生体に備わるセンサーは体の内外環境を感知し,ホメオスタシスを維持するために,体温や物質濃度を適正な方向へ向かって修正するきっかけを作るが,美味しさを求めて必要以上に脂肪・糖・塩を摂取してしまえば生活習慣病(脳血管・心臓疾患・糖尿病等)へ,食欲の低下した高齢者等で味覚減退が起これば低栄養からフレイルや要介護へとつながるリスクとなる.そこで本総説では,加齢の影響が甘味,うま味,苦味,酸味,塩味の5つの基本味のうちどの味覚に現れるのかについて解説し,次に,口臭の原因になったり,高齢者等が,誤嚥を起こせば肺炎を惹起するなどの問題を引き起こす,口腔内の細菌と舌苔の,味覚への影響についてまとめた.また,健康な人でも,特定の味物質を日常的に食べ続けるような食生活を送ることで,味覚感受性が変化し,健康リスクが発生する.そして,脂肪酸の味覚の発見から現在までの研究をまとめ,摂食調節に味覚が関わることで生体のホメオスタシスにどのように関与していくのかを,文献調査によってまとめ考察した.最近,脂肪の嗜好に関与する脳腸間の回路が特定された.腸においても舌における味覚と同じ受容体で脂肪酸が感知され,迷走神経を通じて脳へ栄養情報が送られるが,脂肪酸特異的な栄養情報を伝える神経が発見されていることは大変興味深い.このように口腔内の味覚と,消化管の栄養センシングは大変似ているため,相互で参考にしながら研究を発展させていくことは大変有意義であると考えている.
The sensory system detects the internal and external environment of the body and the stimulus trigger feedback loops toward the set point to maintain homeostasis, but if taste sensitivity has changed, we may consume more nutrients or loss of appetite. These can lead metabolic syndrome or malnutrition, which can lead to frailty. In this review, we examined which of the five basic tastes (sweet, umami, bitter, sour, and salty) is affected by aging. Next, we summarize the effects of oral bacteria and tongue coating on taste, which can cause problems such as bad breath and aspiration pneumonia. Even healthy people can change their taste sensitivity and pose health risks if they continue to eat certain taste substances on a daily basis. Furthermore, we summarize research from the discovery of the taste of fatty acids to the present, and discuss how the involvement of taste in food intake regulation contributes to homeostasis through a literature survey. Recently, a gut-brain circuit for fat preference has been identified. In the intestine, fatty acids are sensed by the same receptors as those in the taste buds of the tongue, and nutritional information is sent to the brain via the vagus nerve. It is very interesting that nerves that convey fatty acid-specific information have been discovered. In this way, taste system of the tongue and nutrition-sensing in the digestive tract are very similar, so we think it will be very meaningful to progress research by referring to each other.
生体に備わるセンサーは体の内外環境を感知し,ホメオスタシスを維持するために,体温や物質濃度を適正な方向へ向かって修正するきっかけを作るが,私たちはしばしば必要以上に脂肪・糖・塩を摂取してしまい,生活習慣病(脳血管・心臓疾患・糖尿病等)から死へのドミノが始まる危険性が高まる.一方で,食欲の低下した高齢者等で味覚減退が起これば,食が進まず,低栄養からフレイル,ひいては要介護へとつながるリスクとなる.このように人の健康に対し,味覚は大きなドライビングフォースであるにもかかわらず,未だ不明な点が多く残っているだけでなく,現在までの研究から健康との関連を考える機会も少ないのが現状である.
そこで本総説では,味覚の感受性に影響を与える要因の中で特に認知度が低いと思われる事項を中心に解説し,最近の筆者らの研究も含めた脂肪酸の味覚研究の要点を整理しつつ,味覚への理解を深めて健康へつなげたいと考える.
味覚に関する疫学的研究は,近年特にヨーロッパにおいて進展している.18~80歳の比較的健康な集団(男性と女性)(対象者:コーカサス系ヨーロッパ人,n=1020人)において,甘味,塩味,苦味,酸味,うま味の5つの基本味の強度評価に対する年齢と性別の影響を調べた研究では,5つの味覚すべての強度評価は加齢とともに低下した(すべてP<0.05).この逆相関は味質によって異なり,苦味と酸味は特に関連が高かった.性別では,女性は男性よりもほとんどの味覚を有意に強いと評価したが,うま味については有意差が無かった(P=0.069).このことから,加齢の影響は苦味と酸味に出やすく,男女の比較でうま味は性別の影響を受けにくいが,そのほかの味は性差の存在が示されている1).
加齢の影響について動物実験でも共通点が報告されている.17~23月齢のマウスの茸状乳頭の味細胞の電気生理学的特性を研究することにより,加齢による味覚の変化を評価した研究では,Ⅲ型細胞(酸味受容細胞および/または塩味受容細胞)の電位依存性Na+およびK+電流密度は,加齢により減少したが,Ⅱ型細胞の電流密度への影響は見られず,末梢レベルでは,加齢によりⅢ型細胞の興奮性が低下するため,Ⅲ型細胞が担う酸味とアミロライド非感受性の塩味のシグナル伝達に影響を与える可能性が示唆されている2).アミロライド感受性の塩味は上皮性ナトリウムチャネル(ENaC)で受容され,それを発現する塩味細胞はⅠ~Ⅲ細胞のどれにも合致しない可能性が指摘されているが,アミロライド非感受性の塩味細胞については,陽イオンチャネルや炭酸脱水酵素4などを発現する酸味受容細胞とかなりオーバーラップしており,高濃度の塩を嫌う行動へ結びつくことや3),最大応答を引き起こすためにCl-が必要であるため陰イオンチャネルTMC4が関与するという報告もある4).苦味に関しては,苦味受容を含むⅡ型細胞の電流密度への影響が見られなかったが2),筆者らの研究では,茸状乳頭につながる鼓索神経の単一神経レベルで,Ⅱ型細胞につながる苦味神経は,同じくⅡ型細胞につながる甘味神経のおよそ4分の1程度しかなく5),圧倒的少なさから,結果に表れなかった可能性がありうる.
フレイルやサルコペニアを予防するためには,食事が重要で,例えば活動量が低い75歳以上の女性でも,1日53~70 gのタンパク質の摂取が推奨されている6).食品中のタンパク質を知るための味覚であるうま味は,上記のように性別による差がほとんどないとのことだが,加齢の影響はどうだろうか? 佐藤らは,グルタミン酸ナトリウム(MSG)の6段階の濃度を設定し,ろ紙ディスク法による味覚の臨床検査を開発した.味覚障害のある患者28名と味覚障害のない対照群184名(若年者102名,高齢者82名)の舌前方,舌後方,そして軟口蓋のいずれにおいても,若年者と高齢者の参加者の認知閾値に有意差は認められなかった7).以前Schiffmanらは,全口腔法で測定した場合,MSGの認知閾値は高齢者の方が若年者より高いと報告した8)が,佐藤らは唾液分泌低下や全身疾患(内分泌疾患,感染症,免疫疾患など)のある個人を慎重に除外した点が大きく異なり,他の報告では,参加者の全身状態が考慮されていないのが原因と考えられる7).従って単に加齢のみの影響となると,うま味に影響は無いと考えられ,健康な高齢者はうま味を十分に感じて食事ができる可能性が高いが,酸味や嫌悪性の塩味については鈍感になるため,高濃度の塩の摂りすぎには注意が必要である.
味覚障害の診断について,味覚の受容機構に基づいて伝導障害,末梢受容器障害,神経障害,中枢障害,心因的要素の5つの障害部位に分類すると理解しやすいとされている.治療に亜鉛が用いられることは有名だが,亜鉛に関連する味覚障害の多くは,末梢受容器障害が原因と考えられている9).5つの障害部位の中で,口腔内乾燥(唾液分泌不全)や舌苔などが原因で,呈味物質が味蕾まで到達しないことで生じる味覚障害は,伝導障害に分類される.舌苔は剥離上皮,白血球,微生物などの付着や停滞から生じると考えられており,口臭を引き起こす大きな原因であることも知られるようになってきた.舌苔が,味蕾に味物質が届く前の段階で物理的な障害になっているのは想像に難くないが,近年は舌苔やその周辺に存在する口腔内細菌が,化学的にも味覚に影響を与えていることが示されている.
Solemdalらは,乳酸菌の増殖が著しい小児や急性期入院高齢者では,特に酸味が損なわれていることを発見した.彼らは,舌が細菌によって産生される酸にさらされ続けた結果,酸味に対する順応を引き起こし,酸味の閾値を上昇させる可能性があると示唆した10).しかし最も報告が多いのは,苦味物質に対する感受性と細菌群の関連である.味覚の個人差に関する遺伝的な原因として有名なPTC味盲,すなわち苦味受容体T2R38のハプロタイプの遺伝子変異は,phenylthiocarbamide(PTC)や6-n-プロピルチオウラシル(PROP)の感受性に関与している.この受容体の49,262,および296番目のアミノ酸をコードする位置にある3つの一塩基多型が原因で,アミノ酸がPAV(プロリン,アラニン,バリン)の場合はPTCやPROPに感受性が高く(PAV/PAV,スーパーテイスター),AVI(アラニン,バリン,イソロイシン)を持つ人は,感受性が低くなる(AVI/AVI,ノンテイスター)11).この遺伝子変異との関連では,スーパーテイスターは,ノンテイスターと比較して,グラム陽性菌のActinomyces,Oribacterium,Solobacterium,Catonella,およびグラム陰性菌のCampylobacterを含む5つの細菌属が,過剰に存在していたことが報告され12),他の研究グループによっても,スーパーテイスターとノンテイスターでは口腔内微生物組成がかなり異なることが示された13).こういった現象の説明として,ヒト苦味受容体T2R38がグラム陰性細菌が分泌するアシルホモセリンラクトン(AHL)クオラムセンシング分子を検出するため,上気道の自然防御の重要な役割を果たすことを観察した研究がある14).その結果スーパーテイスターは,ノンテイスターと比較して,免疫調節宿主防御ペプチドの発現が高いことにつながっている可能性がある15).実際スーパーテイスターはノンテイスターよりも慢性副鼻腔炎を発症する可能性が低く,気道上皮の細菌バイオフィルムの形成も少ない16).口腔での自然免疫応答におけるT2Rの関与はごく最近になって解明され始めている.最近の研究では,苦味受容体T2R14がう蝕原性ミュータンス菌のクオラムセンシング分子を検出し,歯肉上皮細胞における自然免疫応答を媒介することや17),T2Rやその下流の伝達分子を欠くマウスでは細菌量が増加し,細菌多様性が減少すると共に細菌叢の病原性が高まり,歯槽骨喪失が促進されることが報告されているが,これは味細胞と同様に化学物質を感知するsolitary chemosensory cellsという感覚細胞を介した抗菌応答が口腔の健康維持に重要な役割を果たしていると考えられている18).
このように先天的にT2Rを介する味覚感受性が低く,口腔内細菌の種類や量が病的になりやすい人はどうすれば良いのだろうか.やはりまずは機械的清掃や含嗽で細菌を減らすことが重要になってくる.舌苔を除去する際に,不適切な舌ブラシの使用法や歯ブラシでの強い力による舌清掃で,舌粘膜の荒れを起こしたり舌痛を惹起する可能性がある.複数の文献を調査した研究では,1日に1~2回,50 gから100 g未満の圧力で,擦過回数は10回程度が多くの文献で用いられていると報告された19).しかし個人で口腔内環境が異なるため,歯科医療専門職の指導を受けるのが良いと考える.特に高齢者では唾液が減少して口腔乾燥になりやすいため,多量の舌苔がある場合は保湿剤などで濡らしながら,舌ブラシやスポンジブラシで徐々に清掃を進めるのが良いとされている20).実際舌清掃により,基本味に対する閾値の低下が報告されており21),特に塩味は複数の報告で有意な改善を見せている22,23).
高血圧患者の塩味閾値は健常者よりも有意に高いことが報告されており24),甘味の味覚閾値も糖尿病患者は健常者より高いことが報告されている25).疾患と閾値の間でいずれが原因かについて議論の余地があるものの,味覚閾値が改善されなければ,投薬などを進めてある程度血圧などを適正値にコントロールできたとしても根本的な治癒は望めないだろう.すなわち,習慣的に調味料を多めに使用して,濃い味を好むことがリスクになる.そこで,健康な対象者の味覚と食事内容との関連を知る必要がある.健康な成人59名の調査では,塩味に対して低感受性の対象者は,感受性の高い対象者よりもパンや塩味の焼き菓子,飽和脂肪を多く含む製品,ソフトドリンクをより多く摂取していることや,甘味に対して低感受性の対象者は,感受性の高いグループよりもお菓子やデザートをより頻繁に摂取していると報告された.さらに,苦味に対して感受性の高い対象者は,低感受性の対象者と比較して,総エネルギーおよび炭水化物摂取量が多かったことが示された12).最近このような研究は増えており,東京都の中学校1年生の生徒79名(男子:47名,女子:32名)を対象とする研究では「清涼飲料水を毎日飲みますか」という質問に対し,「毎日飲まない」と回答した者では甘味感受性低下者は認められず,「毎日飲む」と回答した者では16.7%が甘味感受性低下者であり,有意差が認められている26).同研究では塩味についても,濃度の薄い塩味を認識できなかった者は,薄い濃度の塩味を認識できた者に比べ,食事中の食塩相当量が有意に高い事を報告している.脂肪酸の味覚についてはどうだろうか? 高脂肪食(脂肪含有量>45%)と低脂肪食(脂肪含有量<20%)を4週間にわたって摂取するランダム化クロスオーバー食事介入試験では,肥満ではない対象者の低脂肪食摂取期間後に脂肪酸(オレイン酸)に対する味覚感度が増加し,高脂肪食摂取期間後には低下した27).また同じ研究グループは,69人のオーストラリア人女性(平均年齢41.3歳)の最近1週間の総エネルギー摂取量に対する脂肪摂取の割合とオレイン酸の感受性が関連し,脂肪摂取の割合が多いほど感受性が低いと報告した28).筆者らは体重20~30 gのC57BL/6マウスに対し,人工甘味料の2 mM Saccharinまたは,0.3 mM SC45647を蒸留水代わりに与えたところ,いずれも2週間後には有意な感受性低下が見られた29).他の味についても,まだ動物の数は少ないが同様の結果を観察している.
前述のように脂肪酸の口腔内での閾値(検知閾値)も,他の味覚と同様に変動する.未だ脂肪酸の口腔内感覚は触覚のみであると考える研究者も存在するかもしれないが,最近筆者らの研究で,舌咽神経領域では長鎖脂肪酸が甘味とうま味の味細胞を活性化することを示すデータを蓄積している.脂質は分解されて味覚器を刺激する.脂肪=トリアシルグリセロールはヒトにとって無味で,げっ歯類でも味覚神経に脂肪酸応答を引き起こさないが,筆者がマウスでそれを舌に与えると数十秒後に応答が観察できたことや,ヒトでもリパーゼ阻害薬によってトリオレインの検知閾値が増加した報告から唾液リパーゼが機能していると考えられる30).げっ歯類の味蕾の細胞で発現する長鎖脂肪酸の受容体cluster of differentiation 36(CD36),G-protein-coupled receptor(GPR)40,そしてGPR120のうち,ヒトの舌はGPR40を欠くと思われる.筆者らが舌の前2/3の味覚を伝える鼓索神経の単一線維におけるリノール酸とオレイン酸応答を記録したところ,5基本味に応答しないがこれらの脂肪酸にのみ応答を示す神経線維を含む,脂肪酸に最大の応答を示す神経群(F-type)が全体の約17.9%を占めていた.また,多くの甘味応答神経(S-type)とうま味応答神経(M-type)も脂肪酸に応答した.GPR120を発現しないGPR120ノックアウト(KO)マウスではこのF-type神経は激減し,全体の約4%だった(図1).味覚嫌悪学習を用いた行動実験でGPR120-KOマウスは,リノール酸とグルタミン酸の区別が難しくなっていたことから,脂肪酸の味覚情報はGPR120とF-type神経を通じて,他の味覚との弁別に役立っていることが示唆された5).それではヒトで実際にGPR120が口腔内で引き起こす感覚は何か? 油脂にGPR120のアゴニストTUG891を添加すると,「脂っこさ」が増加すると報告されている31).従ってF-type神経の役割はこういった感覚を伝えることかもしれない.興味深いことに筆者らの研究で,ヒトがオレイン酸溶液を口に含んだ時に,多くの対象者が不快感を訴える.これについてもGPR120との関連を調査したいと考えている.一方,マウスの舌咽神経では,F-typeは正常型マウスで10%,GPR120-KOマウスでは2%程度となるが,S-typeとM-typeの脂肪酸応答はGPR40とCD36を介して起こり,脂肪酸が好ましい味になるといったデータを現在蓄積している(図1).従って脂肪酸には味があり,特に舌後方で感知した味が食事を楽しいものにしている可能性が高い.受容体ごとに機能が異なる可能性は,今後も追及していく予定である.

脳相反応は食物を消化管に飲み込む以前の感覚(視覚,嗅覚,口腔感覚,味覚)による消化管反応やホルモン分泌で,栄養の吸収前に素早く消化管が働きだすことを示す(図2).脂肪酸に関しても脳相反応の研究が増えてきている.口腔内の刺激(sham-feeding)のみで血糖の上昇を介さずにインスリン分泌,血中トリアシルグリセロール濃度上昇を起こす32).血中トリアシルグリセロールに関しては脂肪の割合が多いほど,また1価より多価不飽和であるほど口腔内刺激が有効であると報告がある.Glucagon-like peptide(GLP)-1は脳相だけで検出できたとする研究と否定的な研究があり,賛否両論状態なのでさらに検討が必要であるが,摂食と組み合わせて効果が増加すると考えられている.Pancreatic polypeptide(PP)については炭水化物食よりタンパク質や脂肪を含む食の方が強力な脳相分泌を起こすことが確認されている33).これらは満腹感に繋がり,適切な食調節には欠かせない.一方,摂食促進胃ペプチドのグレリンは口腔内の脂肪刺激後に摂取した場合,摂取のみの場合と比べて低濃度となったため34),食欲を抑えるために口腔内で脂肪を受容することは重要と言える.

PP: pancreatic polypeptide, GLP: glucagon-like peptide, CCK: cholecystokinin.
また,高脂肪食sham-feedingによる刺激で,それを摂食した時と同様のエネルギー消費が1時間後に見られたという報告もある35).受容体を特定して脳相分泌を見る研究として,リノール酸の口腔内刺激によって放出される胆汁酸はCD36-KOマウスで消失することから,CD36の脳相反応への関与が報告されている36).GPR120については,そのアゴニストTUG891でマウスの舌を刺激するだけで,cholecystokinin(CCK)とGLP-2の血中濃度が上昇し,low density lipoprotein(LDL)が低下したことを報告した37).以上の2つの研究では確実にF-typeとGPR120による情報が関与すると考えられる.味覚の感受性が低下することは,上記の脳相反応が不十分になることで,満腹感の発現の遅れから食べ過ぎにつながる可能性や,胃腸の働きが弱っている人の栄養摂取を妨げる可能性につながる.
2022年に脂肪の嗜好に関与する脳腸間の回路がZukerらのグループによって論文発表され38),GPR40とGPR120が腸における脂肪のセンサーとなっており,その信号を伝える迷走神経はtransient receptor potential ankyrin 1(TRPA1)受容体を発現しており,これらを遺伝子レベルでブロックすることで食後の脂肪に対する嗜好が形成されないことが報告された.興味深いことにTRPA1発現神経は,他の栄養素の情報を伝える神経とは全く別群であった.口腔内からの味覚におけるF-typeがTRPA1を発現しているかはまだ検討していないが,口腔内の味覚と,消化管の栄養センシングを行う細胞は大変似ているため,相互で参考にしながら研究を発展させていくことは大変有意義であると考えている.
開示すべき利益相反はない.