本邦におけるドラッグ・ラグやドラッグ・ロスが深刻になっており,医薬品の迅速かつ安定な供給のための創薬力強化が求められている.医薬品開発には,安全かつ効率的な臨床試験の実施が不可欠であり,そのためには非臨床試験法の開発や高度化が重要である.近年,動物実験代替法の流れが国際的に加速しており,医薬品開発に関しても,ヒトiPS細胞技術やモデル&シミュレーションなどのNew Approach Methodologies(NAMs)の利用が提唱されている.ヒトiPS細胞由来心筋細胞(ヒトiPS心筋)は,不整脈や心収縮障害などの心毒性のリスク評価における有用性が示されており,すでに承認申請で利用されている.またヒトiPS細胞の技術向上により,最近では成熟型ヒトiPS心筋やEngineered Heart Tissueの医薬品安全性,有効性評価への応用も検討されており,非臨床評価ツールとしての利用が進むと予想される.将来的に,小児や希少疾病患者などの特定集団の特性を反映したヒトiPS細胞技術が可能になれば,個人差を考慮した非臨床試験法の開発や高度化が期待される.本稿では,ヒトiPS細胞技術を利活用した非臨床評価に関する最新の動向と今後の展望について概説する.