2023 年 158 巻 2 号 p. 193-202
イメグリミン塩酸塩(イメグリミン)は経口の2型糖尿病治療薬であり,膵β細胞でのインスリン分泌を促す膵作用と,肝臓での糖新生を抑制し骨格筋での糖取り込みを促す膵外作用の2つの薬理作用を持つ薬剤として世界で初めて本邦で承認された.イメグリミンの分子標的は未だ不明であるが,その作用発現にはミトコンドリアを介した各種作用が関与すると考えられている.膵島では高グルコース刺激で細胞内のadenosine triphosphate量やCa2+量を増加させ,グルコース濃度依存的にインスリン分泌を促した(膵作用).また酸化型nicotinamide adenine dinucleotide(NAD+)生合成サルベージ経路を介してNAD+量を増加させ,CD38により生成されるNAD+代謝産物も細胞内Ca2+量の増加に寄与すると考えられている.In vivoでは,インスリン感受性を回復させ,肝臓由来ミトコンドリアのComplex IIIの活性を回復させると共にComplex I活性と活性酸素産生を抑制し,肝臓や骨格筋での糖代謝を改善させた(膵外作用).臨床開発では,2型糖尿病患者を対象とした海外臨床試験で1,500 mg 1日2回(国内承認用量とは異なる)投与は高グルコースクランプによるインスリン分泌促進作用,経口糖負荷試験による耐糖能改善作用が認められ,国内第Ⅱ相試験で単剤療法での用量依存的な血糖降下作用が認められた.また,3つの国内第Ⅲ相試験で,1,000 mg 1日2回投与群のプラセボに対する優越性が検証され,単剤又は他の2型糖尿病治療薬との併用の有効性と安全性,及びインスリンとの併用の有効性と安全性がそれぞれ確認された.以上,イメグリミンは膵作用と膵外作用を有するため,患者個別の成因にかかわらず血糖降下作用を示すことが期待され,様々な病態の2型糖尿病患者に使用できる新たな選択肢となりうると考えられる.