2025 年 160 巻 2 号 p. 127-140
透析そう痒症は,透析手法,透析膜,透析液の改良といった医療技術が向上した現在においても,血液透析患者のQOLを著しく低下させる症状のひとつである.透析そう痒症の要因には,皮膚の乾燥,尿毒症性物質の蓄積,ケミカルメディエーターの過剰産生や免疫機能の変化,そしてオピオイドバランスの崩壊などが考えられている.ジフェリケファリン酢酸塩(製品名:コルスバ®静注透析用シリンジ17.5 μg,同25.0 μg,同35.0 μg.以下,ジフェリケファリン)は新規κオピオイド受容体(KOR)作動薬であり,血液透析患者において末梢のKORを介したかゆみの抑制作用を発揮する.非臨床試験において,ジフェリケファリンはKORに高い選択性を示し,ヒスタミンやサブスタンスPによるそう痒モデル動物で抗そう痒効果を示した.また,ヒト単球由来マクロファージにおけるサイトカイン放出抑制やマウスでリポ多糖投与により誘発されたTNFαやIL-1βなどのサイトカイン放出抑制による抗炎症作用を示した.既治療のそう痒症を有する血液透析患者を対象とした国内第Ⅲ相臨床試験において,ジフェリケファリンは主要評価項目である投与4週時の平均かゆみNRSスコアのベースラインからの変化量でプラセボに対する有意な改善を示した.また,かゆみによる睡眠障害やかゆみに関するQOLの改善効果を示し,かゆみの改善効果は投与58週時まで持続した.さらに,長期投与に伴う副作用の増加傾向はなく,遅発性の有害事象及び副作用も認められなかった.これらの結果に基づき,ジフェリケファリンは血液透析患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)を効能又は効果として2023年9月に製造販売承認を取得した.透析回路を介した静注製剤であり服薬負担のないジフェリケファリンは,透析そう痒症の新たな治療選択肢になると期待される.