日本薬理学雑誌
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特集:精神疾患の新たな創薬標的分子の可能性に迫る
統合失調症の治療を目指した血管作動性腸管ペプチド受容体2(VIPR2)アンタゴニストペプチドの開発
吾郷 由希夫浅野 智志坂元 孝太郎
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2023 年 158 巻 3 号 p. 242-245

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抄録

統合失調症は,人口の約1%(国内罹患者:約88万人)に発症する多因子疾患である.既存薬はモノアミン神経伝達物質の調節に関わる作用機序を有するもののみであり,限定的な治療効果や有害作用の発現が課題である.血管作動性腸管ペプチド受容体2(VIPR2,別名VPAC2受容体)は,臨床ならびに非臨床研究から統合失調症の有望な創薬標的として考えられるが,VIPR2のリガンドがペプチドであることや,VIPR2のサブタイプであるVIPR1やPAC1受容体と立体構造的な相同性が高いことなどにより,VIPR2に選択的な低分子化合物の開発は難航している.そのような状況のなか,2018年にファージディスプレイ技術を用いた大規模なペプチドスクリーニングから,VIPR2に選択的な人工アンタゴニストペプチドVIpep-3が見いだされた.しかしながら,同ペプチドは天然アミノ酸で構成されているため,プロテアーゼによる分解の懸念があった.我々は,既存のVIP/VIPR1の複合体モデル,VIPR2の細胞外ドメイン構造,VIPのC末端構造などの情報を参考にして,VIpep-3の最適化を試みた.得られたペプチドの一つであるKS-133(MW=1558.8)は,VIpep-3(MW=1941.1)よりも分子量が小さいにも関わらず,選択的かつ強力なVIPR2阻害活性と高い血中安定性を示した.さらに,KS-133はVIPR2を介する大脳皮質前頭前野のリン酸化CREBの増加を抑制し,また生後発達期のVIPR2過活性化による認知機能障害の発症を抑制したことから,in vivoにおける有用性も示唆された.本稿では,VIpep-3の発見からKS-133の分子デザイン,そして薬効評価までの一連の研究を紹介し,KS-133の新しい統合失調症治療薬のリード分子としての可能性を議論したい.

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