日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
新規原発性手掌多汗症治療剤オキシブチニン塩酸塩ローション(アポハイド®ローション20%)の薬理学的特性及び臨床試験成績
大川 宏司寺原 孝明
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2024 年 159 巻 6 号 p. 413-422

詳細
要約

アポハイド®ローション20%はオキシブチニン塩酸塩を有効成分とする原発性手掌多汗症の局所治療薬である.オキシブチニンは長年にわたり過活動膀胱の治療薬として医療現場で使用されており,その薬理学的特性及び過活動膀胱に対する有効性及び安全性は広く知られている.これまで原発性手掌多汗症の治療において第一選択は,塩化アルミニウム外用療法と水道水イオントフォレーシス療法のいずれかであったが,本剤の登場によりこれらに外用抗コリン薬が新たに追加された.原発性手掌多汗症の原因であるエクリン汗腺からの発汗は,アセチルコリンが汗腺上に存在するムスカリン性アセチルコリン受容体のサブタイプM3受容体に結合することで惹起される.一方,オキシブチニンはムスカリンM3受容体に結合することで,抗コリン作用を示すことが確認されている.また,オキシブチニンによる臨床効果にはその活性代謝物であるN-デスエチルオキシブチニンも関与すると考えられている.久光製薬株式会社はこれらによる発汗抑制作用を期待して本剤の開発に着手し,国内で原発性手掌多汗症患者を対象とした臨床試験を実施した結果,本剤はプラセボと比較して発汗量のレスポンダー(発汗量がベースラインから50%以上改善した患者)の割合が有意に高く,本剤のプラセボに対する優越性が検証された(本剤群:52.8%,プラセボ群:24.3%;群間差:28.5%;P‍<‍0.001,Fisherの直接確率法).安全性に関しては,抗コリン作用による有害事象や適用部位の有害事象(皮膚症状)が報告されたものの,大部分が軽度であった.52週間の長期投与時において効果の減弱は認められず,有害事象により治療を中止した患者は少数(2/125例)であった.以上のことから,アポハイド®ローション20%は原発性手掌多汗症の患者に新たな治療の選択肢を提供できると考えられる.

Abstract

APOHIDE® Lotion 20% is a topical agent for treating primary palmar hyperhidrosis that contains the active ingredient oxybutynin hydrochloride. Oxybutynin hydrochloride has anticholinergic effects and inhibits sweating by binding to the M3 receptor, a subtype of the muscarinic acetylcholine receptor, in eccrine sweat glands. The clinical response to oxybutynin hydrochloride treatment also involves N-desethyloxybutynin, an active metabolite of oxybutynin. A clinical study in Japanese patients with primary palmar hyperhidrosis showed superiority of APOHIDE® Lotion 20% over placebo, i.e., there were significantly more responders (i.e., patients with a reduction in sweat volume ≥50% from baseline) in the APOHIDE® Lotion 20% group (APOHIDE® Lotion 20% group: 52.8%, placebo group: 24.3%; treatment difference: 28.5%; P < 0.001, Fisher’s exact test). This and other clinical studies reported some adverse events (AEs) associated with the drug’s anticholinergic effects and some application site AEs, but most of the AEs were mild. Clinical response did not decrease with long-term (52-week) treatment, and only a few patients (2 of 125) discontinued treatment because of AEs. Taken together, study results indicate that APOHIDE® Lotion 20% may be an effective and safe new treatment option for patients with primary palmar hyperhidrosis.

1.  はじめに

原発性局所多汗症は,頭部・顔面,手掌,足底,腋窩に温熱や精神的な負荷,またそれらによらずに大量の発汗がおこり,日常生活に支障をきたす状態と定義され1),手掌部に発現する原発性局所多汗症を原発性手掌多汗症という.本邦における原発性手掌多汗症の有病率は5.33%,平均発症年齢は13.8歳(男性15歳,女性11.6歳)であり1,2),多汗症の中では比較的早期,小学校就学時期くらいから多汗を自覚することが多いとされている1).重症例ではしたたり落ちる程の多汗がみられ,掌部の多汗は社交活動(握手など)やペーパーワーク,電子機器の操作などに多大な支障をきたすため,学校生活や社会生活上の様々な場面で生活の質や労働能率を低下させる大きな要因となる1).原発性手掌多汗症に主に関与する汗腺は,全身に分布し体温調節の役割を担うエクリン汗腺である.コリン作動性神経から放出されたアセチルコリンがエクリン汗腺に存在するムスカリン性アセチルコリン受容体のサブタイプM3受容体に結合することで発汗が惹起される3)

これまで,原発性手掌多汗症に対する第一選択の治療法は,塩化アルミニウム外用療法又は水道水イオントフォレーシス療法とされてきた4).しかしながら,塩化アルミニウム外用療法では皮膚刺激が治療の妨げとなり5,6),30~50%という高濃度の塩化アルミニウム外用剤による治療や塩化アルミニウム外用剤のODT(occlusive dressing technique)療法が必要となるケースでは皮膚刺激のリスクは増大する1,5,710.また,塩化アルミニウムには保険診療に適用のある外用剤がなく,院内製剤として処方されている状況である.水道水イオントフォレーシス療法では患者自身による機器の購入又は専用の機器を有する医療機関への定期的な通院が必要である9,11).このような背景から,久光製薬株式会社は本疾患に対する効果が期待され,かつ従来の治療法と比較して副作用が少なく簡便に治療可能と考えられる抗コリン薬外用剤の開発に着手した.

アポハイド®ローション20%は,2023年3月に製造販売承認された本邦初の原発性手掌多汗症の外用治療剤である.本剤は医療現場で長年にわたって過活動膀胱の治療に使われてきた抗コリン薬オキシブチニン塩酸塩を1 ‍g中に200 ‍mg(20%)含有する.本剤の用法は,手掌への薬剤塗布から手洗いまでの行動制限を可能な限り少なくするため,日中の塗布を避け,1日1回就寝前,両手掌全体に塗布する用法とした.本稿ではアポハイド®ローション20%(オキシブチニン塩酸塩ローション20%)の薬理学的特性,臨床試験の結果について概説する.

2.  薬理学的特性

アポハイド®ローション20%の有効成分であるオキシ‍ブ‍チニン塩酸塩は1963年に合成された化合物であり,ム‍スカリンM3受容体にオキシブチニンが結合すること‍で12),抗コリン作用を示すことが確認されている1317).エクリン腺におけるムスカリンM3受容体が刺激されると‍発‍汗が惹起されることから3),オキシブチニンは発汗抑‍制‍作用を示すことが期待される.また,オキシブチニンの活性代謝物であるN-デスエチルオキシブチニン(N-desethyloxybutynin:DEO)もオキシブチニンと同程度の抗コリン作用を示すことが確認されており15,16),同様に発汗抑制作用に関与することが示唆されている.

これまでオキシブチニンの経口又は経皮投与は多汗症患者の症状を改善することが臨床研究において報告されている1821).しかしながら,オキシブチニンの経口投与は抗コリン作用によって生じる全身性の副作用(口内乾燥,排尿困難及び傾眠など)が発現しやすいので22,23),原発性手掌多汗症の治療にはあまり推奨されていない1,7,8).上述のとおり,オキシブチニンの多汗症に対する作用及びその機序については既に明らかにされているため,本剤の製造販売承認申請にあたり新たな薬理試験は実施されなかった.

3.  薬物動態

1) 第Ⅰ相単回投与試験24)

3群3期のクロスオーバー法にて20歳以上40歳未満の‍日本人健康成人男性18例(6例×3群)を対象とし,オ‍キシブチニン塩酸塩ローション20% 500 ‍μL(オキシブ‍チニン塩酸塩として96 ‍mgを含有)を両手掌部に単回投‍与(塗布)し,2,8又は24時間後に手洗いした際の薬‍物‍動態を検討した.18例全例を薬物動態解析対象集団(pharmacokinetics analysis set:PKS)とした.PKSにおいて被験者の平均年齢及び体重は,それぞれ26.0歳及び60.83 ‍kgであった.

オキシブチニン及び活性代謝物であるDEOの血漿中濃度推移は図1A,Bのとおりであった.血漿中オキシブチニンの薬物動態パラメータに関して,Cmax及びAUC0-tは塗布から手洗いまでの時間が長くなるにつれて高くなった.AUC0-infの投与後2時間手洗い時と8時間手洗い時は同程度であった.同24時間手洗い時は他の手洗い条件時と比較して高かった.血漿中DEOの薬物動態パラメータに関して,Cmax,AUC0-t及びAUC0-infは治験薬の塗布から手洗いまでの時間が長くなるにつれて高くなった(表1).

図1単回投与時の治験薬塗布から手洗いまでの時間ごとにみた血漿中薬物濃度の経時的推移図(PKS).平均値(SD)

(A)血漿中オキシブニン濃度の経時的推移;○,投与後2時間手洗い時(N‍=‍9);□,投与後8時間手洗い時(N‍=‍16);△,投与後24時間手洗い時(N‍=‍15).(B)血漿中DEO濃度の経時的推移;○,投与後2時間手洗い時(N‍=‍13);□,投与後8時間手洗い時(N‍=‍17);△,投与後24時間手洗い時(N‍=‍16).DEO,N-デスエチルオキシブチニン.(文献24より転載)

表1単回投与時の治験薬塗布から手洗いまでの時間ごとにみた薬物動態パラメータ(PKS)

薬物/代謝物
 塗布から‍手洗いまでの
 ‍時間
記述統計量 薬物動態パラメータ
Cmax, ng/mL tmax, h AUC0-t, ng·h/mL AUC0-inf, ng·h/mL t1/2, h
オキシブチニン
 2時間 N 9 9 9 6 6
平均値(SD) 14.9(17.8) 12a) 340(351) 480(464) 17.6(5.65)
 8時間 N 16 16 16 10 10
平均値(SD) 15.5(12.7) 24a) 373(185) 468(224) 17.2(5.28)
 24時間 N 15 15 15 8 8
平均値(SD) 22.1(19.8) 26,28a) 600(387) 695(411) 28.8(30.3)
DEO
 2時間 N 13 13 13 13 13
平均値(SD) 1.34(1.13) 24,36a) 56.1(47.9) 75.5(62.1) 29.6(16.3)
 8時間 N 17 17 17 15 15
平均値(SD) 2.35(1.92) 36a) 96.4(67.9) 136(81.3) 29.4(11.2)
 24時間 N 16 16 16 10 10
平均値(SD) 3.15(2.01) 36a) 133(83.2) 195(112) 29.7(5.44)

DEO,N-デスエチルオキシブチニン.

a:tmaxについては最頻値を示す.

(文献24より作成)

2) 第Ⅰ相反復投与試験25)

20歳以上40歳未満の日本人健康成人男性18例を対象とし,オキシブチニン塩酸塩ローション20% 500 ‍μL(オキシブチニン塩酸塩として96 ‍mgを含有)を1日1回14日間両手掌部に反復投与した際の薬物動態を検討した.治験薬の投与間隔は24時間ごととした.治験薬の塗布から手洗いまでの時間は,毎回8時間とした.18例全例をPKSとした.PKSにおいて被験者の平均年齢及び体重は,それぞれ26.8歳及び62.55 ‍kgであった.

オキシブチニン及び活性代謝物であるDEOの血漿中濃度推移は図2A,B,投与1,10及び14回目の血漿中オキシブチニン及びDEOの薬物動態パラメータは表2のとおりであった.オキシブチニン塩酸塩ローション20%反復投与時の血漿中オキシブチニン及びDEO濃度は,それぞれ投与72時間(投与3回目)及び168時間(投与7回目)までに定常状態に達すると考えられた.

図2反復投与時の血漿中薬物濃度の経時的推移図(PKS).平均値(SD)

(A)血漿中オキシブニン濃度の経時的推移(N‍=‍18).(B)血漿中DEO濃度の経時的推移(N‍=‍18).DEO,N-デスエチルオキシブチニン.(文献25より転載)

表2反復投与時の薬物動態パラメータ(PKS)

薬物/代謝物
 投与回数
N Cmax, ng/mL tmax, h AUC0-24, ng·h/mL t1/2, h
平均値(SD) 最頻値 平均値(SD) 平均値(SD)
オキシブチニン
 投与1回目 18 8.11(8.55) 20,24 64.8(64.2)
 投与10回目 18 18.6(9.44) 8 230(84.7)
 投与14回目 18a) 17.5(8.98) 8 241(115) 27.2(18.0)b)
DEO
 投与1回目 18 0.945(0.493) 24 8.06(5.42)
 投与10回目 18 2.98(1.57) 1 55.3(26.6)
 投与14回目 18 3.27(1.83) 1,24 62.0(32.5) 27.4(4.48)b)

DEO,N-デスエチルオキシブチニン.

a:t1/2についてはN‍=‍17.

b:治験薬最終除去(手洗い)後のt1/2

(文献25より作成)

4.  臨床成績

第Ⅱ相及び第Ⅲ相試験では原発性手掌多汗症患者を対象‍に実施した.オキシブチニン塩酸塩ローションの有効性‍及‍び安全性を検討し,至適用量を探索する目的で第Ⅱ相試験(jRCT2080224089)を実施した.第Ⅲ相検証試験(jRCT2031200142)でオキシブチニン塩酸塩ローション20%の有効性を検証し,第Ⅲ相検証試験に引き続く長期継続投与試験(jRCT2031200143)で同ローション20%の長期投与時の安全性及び有効性を確認した.

1) 第Ⅱ相試験26)

18歳以上の日本人原発性手掌多汗症患者を対象とした8週間のプラセボ対照ランダム化並行群間比較試験により,オキシブチニン塩酸塩ローションの有効性及び安全性を検討し,至適用量を探索した.本試験の構成は無治療で有効性評価のベースラインデータを収集する1週間の前観察期と8週間の二重盲検期とした.二重盲検期には患者をオキシブチニン塩酸塩ローション5%群,20%群又はプラセボ群のいずれかにランダムに均等割付した.患者は1日1回,就寝直前に治験薬500 ‍μL(オキシブチニン塩酸塩として5%群では24 ‍mg,20%群では96 ‍mgを含有)を両手掌全体に塗布した.182例(5%群60例,20%群60例及びプラセボ群62例)の患者に治験薬を投与した.この182例をFAS(full analysis set)及び安全性解析対象集団(safety analysis set:SAF)とした.ベースラインにおける5%群,20%群及びプラセボ群の平均発汗量は,それぞれ0.8598,0.8388及び0.8663 ‍mg/cm2/minであり,群間で違いはみられなかった.

有効性の評価は,定量的,客観的評価である発汗量を指標とした.発汗量の測定には換気カプセル型発汗計を用いた換気カプセル法により測定した.換気カプセル法は,皮膚を覆うカプセル(カップの形状をしたカプセル)に室内の空気を送り,カプセル通過前後の空気の湿度差から発汗量を計測する方法である27,28).安静座位にて原則左側手掌の拇指基部にカプセルを装着し,発汗量を3分間測定した.その後,発汗量の平均値(mg/cm2/min)を算出し,測定値として記録した.

本試験の主要評価項目は,発汗量のベースラインからの変化量とした.各群の発汗量のベースラインからの変化量の推移は図3のとおりであった.8週時の発汗量のベースラインからの変化量について,プラセボ群との群間差(最小二乗平均値[95%CI])は,5%群-​0.0544[-​0.1516,0.0427]mg/cm2/min及び20%群-​0.1408[-​0.2376,-​‍0.0440]mg/cm2/minであり,プラセボ群と比較して5%群では改善が認められなかったものの,20%群ではより大きく変化し,改善が認められた.副次解析として実施した4週時の同変化量は,8週時と同様の結果であった(表3).

図3第Ⅱ相試験における発汗量のベースラインからの変化量推移(FAS).最小二乗平均値(SE)

■,5%群;□,20%群;▲,プラセボ群.(文献26より転載)

表3第Ⅱ相試験における発汗量のベースラインからの変化量の群間比較(FAS)

時点 群間差(vs プラセボ群),
mg/cm2/min(最小二乗平均値[95%CI])
4週 5%群 -​0.0456[-​0.1454,0.0541]
20%群 -​0.1628[-​0.2622,-​0.0634]
8週 5%群 -​0.0544[-​0.1516,0.0427]
20%群 -​0.1408[-​0.2376,-​0.0440]

各時点における発汗量のベースラインからの変化量を従属変数,投与群,ベースライン値,時点及び投与群と時点の交互作用を固定効果,患者を変量効果としたMMRM(Mixed-effects Models for Repeated Measures)による解析.

(文献26より作成)

副次評価項目の一つである発汗量のレスポンダーの割合及びその群間比較の結果を表4に示した.発汗量のレスポンダーは,発汗量がベースラインから50%以上改善した患者と定義した.4及び8週時のいずれにおいても20%群でプラセボ群と比較してレスポンダーの割合の増加が認められた.

表4第Ⅱ相試験における発汗量のレスポンダーの割合(FAS)

時点 N 割合a),n(%) 群間差[95%CI](vs プラセボ群)
4週 5%群 59 19(32.2) 9.6[-​8.0,27.3]
20%群 60 28(46.7) 24.1[6.1,40.4]
プラセボ群 62 14(22.6)
8週 5%群 58 22(37.9) 5.1[-​13.0,22.9]
20%群 59 31(52.5) 19.8[1.4,36.8]
プラセボ群 61 20(32.8)

a:発汗量がベースラインから50%以上改善した患者をレスポンダーとした.

(文献26より作成)

安全性の結果に関して,有害事象の発現割合は5%群35.0%(21/60例),20%群46.7%(28/60例)及びプラセボ群40.3%(25/62例)であった.大部分の有害事象が軽度であり,重篤な有害事象の報告はなかった.投与中止に至った有害事象は20%群で3.3%(2/60例)報告された.抗コリン作用による有害事象のうち,臨床上注目される事象として,20%群で3.3%(2/60例)の軽度の口渇が報告された.便秘,尿閉(排尿困難),眼調節障害及び認知機能障害の報告はなかった.投与部位に発現した有害事象の発現割合は,5%群5.0%(3/60例),20%群16.7%(10/60例)及びプラセボ群12.9%(8/62例)であり,大部分が軽度であった.

2) 第Ⅲ相検証試験29,30)

本邦において原発性局所多汗症の平均発症年齢は10代~20代前半であり,手掌での平均発症年齢は13.8歳との報告があることから2),18歳未満においてもある程度の患者が存在する.そのため,第Ⅱ相試験の結果を踏まえ,本試験では12歳以上の日本人原発性手掌多汗症患者を対象にした4週間のプラセボ対照ランダム化並行群間比較試験とし,オキシブチニン塩酸塩ローション20%の有効性を検証した.本試験の構成は無治療で有効性評価のベースラインデータを収集する1週間の前観察期と4週間の二重盲検期とした.二重盲検期には患者をオキシブチニン塩酸塩ローション20%群又はプラセボ群のいずれかにランダムに均等割付した.患者は1日1回,就寝前に治験薬500 ‍μL(オキシブチニン塩酸塩として96 ‍mgを含有)を両手掌全体に塗布した.284例(オキシブチニン塩酸塩ローション20%群144例及びプラセボ群140例)の患者に治験薬を投与した.この284例をFAS及びSAFとした.ベースラインにおける20%群及びプラセボ群の平均発汗量は,それぞれ0.8651及び0.8803 ‍mg/cm2/minであり,群間で違いはみられなかった.

有効性の評価は,第Ⅱ相試験と同様に換気カプセル法により測定される発汗量を指標とした.本試験では発汗量のベースラインからの変化量よりも臨床的意義が高いと考えられる発汗量のレスポンダー(発汗量がベースラインから50%以上改善した患者)の割合を主要評価項目とした.4週時,20%群及びプラセボ群の発汗量のレスポンダーの割合は,それぞれ52.8%及び24.3%であった(図4).4週時の発汗量のレスポンダーの割合について,プラセボ群との群間差[95%CI]は28.5[17.0,39.4]%であった.プラセボ群と比較して有意に高く(P‍<‍0.001,Fisherの直接確率法),オキシブチニン塩酸塩ローション20%のプラセボに対する優越性が検証された(表5).また,同レスポンダーの割合について,ベースライン発汗量別のサブグループ解析を実施したところ,いずれのサブグループにおいてもプラセボ群と比較して高い結果であった(表6).副次評価項目とした発汗量のベースラインからの変化量及びhyperhidrosis disease severity scale(HDSS)31)がベースラインから1 Grade以上改善した患者をレスポンダーとした際のHDSSのレスポンダーの割合においてもプラセボ群と比較して改善が認められた(表5).

図4第Ⅲ相検証試験における4週時の発汗量のレスポンダーの割合とその95%CI(FAS)

4週時の発汗量が欠測の患者はノンレスポンダーとして取り扱った.(文献30より作成)

表5第Ⅲ相検証試験における主な有効性の結果(FAS)

有効性評価項目
 時点
20%群
(N‍=‍144)
プラセボ群
(N‍=‍140)
群間差
[95%CI]
P
4週時の発汗量のレスポンダーa)の割合
(主要評価項目),n(%)
76(52.8) 34(24.3) 28.5[17.0,39.4] ‍<‍0.001b)
4週時の発汗量のベースラインからの変化量の最小二乗平均値c),mg/cm2/min -​0.4457 -​0.2306 -​0.2152[-​0.2811,-​0.1493] ‍<‍0.001d)
HDSSのレスポンダーe)の割合,n(%)
 2週 61(42.4) 36(25.7) 16.6[4.9,27.9] 0.0039b),d)
 4週 97(67.4) 60(42.9) 24.5[12.8,35.5] ‍<‍0.001b),d)

HDSS,Hyperhidrosis disease severity scale.

欠測の患者に対してレスポンダーの割合はノンレスポンダー,変化量はベースライン値にて補完した.

a:発汗量がベースラインから50%以上改善した患者.

b:Fisherの直接確率法.

c:投与群及び発汗量のベースライン値を説明変数とした共分散分析.

d:多重性の調整は行っていない.

e:HDSSがベースラインから1 Grade以上改善した患者.

(文献29より作成)

文献29:This article was published in Journal of the American Academy of Dermatology, 89, Fujimoto T, Terahara T, Okawa K, Inakura H, Hirayama Y, Yokozeki H, A novel lotion formulation of 20% oxybutynin hydrochloride for the treatment of primary palmar hyperhidrosis: A randomized, placebo-controlled, double-blind, phase III study, 62-69, Copyright Elsevier (2023).

表6第Ⅲ相検証試験における4週時の発汗量のレスポンダーの割合のサブグループ解析(FAS)

サブグループ 20%群 プラセボ群 群間差[95%CI] Pa)
N 割合,n(%) N 割合,n(%)
ベースライン発汗量
0.500~‍<‍1.000 ‍mg/cm2/min 109 55(50.5) 107 25(23.4) 27.1[14.2,39.7] ‍<‍0.001
≧1.000 ‍mg/cm2/min 35 21(60.0) 33 9(27.3) 32.7[9.0,54.3] 0.0081

欠測の患者はノンレスポンダーとして補完した.

a:Fisherの直接確率法(多重性の調整は行っていない).

(文献29より転載)

文献29:This article was published in Journal of the American Academy of Dermatology, 89, Fujimoto T, Terahara T, Okawa K, Inakura H, Hirayama Y, Yokozeki H, A novel lotion formulation of 20% oxybutynin hydrochloride for the treatment of primary palmar hyperhidrosis: A randomized, placebo-controlled, double-blind, phase III study, 62-69, Copyright Elsevier (2023).

安全性の結果に関して,有害事象の発現割合は20%群‍22.9%(33/144例)及びプラセボ群14.3%(20/140例)であった.大部分の有害事象が軽度であり,重篤な有害事象及び投与中止に至った有害事象の報告はなかった.抗コ‍リン作用による有害事象のうち,臨床上注目される事象として,20%群で3.5%(5/144例)及びプラセボ群で0.7%(1/140例)の軽度の口渇が報告された.便秘,尿閉(排尿困難),眼調節障害及び認知機能障害の報告はなかった.投与部位に発現した有害事象の発現割合は,20%群9.0%(13/144例)及びプラセボ群3.6%(5/140例)であり,大部分が軽度であった.

3) 第Ⅲ相長期継続投与試験32,33)

本試験は,先行試験(第Ⅲ相検証試験)に引き続いて実施された52週間の非盲検長期継続投与試験であり,オキシブチニン塩酸塩ローション20%の長期安全性及び有効性を確認した.先行試験を完了し,継続して治験薬による治療を希望した患者を対象とした.また,本試験から新規に参加を希望する12歳以上の日本人原発性手掌多汗症患者(新規患者)も登録可とした.本試験に登録された患者は1日1回52週間,就寝前にオキシブチニン塩酸塩ローション20% 500 ‍μL(オキシブチニン塩酸塩として96 ‍mgを含有)を両手掌全体に塗布した.新規患者の場合,無治療で有効性評価のベースラインデータを収集する1週間の前観察期の後に52週間の治療を開始した.125例の患者にオキシブチニン塩酸塩ローション20%を投与した.この125例をFAS,SAF及びPKSとした.

有効性の評価は,これまでの臨床試験と同様に換気カプセル法により測定される発汗量を指標とした.有効性の主要評価項目は発汗量のレスポンダーの割合とした.各時点(12,24,36及び52週時)における発汗量のレスポンダーの割合は,60.7から72.6%の範囲を推移した.最終評価時(52週時又は中止時)における発汗量のレスポンダーの割‍合‍は,71.3%(87/122例)であった(図5).コホートごと(先行試験の20%群からの継続患者集団,同試験のプラセボ群からの継続患者集団及び新規患者集団)の解析を実施した結果,12から52週時において発汗量のレスポンダーの割合は,いずれのコホートにおいても同程度の割合で推移した(図5).4週時に患者の印象を調査した結果,大部分の患者が本剤使用前と比較して良好な印象であった(表‍7).

図5第Ⅲ相長期継続投与試験における発汗量のレスポンダーの割合推移(FAS)

●,全体;△,継続患者(第Ⅲ相検証試験からオキシブチニン塩酸塩ローション20%を継続した患者;▲,切り替え患者(第Ⅲ相検証試験でプラセボが投与され,第Ⅲ相長期継続投与試験でオキシブチニン塩酸塩ローション20%に切り替えた患者);×,新規患者.継続患者及び切り替え患者の発汗量のベースライン値には第Ⅲ相検証試験のベースライン値を用いた.横軸の週は第Ⅲ相長期継続投与試験開始後の週数を示し,0週は第Ⅲ相検証試験の4週時(第Ⅲ相検証試験の終点)に相当する.(文献32より作成)

表7第Ⅲ相長期継続投与試験における4週時点の患者の印象(FAS)

質問 評価カテゴリ,n(%)
非常に
良くなった
良くなった 少し
良くなった
変わらなかった 少し
悪くなった
悪くなった 非常に
悪くなった
このおくすり(HP-5070-20)を使いだす前と比べてa),「手」の汗の症状はどうなりましたか.(N‍=‍125) 25(20.0) 31(24.8) 53(42.4) 14(11.2) 0 0 0
このおくすり(HP-5070-20)を使いだす前と比べてa),日常生活全般の印象はどうなりましたか.(N‍=‍125) 16(12.8) 33(26.4) 45(36.0) 29(23.2) 0 0 0

HP-5070-20,オキシブチニン塩酸塩ローション20%.

125例中2例は欠測.

a:先行試験(第Ⅲ相検証試験)から継続している患者は,先行試験での治験薬使用前と比較した.

(文献33より作成)

安全性の結果に関して,有害事象及び副作用(治験薬との因果関係が否定できない有害事象)の発現割合は,それぞれ79.2%(99/125例)及び36.0%(45/125例)であった.大部分の有害事象が軽度であった.重篤な有害事象として白内障,ヘノッホ・シェーンライン紫斑病が各1例報告されたが,いずれも治験薬との因果関係は否定された.投与中止に至った有害事象として適用部位皮膚炎が1.6%(2/125例)報告され,いずれも副作用と判定された.便秘,尿閉(排尿困難)及び認知機能障害の報告はなかった.主な(5%以上の患者に発現)有害事象は,発熱,適用部位皮膚炎,適用部位湿疹,異汗性湿疹,湿疹,ワクチン接種部位疼痛,上咽頭炎,ざ瘡,血中尿酸増加,背部痛,接触皮膚炎であった(表8).

表8第Ⅲ相長期継続投与試験における有害事象発現状況(SAF)

全体(N‍=‍125)
有害事象,n(%)a) 副作用(治験薬との因果関係が否定
できない有害事象),n(%)a)
有害事象全体 99(79.2) 45(36.0)
死亡 0 0
重篤な有害事象 2(1.6) 0
投与中止に至った有害事象 2(1.6) 2(1.6)
重症度別有害事象b)
 軽度 87(69.6) 43(34.4)
 中等度 8(6.4) 2(1.6)
 高度 4(3.2) 0
5%以上の患者に発現した有害事象(MedDRA/J PT)
 発熱 37(29.6) 0
 適用部位皮膚炎 11(8.8) 11(8.8)
 適用部位湿疹 11(8.8) 8(6.4)
 異汗性湿疹 11(8.8) 2(1.6)
 湿疹 10(8.0) 0
 ワクチン接種部位疼痛 9(7.2) 0
 上咽頭炎 8(6.4) 0
 ざ瘡 8(6.4) 0
 血中尿酸増加 7(5.6) 3(2.4)
 背部痛 7(5.6) 0
 接触皮膚炎 7(5.6) 0

MedDRA/J, Medical Dictionary for Regulatory Activities/J; PT, preferred term.

事象名はMedDRA/J version 23.1を用いて読み替えた.

a:同一症例で複数の有害事象が発現した場合,発現例数は1例と集計した.

b:同一症例で複数の有害事象が発現し,重症度が異なる場合,最も重い重症度で1例と集計した.

(文献32より作成)

本剤の安全性において臨床上注目すべき有害事象として,本剤投与部位に発現した有害事象及び抗コリン性有害事象に関して検討した.本剤投与部位に発現した有害事象及び副作用の発現割合は,それぞれ35.2%(44/125例)及び26.4%(33/125例)であった.抗コリン性有害事象として,頭痛が4.8%(6/125例),口渇が3.2%(4/125例),ドライアイ,悪心が各2.4%(3/125例),羞明,咽喉乾燥,傾眠が各0.8%(1/125例)報告された.これらの有害事象のうち,副作用と判定された事象(抗コリン性副作用)の内訳は,口渇が3.2%(4/125例),頭痛,ドライアイ,羞明,咽喉乾燥が各0.8%(1/125例)であった.

また,4,8,12,24,36及び52週時に採血し,患者の血漿中薬物濃度を測定した結果,各時点における平均血漿中オキシブチニン及びDEO濃度は4から52週時まで大きな違いはみられず,長期投与において血漿中薬物濃度は維持されるものと考えられた.解析対象とした125例において,全時点の平均血漿中オキシブチニン及びDEO濃度は,それぞれ23.9 ‍ng/mL及び5.62 ‍ng/mLであった.また,オキシブチニン及びDEOのいずれにおいても年齢区分ごとの血漿中濃度に大きな違いはみられなかった(表9).

表9第Ⅲ相長期継続投与試験の全時点における年齢別の血漿中薬物濃度の記述統計量(PKS)

年齢,歳 全時点における血漿中薬物濃度,ng/mL
採血時点数 平均値(SD)
血漿中オキシブチニン濃度 全体(N‍=‍125) 701 23.9(23.7)
‍<‍18 89 26.7(23.4)
18~‍<‍30 234 24.3(24.7)
30~‍<‍40 89 22.7(26.8)
40~ 289 23.0(22.0)
血漿中DEO濃度 全体(N‍=‍125) 701 5.62(5.35)
‍<‍18 89 6.75(8.04)
18~‍<‍30 234 5.07(4.00)
30~‍<‍40 89 5.01(4.21)
40~ 289 5.90(5.53)

DEO,N-デスエチルオキシブチニン.

(文献33より作成)

5.  結語

アポハイド®ローション20%は,長年にわたり過活動膀胱の治療に使われてきた抗コリン薬オキシブチニン塩酸塩を有効成分とする原発性手掌多汗症治療剤である.本剤は1日1回就寝前,両手掌全体に塗布するローション剤である.

臨床試験では原発性手掌多汗症患者を対象とし,発汗量を指標として本剤の有効性を検討した.検証試験において本剤はプラセボと比較して有意に発汗量のレスポンダー(発汗量がベースラインから50%以上改善した患者)の割合が高く,本剤のプラセボに対する優越性が検証された.検証試験に引き続いて実施した長期継続投与試験において52週間にわたり本剤の効果の持続が認められた.安全性に関して,抗コリン作用による有害事象や適用部位の有害事象(皮膚症状)が報告されたものの,大部分が軽度であった.52週間の長期継続投与試験において治験薬の投与中止に至った有害事象の報告は2/125例(1.6%)と少数であり,副作用が治療の妨げになる可能性は少ないと考えられた.また,長期継続投与試験において重篤な有害事象が報告されたものの,治験薬との因果関係は否定された.

アポハイド®ローション20%は新規の原発性手掌多汗症治療剤として2023年3月に製造販売承認を取得した.原発性局所多汗症診療ガイドラインの診療アルゴリズムによれば,これまで原発性手掌多汗症治療の第一選択として塩化アルミニウム外用療法又は水道水イオントフォレーシス療法のいずれかが推奨されていたが4),本剤の登場によりこれらに外用抗コリン薬が新たに追加された1).アポハイド®ローション20%は,原発性手掌多汗症の患者に新たな治療の選択肢を提供できると考えられる.

利益相反

大川 宏司,寺原 孝明(久光製薬株式会社).

文献
 
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