日本薬理学雑誌
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特集 新規創薬標的を導く感覚器研究の新展開
痒みの伝達機序と治療戦略
出原 賢治, 布村 聡, 南里 康弘, 本田 裕子
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2025 年 160 巻 2 号 p. 79-85

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要約

痒みとは,引っ掻く衝動を止めることが出来なくなる不快な感覚である.日常生活に重大な支障を与えるだけでなく,アトピー性皮膚炎では炎症を増悪させる.このため,痒みの機序の解明と治療戦略の構築は,医学的に重要な課題である.従来,痒みと痛みは同じ神経で伝達されていると考えられていたが,現在では痒みと痛みの感覚を伝達する神経は別個であることが明らかとなっている.また,痒みにおいても,痛みや温度,圧などの感覚と同様に,カルシウムチャネルであるTRPチャネルの関与が重要である.神経科学,分子生物学の進歩により,痒み刺激の伝達機序について分子レベルでの理解が近年飛躍的に進歩した.一方で,免疫学の進歩により,生体防御機構にはいくつかのタイプの免疫システムが備わっており,その中でアトピー性皮膚炎を含めたアレルギー疾患においては2型免疫反応が主体となっていることが明らかとなった.2型免疫反応で産生されるサイトカインは,免疫細胞や組織構成細胞上の受容体に結合してアトピー性皮膚炎などの病態を形成することが知られていたが,近年知覚神経上の受容体に結合して,直接痒み刺激を伝達することが判明した.これは,痒み刺激の伝達には,免疫反応と神経伝達反応をサイトカインがリンクさせていることを示しており,画期的な発見となった.これにより,アトピー性皮膚炎の痒みの機序の理解が飛躍的に深まるとともに,2型サイトカインなどの2型免疫反応メディエーターを標的としたアトピー性皮膚炎に対する治療薬の開発につながり,アトピー性皮膚炎の治療を劇的に変える背景となった.本総説では,このような近年の痒みの伝達機序について,ならびに,アトピー性皮膚炎における痒みの機序とそれに対する治療戦略の構築について述べている.

Abstract

Itch is an unpleasant sense to evoke desire to scratch skin. Itch not only disturbs daily lives, but also exacerbates inflammation in case of atopic dermatitis (AD). It had been thought that both itch and pain are transduced by the same neurons; however, it is now known that neutrons transducing either itch or pain are distinct. Moreover, TRP channels, a family of calcium channels, play an important role for transducing itch as well as pain, temperature, and pressure. Development of neuroscience and molecular biology has dramatically advanced our understanding of how itch is transduced in recent years. On the other hand, development of immunology has revealed that there exist several immune types in our host defense mechanism and that type 2 immune reaction is dominant in the pathogenesis of allergic diseases including AD. Although it had been already known that type 2 cytokines contribute to the pathogenesis of AD by binding to their receptors on both immune cells and tissue resident cells, it has been recently found that several type 2 cytokines directly transduce the itch signals by binding to peripheral nerves. Due to this discovery, we can understand more deeply the itch mechanism of AD and can develop molecularly targeted drugs for AD targeting type 2 cytokines, which has dramatically changed the treatment of AD. In this review article, we describe the progress of our recent understanding of the itch mechanism and the strategy of treatment against it.

1.  はじめに

痒みとは,引っ掻く衝動を止めることが出来なくなる不快な感覚を指す1).本来は,外界からの何らかの危険を知らせる信号として,進化的に備わった感覚として考えられているが,集中力を途切らせたり,不眠を引き起こしたりして,日常生活に重大な支障を与える.また,アトピー性皮膚炎においては引っ掻くことにより皮膚のバリア機能が障害され,アレルゲンが体内に侵入しやすくなり,炎症を増悪させる要因となる.このため,痒みの機序を解明し,それに対する治療戦略を構築することは,医学的に非常に重要な課題となっている.

従来,痒みと痛みは同じ神経で伝達され,痛みより弱い刺激として痒みを感じると捉えられていた2).しかし,神経科学や分子生物学の進歩により,痒みと痛みの感覚を伝達する神経は別個であることが明らかとなる一方で,痒みにおいても,痛みや温度,圧などの感覚と同様に,カルシウムチャネルであるTRPチャネルにより刺激が伝達されることが明らかとなった1,3).このように,痒み刺激の伝達機序について,分子レベルでの理解が近年飛躍的に進歩した.一方で,免疫学の進歩により,アトピー性皮膚炎においては2型炎症が主体となっており,2型炎症のメディエーターが直接痒み神経を刺激して,痒み刺激を伝達することも最近明らかとなり,それに基づいた治療薬が使用されるようになった3).

本総説では,このような近年の痒みの伝達機序についての知見をまとめるとともに,アトピー性皮膚炎における痒みの機序とそれに対する治療戦略の構築について述べたい.

2.  痒みを引き起こす病的状態

本来痒みは外界からの危険が迫っていることを知らせる信号であり,生体防御機構の一つとして機能していると考えられている.しかし,いくつかの病的状態において,痒みが重要な症状として現れてくることも知られている.これらを分類すると以下のようになる(表1)3).①皮膚疾患としてのアトピー性皮膚炎,乾癬,結節性痒疹.②皮膚以外の臓器からの全身疾患としての肝不全,腎不全,薬剤.③神経疾患としての神経炎症,脳卒中,線維筋痛症.④精神障害.これらについては,痒みを軽減することが,患者のQOLを改善する上で非常に重要となる.

表1痒みを引き起こす病的状態

1.皮膚疾患 アトピー性皮膚炎,乾癬,結節性痒疹
2.皮膚以外の臓器からの全身疾患 肝不全,腎不全,薬剤
3.神経疾患 神経炎症,脳卒中,線維筋痛症
4.精神障害

3.  痒みを引き起こす物質と痒みを感知する受容体

皮膚では外界からの様々な刺激物質に反応して,マスト細胞,リンパ球,好塩基球,自然リンパ球などの免疫細胞や角化細胞などから痒みを引き起こす物質,起痒物質が産生されて放出される.それ以外にも微生物由来の物質や薬剤の一部も起痒物質となりうる(表2)3).しかし,全ての起痒物質が明らかになっているわけではなく,肝不全や腎不全の際に痒みを引き起こす物質についてはほとんど不明のままである.

表2痒みを引き起こす物質とその受容体

受容体 起痒物質
1.GPCR
 (1)アミン受容体 ヒスタミン,ブラジキニン,セロトニン
 (2)MRGPR アラニン,クロロキン
 (3)PAR カリクレイン,カテプシンS,トリプターゼ,パパイン
 (4)ペプチド受容体 エンドセリン1,サブスタンスP
 (5)代謝産物受容体 胆汁酸,リソゾホスファチジン酸(LPA)
2.サイトカイン/ケモカイン受容体 IL-31,TSLP,IL-4/IL-13,IL-33
3.TLR ポリI:C,イミキモド
4.インテグリン ペリオスチン

皮膚で産生されたり,外界から体内に侵入してきたり,あるいは薬剤として投与された起痒物質は,知覚神経上の受容体に結合して痒み刺激を伝達する.そのような痒み受容体は,①Gタンパク質共役型受容体(GPCR),②サイトカイン/ケモカイン受容体,③Toll様受容体(TLR)に分類される.GPCRはさらに,(1)アミン受容体,(2)MRGPR(Mas-related G protein-coupled receptor),(3)プロテアーゼ受容体(PAR:protease-activated receptor),(4)ペプチド受容体,(5)代謝産物受容体に分類される(表2)1).

筆者と他のグループは,これらに加えてマトリセルラータンパク質のペリオスチンが新規の起痒物質であることを明らかにした4,5).マトリセルラータンパク質とは,細胞外マトリックスタンパク質の中で,サイトカインのように細胞表面上の受容体に結合して細胞内にシグナルを伝達し,細胞を活性化するタンパク質を指す.ペリオスチンの受容体はインテグリンであることから,ペリオスチン/インテグリンは,新たな痒み伝達システムの組み合わせとなる.ペリオスチンの発見,特徴,痒みとの関連などについては,他の総説を参考にしていただきたい6,7).

4.  痒みを伝達する知覚神経

末梢において痒みを感知する神経はpruriceptorと呼ばれ‍ている1).Pruriceptorは痛みを感知する機能を持つnociceptorの一つのクラスとして位置付けられている.ただ,後述するように,痛みを感知する神経と痒みを感知する神経はそれぞれ独立している.

一方で,知覚神経は形態学的特徴により以下の4つに分類される(表3)1,3).①大直径で厚いミエリン鞘に覆われた固有受容器神経,②Aβ型神経:大直径でミエリン鞘に覆われた神経,③Aδ型神経:中直径で薄いミエリン鞘に覆われた神経,④C型神経:小直径でミエリン鞘に覆われていない神経.C型神経はAδ神経に比べて神経伝達速度が遅い.Aβ型神経は触覚に,Aδ型神経は痛覚,圧覚に,C型神経は痛覚,痒み覚,温度覚に関与している.痒みを感知する神経のほとんどはC型神経であり,一部がAδ型神経である.

表3痒みを伝達する知覚神経

1.大直径で厚いミエリン鞘に覆われた固有受容器神経
2.Aβ型神経:大直径でミエリン鞘に覆われた神経 触覚に関与
3.Aδ型神経:中直径で薄いミエリン鞘に覆われた神経 痛覚,圧覚に関与
4.C型神経:小直径でミエリン鞘に覆われていない神経 痛覚,痒み覚,温度覚に関与

知覚神経は後根神経節(dorsal root ganglion:DRG)とも呼ばれる.マウスDRG神経は,シングルセルRNA-seq解析により11のサブグループに分類されることが示され8),現在それを基準として知覚神経の命名がなされている.こ‍の11のサブグループは,NF(neurofilament containing)1-5,PEP(peptidergic nociceptor)1,2,NP(non-peptidergic nociceptor)1-3,TH(tyrosine hydroxylase containing)と呼ばれている.NP1-3はC型神経に属し,痒みを伝達する役目を持っていると考えられている.NP1はMRGPRDを,NP2はMRGPRA3を,NP3はIL-31受容体を発現していることが特徴である.NP2とNP3はともにヒスタミン受容体とIL-33受容体を発現している.また,IL-4/IL-13受容体はNP1からNP3の全てに発現している9).これらを含めて,これまでNP1-3において発現していることが示されているマーカーを表4にまとめた8,10–12).ペリオスチンの受容体であるインテグリンを発現している神経は,NP1,あるいはNP3と考えられている5,8).

表4NP1-3のマーカー

NP1 Gfra2, Mrgprd, Lpar3, Lpar5, Hrh1, Gfra1*
NP2 TrkA, Cgrp, Mrgpra3, Mrgprc11, Hrh1, Gfra1
NP3 Sst, Nppb, Nts, IL31ra, Osmr, Htr1f, Htr2a, Hrh1, Cysltr2,

Gfra: GDNF family receptor α, Lpar: lysophosphatidic acid receptor, Hrh1: histamine receptor H1, TrkA: NAD-binding component of Trk potassium transporters, Cgrp: calcitonin related polypeptide α, Sst: somatostatin, Nppb: natriuretic peptide B, Nts: neurotensin, Osmr: oncostatin M receptor, Htr: 5-hydroxytryptamine receptor, Cysltr2: cysteinyl leukotriene receptor 2

*Gfra1については,NP2のみのマーカーとする報告11)とNP1にも発現しているとする報告12)の両方がある.

5.  痒みに関連するイオンチャネル

痒みの伝達においても,痛み,温度,圧の感覚と同じように,カルシウムチャネルであるTRPチャネルが重要であることが知られている.しかし,これ以外にも痒みの伝達に関連するイオンチャネルは存在する.痒みの伝達に関連するイオンチャネルには,ナトリウムチャネルであるNav1.9,Na+,K+,Ca2+,Mg2+イオンなどの陽イオンのチャネルであるPiezo2,Ca2+活性化Cl-チャネルであるanoctamin(Ano)1,そしてカルシウム透過性の非選択的チャネルであるTRPV1/TRPA1が含まれる(表5)1).Nav1.9は小直径でミエリン鞘に覆われていないnon-peptidergicな神経に発現しており,Nav1.9欠損マウスでは起痒物質による痒みが減弱する一方で,機能獲得型の変異Nav1.9発現マウスでは痒みが増強していた13).Piezo2は触覚に関与するメルケル細胞に発現しているが,メルケル細胞で欠損させると物理的な刺激による痒みが増強した14).Ano1のDRG神経特異的欠損マウスでは,クロロキン,胆汁酸による痒みが減弱していた15).Ano1はTRPA1/TRPV1とリンクして機能しているのではないかと考えられている16).一方で,TRPV1,あるいはTRPA1を欠損,あるいは阻害すると,小分子量のハプテン,脂質,胆汁酸,セロトニンによる痒みが減弱した17–21).また,miRNA-711はTRPA1を活性化することで痒みを引き起こした22).このように,TRPV1/TRPA1は痒みの伝達に非常に重要な役割を果たしている.TRPV1はNP2とNP3に,TRPA1はNP1-3の全てに発現していると考えられている8,9).

表5痒みに関連するイオンチャネル

Nav1.9 ナトリウムチャネル
Piezo2 陽イオンチャネル(Na+,K+,Ca2+,Mg2+)
Ano1 Ca2+活性化Cl-チャネル
TRPV1/TRPA1 カルシウム透過性の非選択的チャネル

6.  痒み刺激と痛み刺激との違い

長い間痒みと痛みは同じ神経で伝達されると考えられていた.しかし,gastrin-releasing peptide(GRP)受容体を発現している神経が痒みだけを伝達していることが判明して,大きなパラダイムシフトが起こった.つまり,GRP受容体を欠損させると痒み刺激は抑制されるが,痛み刺激は変化ないことから,GRP受容体陽性神経が痒み伝達特異的神経であると判明した23,24).このように痒みと痛みの感覚の違いを区別できるようになったのは,マウスにおいて痒み感覚と痛み感覚を区別できる方法を確立できたためである25).このモデルでは,痒みを感じる場合には後ろ足を使って引っ掻き行動を起こすことが示された.さらに,前足を使った拭い行動だと痛みを感じていることで,両者を区別することができ,現在ではこのモデルが一般的に使用されている26).痒み刺激特異的神経の発見により,その後痒みと痛みは区別されるようになった.そして,Na+チャネルブロッカーであるQX-314は,ヒスタミンによる痒みを阻害するが,カプサイシンによる痛み刺激は阻害しない27),あるいは,MRGPRA3+神経を欠損させると,痒み刺激に対する引っ掻き行動は減少するが,カプサイシンによる痛み刺激は変化しない一方で,MRGPRA3+神経を選択的に活性化させると,痒みによる引っ掻き行動は起こるが,痛みによるワイピングは起こらない28)といった知見が蓄積し,痒み刺激と痛み刺激の区別は確立された.ただ,脊髄において痛み伝達神経は痒み伝達神経を抑制することも知られており,カプサイシンはTRPV1を介して痛み特異的神経と痒み特異的神経の両方を活性化するが,痛みだけ残ることや29),古くから痒みの抑制効果を持つことが知られているメントールの外用は,TRPM8を介した冷感刺激により痒みを抑制していること30)などが示されている.

7.  アトピー性皮膚炎における2型炎症の重要性

私達の体に備わっている免疫機構には,体内に侵入してくる微生物に合わせていくつかのタイプが存在している.現在では,1型,2型,17型の3つが主な免疫機構のタイプであると考えられており,これ以外に,IL-21を産生する濾胞性T細胞(Tfh細胞)なども存在する(図1).1型,2型,17型免疫反応に関与する自然リンパ球(ILC),ヘルパーT細胞(TH)はそれぞれ特異的であり,1型免疫反応ではILC1とTH1細胞が,2型免疫反応ではILC2とTH2細胞が,17型免疫反応ではILC3とTH17細胞が関与している.これらの自然リンパ球とヘルパーT細胞が産生する特徴的なサイトカインとして,ILC1とTH1細胞ではIFN-γが,ILC2とTH2細胞ではIL-4,IL-5,IL-13が,ILC3とTH17細胞ではIL-17とIL-22が産生される.標的としている微生物も異なっており,1型免疫反応では細胞内微生物が,2型免疫反応では寄生虫が,17型免疫反応では細胞外細菌と真菌が主な標的となっており,それらを排除するのに適切な生体防御機構を構築している.

図1免疫反応のタイプ

1型,2型,17型の免疫反応において,関与しているヘルパーT細胞/自然リンパ球,産生されるサイトカイン,標的となる微生物を示している.

アトピー性皮膚炎を含めたアレルギー疾患の病態においては,2型免疫反応が主体であることが知られている(図2)31).皮膚から侵入してきたアレルゲンは,樹状細胞に貪食されるか,角化細胞を刺激する.樹状細胞に貪食されたアレルゲンはナイーブT細胞に抗原を提示され,ナイーブT細胞はTH2細胞に分化する.TH2細胞は前述したように,IL-4,IL-5,IL-13などの2型サイトカインを産生する.これに加えて,アレルゲンにより刺激された角化細胞はIL-33,thymic stromal lymphopoietin(TSLP),IL-25などの上皮性サイトカインを産生し,これらがILC2を活性化し,活性化されたILC2はIL-5,IL-13などを産生する.さらに,アトピー性皮膚炎ではTH22細胞から産生されるIL-22も病態形成に関与している.2型サイトカインであるIL-4,IL-5,IL-13は,免疫細胞と組織構成細胞の両方に作用して,アトピー性皮膚炎の病態を形成する(図3).IL-4とIL-13はB細胞に作用してIgE産生を誘導する一方で,IL-5は好酸球を活性化する.B細胞で産生されたIgEはマスト細胞や好塩基球の細胞表面上に発現しているFcε受容体に結合し,そこにアレルゲンが侵入してIgEと結合すると,マスト細胞や好塩基球が活性化されて,脱顆粒が起こる.また,IL-13は角化細胞の増殖,線維芽細胞での線維化にも関与している.さらに,後述するように,IL-4とIL-13は末梢神経に作用して痒みも引き起こす.アトピー性皮膚炎における炎症における2型サイトカインの重要性は,遺伝子改変マウスをアトピー性皮膚炎モデルに適用することにより,あるいは中和抗体を投与することにより証明されている32–35).

図2アトピー性皮膚炎における2型免疫反応の重要性(中原他, 西日本皮膚科, 2023より引用)

アトピー性皮膚炎における炎症に関与する細胞,ならびにメディエーターを示している.2型免疫反応が主体となっていることが分かる.

図3IL-4とIL-13の皮膚における作用

IL-4とIL-13の皮膚における免疫細胞と組織構成細胞への作用を示す.T細胞におけるTH2細胞への分化作用については,IL-4のみが持っており,IL-13は持っていない.

8.  2型免疫反応メディエーターによる痒みの惹起

これまでも知覚神経上のGPCRに結合して痒み刺激を伝達する起痒物質は数多く知られていた(表2).これに加えて,近年2型免疫反応に関与するサイトカインの一部が直接知覚神経上に発現している受容体に結合して痒み刺激を伝達することが判明した.これには,IL-4,IL-13,IL-31,IL-33,TSLPが含まれる(図4)36–38).IL-4とIL-13は特徴的な2型サイトカインであり,IL-33とTSLPはアレルゲンの刺激により角化細胞で産生される上皮性サイトカインである.IL-31はIL-6ファミリーに属するサイトカインであり,IL-31受容体はIL-31受容体α鎖とオンコスタチン受容体β鎖より構成される39).IL-31はTリンパ球,単球/マクロファージ,樹状細胞,角化細胞,好酸球,好塩基球,マスト細胞,線維芽細胞など数多くの細胞で産生される.Tリンパ球では主にTH2細胞で産生されるが,それに限定されるわけではない.IL-31受容体α鎖も角化細胞,好酸球,マスト細胞,好塩基球など数多くの細胞に発現しており,これらの細胞がIL-31の標的となるが,特に重要な標的がDRG神経である.IL-31がDRG神経上の受容体に結合して痒みを引き起こすことがモデルマウスの実験により示されており40–42),また,NP3がIL-31受容体を発現している.

図4アトピー性皮膚炎における末梢神経での2型免疫反応メディエーターによる痒みの惹起(中原他, 西日本皮膚科, 2023を改変)

GPCRを介した起痒物質に加えて,IL-4,IL-13,IL-31,IL-33,TSLPといった2型サイトカインが末梢神経上の受容体に結合して痒み刺激を伝達する.さらに,ペリオスチンはインテグリンを介して痒み刺激を伝達する.NK-1R: neurokinin-1 receptor.

知覚神経上に2型サイトカイン受容体が発現しており,2型サイトカインが直接知覚神経に作用して痒み刺激を伝達するという知見は,免疫反応と神経伝達反応をサイトカインがリンクさせているという点で,画期的な発見であった.これにより,アトピー性皮膚炎の痒みの機序の理解が飛躍的に深まるとともに,アトピー性皮膚炎の治療を劇的に変える背景となった.筆者と他のグループは,前述したように最近マトリセルラータンパク質のペリオスチンが知覚神経上のインテグリンに結合して痒み刺激を伝達することを見出したが4,5),これも2型免疫反応メディエーターが末梢神経に直接作用して痒み刺激を伝達するという点では,同じような仕組みであると言える.

9.  アトピー性皮膚炎に対する分子標的薬

アトピー性皮膚炎の治療においては,長くステロイド外用薬が保湿剤とともに第一選択薬として用いられており,その使用は1952年に始まり,70年以上に渡っている.その間アトピー性皮膚炎の治療においては,1999年に免疫抑制剤外用薬が登場した以外には,ほとんど変化がなかった.そうしたところ,2017年(日本では2018年)に初めてのアトピー性皮膚炎に対する分子標的薬が登場し,その後現在までにいくつかの薬剤が使用されるようになった.この間登場した分子標的薬は,IL-4/IL-13受容体阻害薬,JAK阻害薬,IL-31受容体阻害薬,IL-13阻害薬,PGE4阻害薬,aryl hydrocarbon receptor(AhR)作動薬である(表6).これらの薬剤がステロイド外用薬で治療困難な患者に使用されるようになり,アトピー性皮膚炎の治療は劇的に変化した.IL-4受容体α鎖はType 1 IL-4受容体とType 2 IL-4受容体で共通に使用されている受容体構成成分であり43),デュピルマブはIL-4受容体α鎖に結合することにより,IL-4とIL-13の両方のシグナルを抑制する.JAKはサイトカインのシグナル伝達に使用されているチロシンキナーゼであり,JAK1-3,TYK2の4つが存在する.サイトカインによってどのJAKメンバーを使用しているのか異なっている44).デルゴシチニブ,バリシチニブ,ウパダシチニブ,アブロシチニブのJAK阻害薬は,それぞれどのJAKメンバーを阻害するかが異なっているとともに,デルゴシチニブのみ外用薬であり,他は経口薬である45).ネモリズマブはIL-31受容体α鎖に結合してIL-31のシグナルを阻害する.トラロキヌマブとレブリキズマブはともにIL-13に結合してIL-13シグナルを阻害する.ただ,IL-4シグナルは阻害しない.タピナロフはAhR作動薬であり,AhRを介するシグナルを増強してアトピー性皮膚炎を改善する46).筆者らは,これらに加えてペリオスチンの受容体であるインテグリンの阻害薬をアトピー性皮膚炎に対する治療薬として創薬の開発を進めている.詳細については,他の総説を参考にしていただきたい6,7).このように,数多くの分子標的薬が登場してきて,どの患者にどの薬剤を使用するかの基準を定めることが,臨床現場での課題となっている.

表6アトピー性皮膚炎に対する分子標的薬

商品名 一般名 標的 投与
デュピクセント デュピルマブ IL-4/IL-13受容体 皮下注
コレクチム デルゴシチニブ JAK1-3//TYK2 外用
オルミエント バリシチニブ JAK1/JAK2 経口
リンヴォック ウパダシチニブ JAK1 経口
サイバインコ アブロシチニブ JAK1 経口
ミチーガ ネモリズマブ IL-31受容体 皮下注
アドトラーザ トラロキヌマブ IL-13 皮下注
イブグリース レブリキズマブ IL-13 皮下注
モイゼルト ジファミラスト PGE4 外用
ブイタマー タピナロフ AhR 外用

10.  おわりに

近年の痒みの伝達機序についての知見をまとめるとともに,アトピー性皮膚炎における痒みの機序とそれに対する治療戦略の構築について述べた.神経科学と免疫学の発展が,痒みの伝達機序,特にアトピー性皮膚炎における痒みの解明とアトピー性皮膚炎に対する治療薬の開発に大きく寄与した.痒みに関する研究は,神経科学と免疫学の両面からの視点が必要な免疫―神経連関と言うべき新たな領域となっており,今後の発展が期待されている.そして,それにより新たな創薬が進み,アトピー性皮膚炎患者にとっての福音となることが期待されている.

利益相反

出原 賢治(シノテスト株式会社,鳥居薬品株式会社,マルホ株式会社).

文献
Biographies

出原 賢治(いずはら けんじ)

佐賀大学 医学部 分子生命科学講座アレルギー学分野,特任教授,医博.

◇1984年九州大学医学部卒業,同大学第一内科入局,1991年~1994年米国DNAX分子生物学研究所免疫学部門留学,1994年~2000年国立遺伝学研究所人類遺伝学部門,九州大学医学部検査部,2000年~2024年佐賀大学医学部分子生命科学講座分子医化学分野教授,2024年4月より現職.順天堂大学客員教授,京都大学,九州大学,熊本大学,筑波大学,東京医科歯科大学,富山大学,愛知医科大学の非常勤講師を歴任.◇研究テーマ:アレルギー疾患の病態解明と臨床応用.

 
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