日本薬理学雑誌
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特集 新規創薬標的を導く感覚器研究の新展開
痒みの伝達機序と治療戦略
出原 賢治布村 聡南里 康弘本田 裕子
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2025 年 160 巻 2 号 p. 79-85

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抄録

痒みとは,引っ掻く衝動を止めることが出来なくなる不快な感覚である.日常生活に重大な支障を与えるだけでなく,アトピー性皮膚炎では炎症を増悪させる.このため,痒みの機序の解明と治療戦略の構築は,医学的に重要な課題である.従来,痒みと痛みは同じ神経で伝達されていると考えられていたが,現在では痒みと痛みの感覚を伝達する神経は別個であることが明らかとなっている.また,痒みにおいても,痛みや温度,圧などの感覚と同様に,カルシウムチャネルであるTRPチャネルの関与が重要である.神経科学,分子生物学の進歩により,痒み刺激の伝達機序について分子レベルでの理解が近年飛躍的に進歩した.一方で,免疫学の進歩により,生体防御機構にはいくつかのタイプの免疫システムが備わっており,その中でアトピー性皮膚炎を含めたアレルギー疾患においては2型免疫反応が主体となっていることが明らかとなった.2型免疫反応で産生されるサイトカインは,免疫細胞や組織構成細胞上の受容体に結合してアトピー性皮膚炎などの病態を形成することが知られていたが,近年知覚神経上の受容体に結合して,直接痒み刺激を伝達することが判明した.これは,痒み刺激の伝達には,免疫反応と神経伝達反応をサイトカインがリンクさせていることを示しており,画期的な発見となった.これにより,アトピー性皮膚炎の痒みの機序の理解が飛躍的に深まるとともに,2型サイトカインなどの2型免疫反応メディエーターを標的としたアトピー性皮膚炎に対する治療薬の開発につながり,アトピー性皮膚炎の治療を劇的に変える背景となった.本総説では,このような近年の痒みの伝達機序について,ならびに,アトピー性皮膚炎における痒みの機序とそれに対する治療戦略の構築について述べている.

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