2024 年 159 巻 4 号 p. 203-208
ヒトをはじめとする哺乳動物は,網膜に達した可視光線を視細胞が受容し,そのシグナルが脳に伝達されることで,明暗や色,形などの情報を視覚として認知している.光子を吸収し,そのエネルギーを化学シグナルへ変換する初期反応を担っているのが外節と呼ばれる視細胞独自の膜小器官である.外節の内部にはディスク膜と呼ばれる扁平な膜構造が多数存在しており,ロドプシンを豊富に含んでいる.この特徴的な構造は一次繊毛に由来し,網膜の成熟とともに発達して形成される.そのディスク膜の辺縁にはペリフェリン2(Peripherin-2,PRPH2もしくはRDS)と呼ばれる視細胞特異的テトラスパニンが分布し,ホモもしくはヘテロ多量体を形成し膜を屈曲させることで,膜構造を変形・維持していると考えられている.PRPH2の遺伝子変異は多様な遺伝性網膜変性疾患を引き起こすことが知られているが,細胞質内に位置するカルボキシル末端(C末端)領域の変異は特に黄斑関連疾患との関わりが報告されている.ペリフェリン2のC末端領域は外節の局在に必須であることが知られていたが,筆者らの研究によりその輸送機構に後期エンドソーム経路が関わっていることが明らかになった.同じくディスク膜に局在する膜タンパク質であるロドプシンはそのC末端に繊毛輸送配列VxPxを含み,ロドプシン輸送複合体との相互作用を介してゴルジ装置から外節に輸送される.近年,薬剤による遺伝子発現誘導系を用いた研究により,げっ歯類においてペリフェリン2とロドプシンは各々独立した経路によって外節へと輸送され,それらは外部の光環境によって制御されることが明らかになった.本稿では,視細胞における特徴的な繊毛構造の要であるペリフェリン2の役割について概説するとともに,視細胞の繊毛輸送の最近の知見について紹介する.
A photoreceptor is a specialized neuron that is responsible for the conversion of light into an electrical signal. Photoreceptors are classified into rods and cones, and both photoreceptors possess light-sensing ciliary organelles called outer segments (OSs), anchored in the cells by a microtubule-based axoneme. The OS consists of a stack of disc membranes, which are abundant for the retinal phototransduction proteins such as rhodopsin. Recently, modern protein synchronization techniques using in vivo transfection in rodents revealed that rhodopsin transits through Rab11-positive recycling endosomes, preferentially entering the OS in the dark. Moreover, Peripherin-2 (PRPH2, also called retinal degeneration slow, RDS), a photoreceptor-specific tetraspanin protein essential for the morphogenesis of disc membranes, is delivered to the OS following complementary to that of rhodopsin. Various PRPH2 disease-causing mutations have been found in humans, and most of the mutations in the cytosolic C-terminus of PRPH2 are linked to cone-dominant macular dystrophies. It has been shown that the late endosome is the waystation that sorts newly synthesized PRPH2 into the cilium. The multiple C-terminal motifs of PRPH2 regulate its late endosome and ciliary targeting through ubiquitination and binding to an Endosomal Sorting Complexes Required for Transport (ESCRT) component, Hrs. These findings suggest that the late endosomes play an important role in the biosynthetic pathway of ciliary proteins and can be a new therapeutic target for the diseases caused by ciliary defects.
一次繊毛は,基底小体から伸長している軸糸微小管を骨格とする,直径200 nm,長さ2~5 μmほどの微小な膜突起構造であり,ほとんど全ての種類の細胞に1本ずつ存在している不動繊毛である.移行帯により繊毛膜への脂質やタンパク質の拡散は制限されており,繊毛特異的なタンパク質輸送機構が物質移行を制御することで,周辺の形質膜や細胞質とは異なるタンパク質や脂質の組成が維持されている.その結果,一次繊毛には選択的なGタンパク質共役型受容体やイオンチャネルが高濃度に分布し,生理活性物質や機械刺激を受容する『アンテナ』として機能している.一次繊毛の形成異常および機能破綻により生じる疾患は繊毛病と総称され,全身の様々な臓器において多岐にわたる症状を示すが,網膜においては網膜色素変性をはじめ様々な遺伝性網膜変性疾患が報告されている1).網膜に存在する視細胞は一次繊毛から発達した外節と呼ばれる独自の膜小器官を有しており,種によって異なるものの直径1.4から10 μm,長さ30から60 μmに達するため,一般的な細胞の一次繊毛に比べて巨大な構造から繊毛研究の対象として用いられてきた2).近年は,集束イオンビーム走査型電子顕微鏡(FIB-SEM)などの超解像度の解析技術の発展に伴い,繊毛のより詳細な構造や繊毛の膜ダイナミクスの分子基盤が明らかになってきている3,4).本稿では,視細胞における特徴的な繊毛構造について概説するとともに,筆者らの研究成果を中心に視細胞の繊毛輸送についての新しい知見を紹介し,創薬への展望について考察したい.
繊毛病関連タンパク質の遺伝子改変マウスによる病態モデルにおいて,一次繊毛の長さではなく,その形態に異常が生じることが報告されており,一次繊毛の形態学的な構築・再構成とその機能との関わりが示唆されている5).視細胞の外節は一次繊毛に由来する膜小器官であり,それらは共通した構造を有している(図1).視細胞は暗所における視覚に重要である桿体細胞と,色覚を司る錐体細胞に大別され,外節の形態が大きく異なっている.桿体外節のディスク膜構造形成過程について,生後に約3週間かけて形づくられることがげっ歯類を用いた観察により明らかにされている6).生後数日の段階では一次繊毛の先端部分で繊毛膜の肥大化が生じ,その内腔に多様な形態の膜構造物が構築され始める.その後時間経過とともに膜構造物が軸糸方向に伸長し始め,次いで基部側のディスク膜が軸糸方向に対して垂直に積み重なって形成され,最終的にすべてのディスク膜が一定方向に積層した構造となる(図1).ディスク膜の形成過程については,Steinbergモデルとして外節基部の形質膜の突出構造が封をされ,ディスク膜として隔離されるという仮説が提唱されている7).この仮説を支持する知見として,今西らはアフリカツメガエルの桿体細胞に光変換蛍光特性を持つDendra2融合タンパク質を発現させる現代的な手法を用い,アクチン繊維の阻害薬によるディスク膜の封入を阻害することで形質膜の突出構造の異常伸長が形成されるといった研究成果を報告している8).一方で,Chuangらはディスク膜の構成タンパク質を含んだ小胞が結合繊毛内を通って外節に移行する小胞モデルを提唱しており,電子顕微鏡観察によりげっ歯類の桿体結合繊毛内におけるロドプシンのシグナルを含む小胞の存在を報告している4).このようにディスク膜形成の成り立ちについては議論の余地を残しているが,近年は高解像度顕微鏡による観察技術が目覚ましい発展を遂げており,それらを用いた3次元解析による今後の進展が期待される.
一次繊毛は,基底小体から伸長した軸糸を繊毛膜が取り囲んだ構造を有する.繊毛への物質の拡散は移行帯によって制限されている.視細胞の外節の内腔には約1,000枚のディスク膜が積み重なっており,網膜の成熟過程において一次繊毛から発達する.ロドプシンなどのディスク膜の構成タンパク質は,外節と内節の間の結合繊毛を経由して,外節へと輸送される.
ペリフェリン2(peripherin-2:PRPH2またはretinal degeneration slow:RDS,図2)は桿体,錐体,両視細胞に特異的に発現するテトラスパニンスーパーファミリーに属する346アミノ酸残基からなる膜タンパク質である9).ペリフェリン2は外節の構造タンパク質として,ディスク膜の辺縁や切れ込みに分布している10).4回膜貫通による2つのディスク内ループ構造のうち,特に第2ループはジスルフィド結合による高次構造と四量体,多量体化に必須であることが知られている11).クライオ透過型電子顕微鏡による解析からペリフェリン2とそのホモログであるretinal outer segment membrane protein 1(ROM1)による多量体が,ディスク膜辺縁部の屈曲を強いることで特徴的なヘアピン様の構造を形成していると想定されている12).また,ペリフェリン2をコードするPRPH2遺伝子の変異は網膜色素変性をはじめ,黄斑変性などの様々な遺伝性網膜変性疾患の原因として同定されている13,14).本邦における大規模調査においても,変異遺伝子の同定された網膜色素変性患者のうち3.4%はPRPH2遺伝子において変異が見出されている15).興味深いことに,ペリフェリン2のディスク内ループに位置するシステイン残基の遺伝子変異マウス系統では,桿体外節における多量体の形成不全とともに,外節の形態や桿体細胞の機能の異常が認められる16).このように視細胞の生存と視覚において,ペリフェリン2による外節の形態維持機構は重要な役割を担っている.
ペリフェリン2のC末端領域は他のテトラスパニンにはない独自の構造であり,ディスク内ループとともに重要な機能性ドメインである(図2).中央部の310から329番目の領域は両親媒性のヘリックス構造を取り,直接脂質膜に結合することで膜の屈曲により管状構造を形成する17).さらにC末端領域にはペリフェリン2の局在を規定する配列が存在することが明らかになっている.Arshavskyらは,アフリカツメガエルを用いて332番目のバリン残基がペリフェリン2の外節輸送に必須であることを報告し18),次いで今西らはhTERT-RPE1の培養細胞系において332番目のバリン残基を含むC末端領域がペリフェリン2の一次繊毛における局在に必要であり,この輸送がゴルジ装置を介さない非典型的経路によることを明らかにしている19).ペリフェリン2は一次繊毛外において細胞内の膜小器官に分布することが報告されていたが17,19–22),筆者らによる研究ではペリフェリン2がLamp1やCD63といった後期エンドソームやリソソームのマーカーと局在を共にし,酸性オルガネラの内腔に主に分布することが明らかになった23).エンドソーム内腔への輸送にはESCRT(endosomal sorting complex required for transport)と呼ばれる複合体の関与が知られている24).マウス網膜と培養細胞を用いた生化学的な解析の結果,内因性のペリフェリン2とESCRT構成タンパク質であるHrsが共免疫沈降し,ペリフェリン2のC末端領域がHrsとの相互作用に必須であることが示された.さらに,in vivo遺伝子導入技術を用いマウス網膜にペリフェリン2を発現させたところ,野生型ペリフェリン2は内因性のものと同じく外節に分布するのに対し,C末端変異体ではシナプス末端側や細胞体部分における局在が観察された23).ペリフェリン2はマウス視細胞においてLamp1と局在を共にし,電子顕微鏡下においてはペリフェリン2抗体のシグナルは多胞構造を含む小器官内で検出された.最後にin vivo遺伝子導入によるHrsの発現抑制実験においても,ペリフェリン2の局在異常が認められ23),これらの結果はペリフェリン2の外節輸送おけるESCRTや後期エンドソーム経路の関与を示唆している.ペリフェリン2以外にpolycystin-2がトランスゴルジを経由せずに一次繊毛まで輸送されることが知られているものの25),なぜこれらの非典型的経路が細胞に備わっているのか,それらの輸送の生理的意義などの謎は残されている.近年,Arshavskyらによってペリフェリン2のC末端領域は繊毛先端からのエクトソームの分泌を抑制し,桿体外節のディスク膜の形成を促進することが見出された26).繊毛エクトソームは繊毛先端部の脱落による短縮や繊毛タンパク質の構成の調整などに関わるとされ,そのシグナル伝達における役割が着目されており27),治療薬開発の新たな標的として繊毛エクトソームの研究の今後の発展が期待される.
成体の網膜において外節が10日かけて新しく入れ替わり続けているといったモデルが提唱されたのは50年以上前である28).Youngによる放射性同位体を用いた追跡実験では,げっ歯類の網膜上の新生タンパク質のシグナルが標識直後では内節と外節の基部に集積し,時間経過とともにそれらのシグナルがバンド状の集団としてともに先端の方に移動し,最終的に網膜色素上皮で検出されるといった結果により外節の新生過程が鮮やかに示されている.近年,分子生物学的な手法を用いた研究によりこのモデルと合致するような成果が報告されており,Sungらによるタモキシフェンによる発現誘導系を組み込んだプラスミドベクターによる遺伝子導入技術(図3A)を用いた研究において,発現誘導後に新生ロドプシンのシグナルが時間経過とともに外節の先端方向に拡張していく様子が観察されている29).興味深いことに,このロドプシンのシグナルは周期的な強弱を伴っており,その区画の数が発現誘導後の日数と一致する.これらの強弱は光周期に依存し,暗所でロドプシンが外節に輸送され,明所では外節への移行が減少する(図3B).ロドプシンC末端の繊毛輸送シグナル配列VxPxはArf4やASAP1によるロドプシン輸送複合体との相互作用に必要であり,これらの複合体に積み荷として選別されることで繊毛まで輸送される30,31).ロドプシンのトランスゴルジから基底小体付近までの輸送を担っているのがTcTex1と呼ばれるタンパク質であり,ロドプシン小胞をダイニンモーターと連結させる積み荷アダプターとして働く32).明暗環境によるロドプシンの繊毛輸送の制御機構については,明所ではロドプシンがアレスチンと結合することでC末端における外節輸送複合体との相互作用が阻害されるためと推察されている.また,ロドプシンのシグナルの比較的弱い領域にはペリフェリン2が相対的に豊富に含まれ,これらの組成の異なるディスク膜が互い違いに存在し,10つ,すなわち外節が入れ替わるために必要な日数と一致した数の区画として観察された(図3C).ペリフェリン2はディスク膜の切れ込みを形成するとされ,特に外節先端部において網膜色素上皮による貪食の起点になっていると想定されている.興味深いことに,ペリフェリン2の異常が網膜色素上皮にも影響をもたらすことが報告されており,ペリフェリン2はディスク膜の貪食や網膜色素上皮における分解において重要な役割を担っているかもしれない33).
明暗環境依存的な局在変化するタンパク質複合体のひとつに桿体トランスデューシンがある.桿体トランスデューシンは暗条件において,内節から結合繊毛を介して外節に輸送され,明条件では外節から内節へと移行する.古川らは,lipidated protein intraflagellar targeting(LIFT)と呼ばれる脂質結合タンパク質の繊毛輸送に関して,シャペロンタンパク質であるUNC119がCUL3-KLHL18によるユビキチン化と分解を介して,明暗順応における桿体トランスデューシンαサブユニットの細胞内局在を制御していることを報告している34).UNC119やPDE6δなどのシャペロンタンパク質は,繊毛内でGTP結合型のARL3と結合することで脂質鎖を持つ積み荷を解離するが,ARL3を活性型であるGTP結合型に変換するのが,繊毛局在型のグアニンヌクレオチド交換因子ARL13Bである.ARL13Bは繊毛病のひとつ ジュベール症候群関連疾患タンパク質であり,出生後の網膜前駆細胞の増殖,視細胞繊毛の発達,ディスク膜の形成などの様々な段階における正常な網膜成熟に寄与していることが報告されている35).また,ARL13Bの両親媒性ヘリックスについては,TULP3のTUBBYドメインとの相互作用することで複合体として繊毛に輸送されることがわかっている36).これらの知見は,繊毛輸送においてタンパク質間およびタンパク質と脂質膜間の相互作用が厳密に制御されていることを示しており,その破綻が網膜変性などの病態を引き起こすと考えられる.
外節とディスク膜の特徴的な膜構造を規定する分子メカニズムについては,特に顕微鏡技術の発展に伴い,その複雑な機構が解き明かされつつある.一方で知見の多くは,桿体外節におけるものであり,錐体外節においては報告が乏しい.また,網膜色素変性症に関してはロドプシンの変異を中心に遺伝子治療の開発が進んでいる(図4).遺伝子変異をゲノム編集により修正する,変異タンパク質の発現を抑制する,あるいは異常タンパク質の分解を促進するなどの治療戦略が試みられており,一部では臨床試験が進行中である.さらに,近年の目覚ましいウイルスベクター開発の進展より網膜の特定の細胞種に遺伝子導入することが出来るようになってきており,機能性遺伝子の補充療法としてチャネルロドプシンの改変型を視神経節細胞に発現させることで光感受能をもたらすような治療も試みられている.本稿では,繊毛輸送,特に外節への輸送メカニズムについて近年の知見を紹介したが,今後の研究の発展により詳細な分子メカニズムが解明されることで,特定のタンパク質の輸送経路に介入することによる新たな疾患治療戦略への応用が期待される.
ロドプシンとペリフェリン2は膜タンパク質として小胞体で翻訳された後,別経路で外節まで輸送されると考えられる.ロドプシンはゴルジ装置を経て,暗環境下で外節に移行する.一方でペリフェリン2はゴルジ装置を介さない,非典型的な経路で外節に輸送される.近年,遺伝性網膜変性疾患の変異を標的とした治療薬の開発が進んでおり,機能性遺伝子の補填や低分子化合物による変異体の分解促進などの治療戦略も試みられている.
開示すべき利益相反はない.
本稿に関する研究を遂行するにあたりご指導・ご鞭撻賜りましたChing-Hwa Sung博士とJen-Zen Chuang博士,並びに研究を支えてくださいましたWeill Cornell医科大学のMargaret M. Dyson Vision Research Instituteの皆様に感謝申し上げます.また,第96回日本薬理学会年会の関係者各位に厚く御礼申し上げます.
大津 航(おおつ わたる)
岐阜薬科大学 バイオメディカルリサーチ寄附講座,特任准教授,博士(獣医学).
◇2009年 北海道大学獣医学部獣医学科 卒業,2013年 北海道大学大学院獣医学研究院博士課程修了.2014年1月より米国ワイルコーネル医科大学,Ching-Hwa Sung研究室にて博士研究員,2019年1月より同 助手.2019年5月より岐阜薬科大学バイオメディカルリサーチ寄附講座,特任助教.2021年より同 特任講師,2024年より現職.◇研究テーマ:視細胞の膜リモデリング,網膜疾患病態解明.◇趣味:最近の休日は,小学生の息子とスマホのアプリでゲームを作っていっしょにプログラミングの勉強をしています.