日本薬理学雑誌
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選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
追悼
アゴラ
特集 再生医療への企業の挑戦
  • 山田 久陽, 吉川 公平
    原稿種別: 特集
    2024 年 159 巻 3 号 p. 137
    発行日: 2024/05/01
    公開日: 2024/05/01
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  • 井家 益和
    原稿種別: 特集
    2024 年 159 巻 3 号 p. 138-143
    発行日: 2024/05/01
    公開日: 2024/05/01
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    われわれは1999年にバイオベンチャー(ジャパン・ティッシュエンジニアリング:J-TEC)を起業し,わが国初の再生医療の産業化に挑戦した.再生医療の技術を製品化するために新たな数多くの規制に対応し,多くの議論を重ねた結果,2007年に再生医療等製品の第1号となる自家培養表皮ジェイスの重症熱傷を適応対象とした薬事承認を取得した.2012年には自家培養軟骨ジャックの外傷性軟骨欠損症を適応対象とした薬事承認を取得したが,その当時,再生医療製品がこの2品目しかなかったことから,わが国の再生医療の産業化の遅れが指摘された.2014年に再生医療を推進する法整備の一環として旧薬事法が薬機法に改正され,再生医療等製品の分類が新設されたたことによって国内の製品開発が加速した.われわれは,2020年に自家培養角膜上皮ネピック,2021年に自家培養口腔粘膜上皮オキュラルの角膜上皮幹細胞疲弊症を適応対象とした薬事承認を得た.さらに,2023年にはメラノサイト含有自家培養表皮ジャスミンの白斑を適応対象とした薬事承認を得て,これまでに5品目の再生医療等製品を上市することができた.いずれも医薬品のように注入する細胞懸濁液ではなく,組織工学的手法を用いて作製した組織構造体を移植する製品である.再生医療等製品の開発では,原材料の安全性確保,培養工程の標準化,非臨床試験による細胞特性の解析,包装・輸送方法の開発,GCTP施設の建設,及び治験を実施した.ジェイスの重症熱傷の適応,ジャックの軟骨欠損の適応については,すでに市販後7年間の使用成績調査を報告して再審査が完了している.これらの製品化に関する経験が国内の再生医療等製品の開発や審査基準のベンチマークとなり,わが国が推進する再生医療の産業化を促進したと言える.

  • 前川 敏彦
    原稿種別: 特集
    2024 年 159 巻 3 号 p. 144-149
    発行日: 2024/05/01
    公開日: 2024/05/01
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    当社(株式会社サイフューズ)は,2010年の創業以来,「革新的な三次元細胞積層技術の実用化を通じて医療の飛躍的な進歩に貢献する」という企業理念のもと,細胞のみで構成された立体的な組織・臓器を難病に苦しむ患者や先端医療の現場へ届け,未来社会の次世代「医療」に貢献することを目指すベンチャー企業である.現在,当社では,再生医療分野において,患者の細胞だけを原材料として作製した神経再生,骨軟骨再生,血管再生等の機能を有する大型の人工臓器を,厚生労働省の承認を取得かつ保険収載された新たな製品(「再生医療等製品」)として社会実装することを目指して開発を進めており,いくつかの開発候補品はヒト臨床試験の段階に来ている.一方,この三次元細胞積層技術は,人体に近い環境で細胞を培養する技術に拡張でき,さまざまな分野の新製品の生体への効果を評価する新たな方法論として期待されている.そこで我々は,「機能性細胞デバイス(FCD)」と名付けたヒト臓器の機能の一部を体外で再現する小型デバイスを医薬品,食品や化粧品の開発者に提供する事業を計画している.第一弾として三次元肝臓構造体(3Dミニ肝臓)を開発した.薬物の肝毒性評価,代謝機構解明,肝臓疾患モデルなど,in vitroのヒト肝臓モデルの用途は広く,従来の方法の問題点を解決できる可能性を秘めている.本報告では再生医療での実例,機能性細胞製品である3Dミニ肝臓の特性や応用例について概説する.

  • 山口 貴義
    原稿種別: 特集
    2024 年 159 巻 3 号 p. 150-155
    発行日: 2024/05/01
    公開日: 2024/05/01
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    クローン病は消化管全体に発症する可能性のある慢性再発性炎症性腸疾患であり,日本人における有病率は増加している.クローン病の最も頻度の高い合併症の1つは肛門周囲病変であるが,なかでも肛門周囲の複雑痔瘻は激しい痛み,出血,腫脹,感染,排膿が生じることがある.内科的及び外科的治療法の進歩にもかかわらず,クローン病における複雑痔瘻の治療は依然として困難であると共に,痔瘻を有するクローン病患者のQOLは低い.ダルバドストロセルは,同種異系の脂肪組織由来間葉系幹細胞の懸濁液を含む細胞治療製品である.欧州及び日本では,非活動期又は軽症の活動期クローン病における複雑痔瘻に対し,少なくとも1つの既存治療薬による治療を行っても効果が不十分な場合の治療薬として承認されている.局所炎症部位において免疫調節作用及び抗炎症作用を示すことにより,クローン病患者における複雑痔瘻の新たな治療選択肢として期待されている.当該報告では,クローン病に伴う複雑痔瘻の概略,ダルバドストロセルの特徴,欧州及び日本で実施された主要な第Ⅲ相試験成績の概要,並びに日本での開発戦略について紹介する.

特集 低酸素応答を標的とした治療薬・創薬の最前線
  • 中山 恒, 冨田 修平
    原稿種別: 特集
    2024 年 159 巻 3 号 p. 156
    発行日: 2024/05/01
    公開日: 2024/05/01
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  • 南学 正臣
    原稿種別: 特集
    2024 年 159 巻 3 号 p. 157-159
    発行日: 2024/05/01
    公開日: 2024/05/01
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    慢性腎臓病CKDでは,ヘモグロビンの低下に見合った十分量のエリスロポエチンが産生されないことによって腎性貧血が起こる.腎性貧血は,これまでは遺伝子組み換えヒトエリスロポエチン製剤である赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis-stimulating agents:ESA)を定期的に注射することにより治療されてきた.ESAは腎性貧血を改善し,患者のquality of lifeを劇的に改善したが,一部にESA低反応性の患者が存在し,これらの患者に大量のESAを使用することが患者の予後不良と関連することが知られている.現在,本邦では慢性腎臓病における貧血の新規治療薬としてHIFプロリルヒドロキシラーゼ(HIF-PH)阻害薬が承認されており,HIFを活性化し内因性のエリスロポエチンの産生を促すことで腎性貧血を改善する.2019年のノーベル生理学・医学賞は,HIFの経路を明らかにした画期的な研究に対して授与された.HIF-PH阻害薬はその機序からエリスロポエチン産生と鉄代謝の両方を改善するため,ESA低反応性における有効性が期待されるとともに,注射製剤の不便さを解決する.一方で,その効果は全身性で多面的であり,長期的な影響に注視する必要がある.今後の臨床データの蓄積により,個々の患者に適切な腎性貧血治療が可能となることが期待される.

  • 吉川 清次, 萩本 裕樹, 中村 英二郎
    原稿種別: 特集
    2024 年 159 巻 3 号 p. 160-164
    発行日: 2024/05/01
    公開日: 2024/05/01
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    2019年のノーベル医学生理学賞はWilliam G. Kaelin Jr博士,Peter J. Ratcliffe博士,Gregg L. Semenza博士の3氏に贈られた.受賞理由として新規の生理機構解明がHIF-PH阻害薬とHIF-2阻害薬という革新的な治療薬開発に繋がったことが挙げられる.上記の博士は,それぞれ腫瘍内科医,腎臓内科医,小児科医という異なるバックグラウンドを有し独自の視点で始めた研究が最終的に融合し「生体の低酸素環境に対する応答機構の解明」に至った点が興味深い.両薬剤は実臨床のアンメットニーズを解決すべく始まった橋渡し研究:translational research(TR)が「非臨床Proof of Concept(POC)の取得」に繋がり「治験での薬効証明」という薬剤開発過程が全て成功をおさめた典型例である.筆者の一人である中村は受賞者のKaelin博士の指導のもと上記の薬剤開発の過程を同時進行的に体験する幸運に恵まれた.本稿において両薬剤の開発過程と臨床的意義を示す.

  • 中尾 章人, 劉 可, 高橋 重成, 森 泰生
    原稿種別: 特集
    2024 年 159 巻 3 号 p. 165-168
    発行日: 2024/05/01
    公開日: 2024/05/01
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    ヒトを含む好気性生物が生命を持続させるATPを得るためには,酸素が必要不可欠である.しかし,その一方で,活性酸素種などを産生し,酸素は生体に様々な障害を引き起こす.このような酸素の両義的生物活性に対応すべく,体内の酸素分圧を鋭敏に感知して組織へ適切に酸素供給を制御する仕組みを好気性生物は備えている.低酸素に対する生理的な応答には,急性と緩徐な相があり,急性の低酸素応答における酸素センシングの分子機構は特に未解明である.我々は高Redox感受性を示すカチオンチャネルTRPA1が,末梢組織から中枢神経系に至るまでの生体内各所で酸素センシング機構の鍵となっていることを見出した.本稿では,古くから急性の酸素センシングにおける重要性が認識されている頸動脈小体を含め,広く酸素センシング機構の最近の研究動向を概説する.そして,急性の低酸素応答の基盤となる分子機構におけるTRPA1チャネルの普遍的役割について論じる.

  • 松永 慎司, 冨田 修平
    原稿種別: 特集
    2024 年 159 巻 3 号 p. 169-172
    発行日: 2024/05/01
    公開日: 2024/05/01
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    HIF-PH阻害薬が本邦で承認され保険適応され,臨床で複数の薬剤が使用されており,本邦でも多くの臨床研究や症例報告がなされてきている.臨床使用に関する多くの情報が蓄積されている.しかしながら,HIF-PH阻害薬は低酸素誘導因子(HIF)のレベルを亢進させる作用機序のため,がん患者への投与には注意が必要な状況である.がん細胞において,HIFは腫瘍増殖に影響を与え,化学療法および放射線抵抗性に関与している.一方,免疫細胞においてHIFの亢進は炎症と関連しており,腫瘍進展の抑制に関与しているとされる.これら組織への影響として相反する作用は,生体モデルにおいては明らかとなっていない.そのため,生体腫瘍においてHIFの亢進が,がん治療において有益であるかどうかを明らかにすることが課題である.我々はこれまでに,担がんマウスモデルにおいてHIF-PH阻害薬の投与が腫瘍血管の正常様化を促進し,腫瘍増殖の抑制につながることを報告した.さらに,これらの現象は腫瘍浸潤マクロファージの誘導を惹起し,腫瘍内マクロファージの表現型の変化も誘導した.本稿においては,我々が見出したHIF-PH阻害薬による腫瘍増殖抑制作用とそのメカニズムについて概説する.また,マクロファージに対するがん治療薬の研究,開発動向も紹介したい.

新薬紹介総説
  • 新留 徹広, 石川 幸雄, 小川 智雄, 中川 雅喜, 中村 陽介
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2024 年 159 巻 3 号 p. 173-181
    発行日: 2024/05/01
    公開日: 2024/05/01
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    レカネマブは,早期アルツハイマー病(アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度認知症)を対象に開発されたヒト化抗ヒト可溶性アミロイドβ凝集体モノクローナル抗体である.レカネマブは,アルツハイマー病(AD)病理のアミロイドβ(Aβ)のうち,神経毒性の高いAβプロトフィブリルに選択的に結合し,脳内のAβプロトフィブリルおよびアミロイド斑(Aβプラーク)を減少させると考えられる.レカネマブは,早期ADを対象とした国際共同第Ⅱ相プラセボ対照比較試験(201試験)及び国際共同第Ⅲ相プラセボ対照比較試験(301試験)によって有効性,安全性が確認検討された.両試験ともに日本人被験者も組み入れられた.レカネマブは,米国では2023年1月の迅速承認を経て,同年7月に正式に承認された.本邦においては,2023年9月に「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」の効能又は効果で製造販売承認され,同年12月に薬価収載された.

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