日本薬理学雑誌
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アレルギー性鼻炎の鼻閉における生理活性脂質の役割
尾崎 乃理子坂本 直観村田 幸久
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2024 年 159 巻 3 号 p. 182

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1.  アレルギー性鼻炎における鼻閉

アレルギー性鼻炎による鼻閉は睡眠の質や生産性の低下を招き,日本国内で年間で推計4兆5,000億円もの経済損失をもたらしている1).アレルギー性鼻炎の治療に頻用される抗ヒスタミン薬やステロイド性抗炎症薬は,くしゃみや鼻水などの急性症状には著効するが,慢性化した鼻閉への効果は限定的である.臨床的寛解が期待できるアレルゲン免疫療法も,長い治療期間が必要である,治療が奏功しても再発する可能性がある,など課題がある.より良い管理方法の開発を目指して,アレルギー性鼻炎の慢性化機構について研究を進める必要がある.

2.  アレルギー性鼻炎の鼻閉における生理活性脂質の役割

アレルギー性鼻炎における鼻閉は,海綿静脈洞の弛緩に伴う鼻粘膜の肥厚や血管透過性亢進に伴う浮腫によって生じる.この反応は抗原曝露直後から始まり(即応相),症状が重い患者では抗原刺激から数時間経った後も持続・慢性化する(遅発相).こうした反応を仲介する物質として,種々の免疫細胞から産生される「生理活性脂質」が注目されている.

抗原刺激直後から始まる即応相では,抗原刺激によって活性化した肥満細胞からプロスタグランジン(PG)類やロイコトリエン(LT)類を代表とした生理活性脂質が産生され,鼻閉が惹起される2).モルモットを用いた検討では,PGD2やLT類は鼻粘膜の血管を弛緩させ3,4),トロンボキサン(TX)A2は血管内皮バリア機構を破壊して血管透過性を亢進させ5),それぞれ鼻閉を起こすことが分かっている.また,PGE2は血管弛緩作用と透過性亢進作用を持つ6)が,その受容体であるEP3,EP4を阻害すると,ラットの鼻閉が抑制されることが分かっている7).我々もエイコサジエン酸由来の脂質である15-ヒドロキシエイコサノイド酸(15-HEDE)が,血管の弛緩と透過性の亢進を介して即応相の鼻閉惹起に関与していることを報告した8)

抗原刺激4~6時間後から始まる遅発相では,好酸球などの2型炎症細胞が鼻粘膜に浸潤する.これらの細胞が産生する生理活性脂質が鼻閉症状の慢性化に関与すると考えられている9).我々は,アレルギー性鼻炎モデルマウスの抗原刺激6時間後の鼻腔洗浄液に含まれる脂質を質量分析し,遅発相に関わる生理活性脂質を網羅的に探索した10).その結果,即応相の症状惹起にも関与するPGD2やPGE2,TXB2(TXA2代謝物)以外にも,アラキドン酸の代謝産物である12-ヒドロキシエイコサテトラエン酸(12-HETE)や8-iso PGE2,ジホモ-γ-リノレン酸の代謝産物である15-ヒドラキシエイコサトリエン酸(15-HETrE)などの脂質の検出量が抗原刺激前と比較して増加していた.我々は,これらの脂質のうち12-HETEがペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPAR-γ)シグナルを活性化させ,リンパ節内のT細胞分化を促進することや10),8-isoPGE2がTXA2受容体(TP)を介して血管透過性を亢進し,鼻閉を引き起こすことを報告した11).また,15-HETrEがPGD2受容体(DP)やPGI2受容体(IP)を介してマウスの鼻粘膜の血管を弛緩させ,透過性亢進をもたらし,鼻閉を惹起することを明らかにした12)

3.  おわりに

これまで注目されてこなかった数多の脂質代謝物が古典的な脂質受容体に作用して病態形成に関わっていることが分かってきた.例えば,PGD2はDPやCRTH2の2つの受容体に結合するが,その代謝産物である9α,11β-PGF2や13,14-dihydro-15-keto-PGD2はCRTH2へ選択的に結合する13).我々は皮膚炎モデルマウスを用いた検討により,PGD2代謝物が炎症時にDP/CRTH2シグナルの選択性を変化させる可能性を報告している14).前述のように,我々は8-iso PGE2や15-HETrEが古典的な脂質受容体に作用することで鼻閉を引き起こすことを示している.鼻閉のより良い管理方法の開発を目指すためにも,今後,生理活性脂質と受容体の関係性について幅広く網羅的な解析が求められる.

利益相反

村田 幸久(株式会社Revamp).

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