.

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