2025 年 160 巻 1 号 p. 37-42
2019年の耳鼻咽喉科医とその家族を対象としたアンケート調査によれば,アレルギー性鼻炎の有病率は上昇の一途をたどっており,アレルギー性鼻炎全体では49.2%,スギ花粉症は38.8%,通年性アレルギー性鼻炎は24.5%とされている.スギ花粉症については,この20年間における有病率の上昇は顕著であり,発症の低年齢化も含めて社会問題となっている.通年性アレルギー性鼻炎の有病率の上昇は顕著ではないが,依然高い数値を示している.アレルギー性鼻炎は小児で一旦発症すると自然寛解は容易ではなく,その多くが改善なく成人へ持ち越される.特にスギ花粉症は中高年においても自然寛解は一部に限られている.このことが有病率の上昇の一因となっている.アレルギー性鼻炎に対する薬剤療法のほとんどは対症療法であり,アレルゲン免疫療法はアレルギー性鼻炎の自然経過を変えることのできる唯一の治療法である.2014年にスギ花粉症に対する舌下免疫療法が本邦ではじめて保険診療として承認され,現在,本邦で使用できるのはスギ花粉舌下錠とダニ舌下錠である.ダニ舌下錠は2015年から,スギ花粉舌下錠は2018年から販売が開始された.スギ花粉舌下錠(シダキュア®)の第Ⅱ/Ⅲ相試験では,治療を継続することで,3シーズン目にはプラセボに対して46.3%の症状抑制効果を示し,治療終了後も1シーズン目および2シーズン目にそれぞれ45.3%および34.0%と症状を抑制していた.治療終了後も効果が持続することが免疫療法のメリットであり,アレルギー性鼻炎の自然経過を修飾することが明らかにされている.現在,スギ花粉症に対し,政府主導で飛散対策,発生源対策,発症等対策の3本柱で対策がとられている.舌下免疫療法の普及についても言及されており,今後のスギ花粉症診療にも大きく影響する可能性も出てきた.本稿ではスギ花粉症だけではなく,ダニ通年性アレルギー性鼻炎に対する免疫療法も含めて,これまでの知見を概説する.