呼吸器は,主に気道と肺で構成される.呼吸器はガス交換というヒトの生命維持に必須の機能を担うことから,その機能低下を招く重篤な呼吸器疾患は致死的であることが多い.重篤な呼吸器疾患を治療するため,様々な呼吸器モデルを用いて,その病態解明および創薬研究が進められている.呼吸器モデルのなかでも呼吸器オルガノイド(気道オルガノイドや肺胞オルガノイドなど)は生体に近い機能を有するモデルとして期待を集めている.呼吸器オルガノイドは自己複製能を有する三次元の呼吸器様構造物である.また,多能性幹細胞および組織幹細胞から樹立された呼吸器オルガノイドは元の個人の遺伝情報を引き継ぐため,遺伝性呼吸器疾患研究に活用されている.様々な遺伝性呼吸器疾患のなかでも,嚢胞性線維症や原発性線毛運動不全症,肺胞蛋白症,ヘルマンスキー・パドラック症候群の再現が呼吸器オルガノイドを用いて実施されており,その病態の一端をin vitroで再現することに成功している.さらに,呼吸器オルガノイドは生体に近い遺伝子発現プロファイルや自然免疫応答を有するため,呼吸器感染症研究にも活用されている.これまでに,RSウイルスや季節性インフルエンザウイルス,ヒトパラインフルエンザウイルス,麻疹ウイルス,エンテロウイルス,クリプトスポリジウム属原虫を原因とする感染症の病態再現と創薬研究が実施されている.近年では,新型コロナウイルス感染症の病態再現も行われており,呼吸器における新型コロナウイルスの感染細胞の特定や医薬品候補化合物の薬効評価が行われてきた.本稿では,呼吸器オルガノイドを用いた遺伝性呼吸器疾患および呼吸器感染症研究の最前線の成果と課題について概説する.